それはほんの数週間前。元Arcade FireのBrendan Reedと、元UnicornsのAlden Pennerが結成したCluesというバンドについて調べようと、リリース元であるConstellationのウェブ・サイトを訪れた時のことでした。

Cluesの隣に並んだ“Elfin Saddle”なるアーティストのなんとも毒々しいジャケットが目に留まり、「どれ、一口だけ味見してみよう」と、彼らのMySpaceを訪れたのが運のツキ。日本語と英語が不思議な斑模様を描く彼らの音楽に、すっかり病みつきになってしまったのです。

日本出身の本田エミさんが歌う、童謡のように懐かしい歌詞とメロディ。もしかしたら、ここのところイギリスのトラッド・フォークを熱心に聴いていたせいでしょうか。彼らの音楽を聴いていると、「もしもSteeleye SpanやIncredible String Bandが日本にいたら?」という妄想が、現実になったような気さえしてきます(メンバーのお二人が“トラッド声”なのも、少なからず影響しているかもしれません)。

というわけで、早速エミさんとそのパートナーであるジョーダンさんに、いろいろと訊いてみました。
見かけはすごく悪いけど、とっても美味しいんだ

──Cluesとの合同アルバム・リリース・パーティーはいかがでしたか?

エミ
 全員(Cluesも含めて)ものすごく緊張してました。Ukranian Federationという古い教会だった建物で、そこで演奏できること自体がすごく嬉しくて。お世話になったレーベルの皆さんや、雨の中集まってくれた500人以上の観客に良いものを見てもらいたくてかなり意気込んでたんですけど、1曲目でアコーディオンのストラップがちぎれてステージ上で直すことに…。でもこのアクシデントで少し緊張がほぐれたかもしれません。私たちがモントリオールに引っ越した3年前の夏、Cluesの原型の二人(Brendan Reed とAlden Penner)と一緒に友達のアパートでライブをしたんです。その時からなんだか今まで縁が続いて、同じ日に同じレーベルから素敵な会場でアルバムを発表することになって、それがとっても感慨深かった。良いリリースパーティーでした。

──エミさんはいつごろカナダにやってきて、どうやってジョーダンさんと知り合ったのでしょう?

エミ
 私がカナダに来たのは98年の夏で、ビジュアル・アートの制作と展示が主な目的でした。ジョーダンとはアートを通して顔見知りになり、その後私がギターを弾く人を探していた時に連絡をしたのが、一緒に音楽をやり始めたきっかけです。

──お二人ともヴィジュアル・アーティストとして活躍されていますが、どのようにお互いの活動に興味を持って、エルフィン・サドルを結成することになったのですか?

エミ
 なんだか似たような作品を作る人がいる、と共通の友人から聞かされていたので、初めて作品を見たときは嬉しかったです。自分と似た感覚を持つ人に出会えて。今ではコラボレーションをすることが多いので、お互いの長所を取り込み合いながら制作しています。コラボレーションを始めた当初はアートと音楽を切り離して活動していたんですが、今はだいぶん境がなくなってきていると思います。

──エルフィン・サドル以前の音楽的なキャリアについて教えてください。

ジョーダン
 ベッドルームとか、自分の暮らしてきたいたる所で、数年間ホーム・レコーディングをしていたんだ。(ヴァンクーヴァー諸島の)ナナイモにあるBlackball recordsっていうレーベルからテープ作品をリリースして、時々ショウをしていたね。エミも僕と会う数年前から、曲作りをしていた。僕らはヴィクトリアで一緒にショウをするようになって、Sound Storiesっていう僕のプロジェクトにエミが参加することになったんだ。エルフィン・サドルになる以前にも、ヴィクトリアで何枚かアルバムをレコーディングしているよ。

──“エルフィン・サドル”は“ノボリリュウタケ”というキノコの英名ですが、ご自身の作品にキノコや枯れ葉、ゴミといった天然の素材をよく使われるのはなぜですか?

エミ
 二人ともきのこ狩りが趣味なので…森に入ると自然のいろんなプロセスを見ることができます。木が育って、葉を落とし、倒木が土に還っていく様子を目にして街の生活に戻って来ると、いかに人間の作り上げるものが自然界の分解と再生のサイクルから外れているか、ということに愕然としてしまいます。人間の生活だって自然のサイクルの一部であるべきなのに、と思います。だから身近にある自然界のものと人工物を使って、その関わりのあり方を示す作品を作っています。

ジョーダン 僕らは二人とも、自然とその変化の過程にインスパイアされているんだ。それは日々の糧となり、人間を育んでくれるものなのに、ほとんどの人がその事実に気づいていない。僕らがモントリオールにやってきた時、自然が道の脇に押しやられて、人間の押しつけたゴミの間でもがき苦しんでいるのを見て、うんざりさせられたんだ。森や海岸がもっと生き生きとしていて、そこを探索しながら過ごしたヴィクトリアでの生活とは、全く違っていた。僕らはその頃野生のキノコに魅了されて、食用のキノコを集めるようになったんだ。エルフィン・サドルは僕らがよく見つけた、お気に入りのひとつなんだよ。黒っぽく捻れていて、見かけはすごく悪いけど、とっても美味しくて、牛肉みたいな味がするんだ。調理するときに出る煙は体に悪いから、吸い込まないように注意しなくちゃいけないけど、ひとたび調理したら、すごく美味しいよ(試す前に良い本を用意して!)。

──レコーディングに使われている楽器はどれも古くて風変わりなものばかりですが、どのように集めたのですか?

エミ
 たいていは家にあったもの(屋根裏で見つけたウクレレや空き缶、なべのふた)やルームメイトの残していったもの(ドラム、スタンド、シンバルなど)、またはセカンドハンドで買った楽器(ギターやアコーディオン)です。小さなドラムセットは、必要最小限のものだけを組み合わせて作りました。

──エミさんのメロディと歌詞は、日本の童謡やおとぎ話を思わせるのですが、曲作りの際はどんなことをイメージしているのですか?

エミ
 新しいアルバムには日本風味の歌が数曲あります。特に和風のものを作ろうと努力したわけではなかったんですけど…民族音楽が好きなので、日本民族ってことで。自然にできた感じです。曲のイメージはそれぞれで違いますが、書く時にははっきりとした映像が頭にあります。それを聴く人の頭にも投影できればいいなあと思いながら演奏してます。

Elfin Saddle - Temple Daughter


──その他にインスパイアされた音楽はありますか?

ジョーダン
 僕らはどちらも本物のフォーク・ミュージックにインスパイアされているんだ。農家や村人、漁師、プロフェッショナルじゃないミュージシャンたちの作った音楽にね。魂がこもっていて、ちっとも商業的じゃないっていう点で、そういう音楽はいつも僕の胸を打つんだ。特別なものや、クールなものになろうとするんじゃなくて、普通の生活の中から湧き出てくる音楽だからね。

──エミさんは日本語で、ジョーダンさんは英語で歌うという形態を取っているのはなぜでしょう? 英語圏の方々の反応はいかがですか?

エミ
 日本語のほうが自分の言葉や声質にしっくりくるので。でも特に歌詞は日本語と決めているわけではなくて、曲調に合えばなんでもいいんじゃないかと思ってます。「ら」と「り」だけの曲もあるし。こちらでは日本語を音として楽しんでくれる人がだいたいだと思います。

──Constellationと契約したきっかけは?

ジョーダン
 Sandro PerriっていうConstellationのアーティストと一緒にショウをした後で、(共同設立者)のDonがやってきて、僕らに興味を示してくれたんだ。その後すぐ会うことになって、彼らがずっと僕らを観てきたことを話してくれた。それがうまくいって、アルバムのレコーディングが始まったんだ。

──本作では(Sufjan StevensのAsthmatic Kittyに所属するバンド)Shapes and SizesのNathan Gageがダブル・ベースとチューバを弾いていますが、彼とはどうやって知り合ったのですか?(※ちなみに、Broken Social SceneやArcade Fireの作品で知られるJessica Mossもヴァイオリンで参加)

ジョーダン
 モントリオールのミュージック・シーンは、いたるところで繋がってるんだ。ノイズ・バンドやダンス・バンド、ロック・バンド、フォーク・バンド、もしくはその中間層だったり、いろんなバンドでプレイしている友達がいる。僕らの住んでいたカナダの西海岸、ヴィクトリアからモントリオールにやってきた人たちもたくさんいるんだ。Nathanは僕らと同じ頃ヴィクトリアに住んでいたんだけど、モントリオールにやってくるまでは、関わることがなかった。彼はモントリオールで小さなレコード店を経営していて、大まかに言えばそれが彼と知り合ったきっかけだね。

──あなたたちの音楽はトクマルシューゴやウリチパン郡といった日本のアーティストとも共通する点があると思うのですが、誰か好きな日本のアーティストはいますか?

エミ
 ウリチパン郡はMySpaceをうろうろしてた時に辿り着いて聴いたことがあります。日本のバンドではないけれど二人ともDeerhoofが好きです。私が一番よく聴くのは戸川純さん。

──音楽以外のエルフィン・サドルの活動には、どんなものがありますか?

エミ
 アートときのこ狩り。

──まもなくSunset Rubdownとのツアーが始まりますが、意気込みを聞かせてください。

エミ
 Sunset RubdownのSpencerとは長い付き合いでいつもよくしてもらっているので、ツアーもきっと楽しいものになると思います。Sunset Rubdownとのツアーのあとは、バンクーヴァーのパウエル・ストリート・フェスティバルに参加し、秋はもしかしてCluesとヨーロッパ・ツアー。来年はユーコン州のドーソン・シティーで1ヶ月間のアーティスト・レジデンシーを行うことが決まってます。日本でもツアーができたらいいなぁとジョーダンといつも話してます。いつか実現しますように。


ELFIN SADDLE
Ringing For The Begin Again
(Constellation)

MySpace - Elfin Saddle