ロサンゼルスで活動するミュージシャン、Blake MillsことBlake Simon Millsは、同じ高校に通っていたTaylor Dawes Goldsmithと一緒にSimon Dawesというバンドを結成し、19歳の時にファースト・アルバム『Carnivore』をリリースしている。そのレコーディングでベテラン・プロデューサーのTony Bergや、のちにGrizzly BearやThe War On Drugsを手掛けるエンジニアのShawn Everettと出会ったのが、彼の運命を変えることになったのかもしれない。

ほどなくしてバンドを脱退したBlakeは、名刺代わりのつもりだったというソロ・アルバム『Break Mirrors』を2010年にリリースすると、Tony Berg同様、プロデューサー兼セッション・ギタリストとしての道を歩んでいくことになる。その後2015年にリリースされたAlabama Shakesの『Sound & Color』、2016年のJohn Legend『Darkness And Light』という2枚のアルバムでグラミー賞のプロデューサー・オブ・ザ・イヤーにノミネートされ、名実共にトップ・プロデューサーの仲間入りを果たした彼が、先日4作目のソロ・アルバム『Mutable Set』をリリースした。

そんなBlake Millsとは、一体どんな人物なのだろう。残念ながらインタビュー後に参加が判明したBob Dylanの新作『Rough and Rowdy Ways』について聞くことはできなかったが、ギタリストとしてもWeyes BloodやPhoebe Bridgersといった近年の重要作に参加している彼の、貴重なインタビューをお届けしよう。

たぶん近所の人たちは、このちいさなサーフ・ショップは
どうしていつもJackson Browneのレコードを爆音でかけてるんだ?
って不思議がってたと思うよ!


──あなたの最初のバンド、Simon DawesのアルバムをプロデュースしたTony Bergの娘のZ. Bergは、(Elvis Costello & The AttractionsのPete Thomasの娘の)Tennessee Thomasと一緒に、The Likeというバンドを組んでいましたよね。当時The Likeのツアー・マネージャーをしていたのがBeachwood SparksのFarmer Daveだったと思うのですが、こうしたことが繋がって、彼やDanielle Haim、Ethan Gruskaの姉のBarbara Gruskaと一緒にJenny Lewisのツアー・バンドに参加することになったんでしょうか?

いや、時系列としては少しずれてるね。でも基本的に、それも大きな音楽コミュニティの中で、プロフェッショナルとして、創造的、社会的に惹かれ合う者同士にとっては、些細なことだと思うんだ。


0:49ぐらいにBlake Millsの姿が


──自分はBeachwood Sparksのファンなんですが、彼らの2012年のアルバム『Tarnished Gold』に、あなたの名前がありました。どこで何を演奏していたんですか?

Farmer Daveがそこに誘ってくれたんだけど、「Orange Grass Special」って曲でちょっとギターを弾いてるよ。



──そのBeachwood Sparksのアルバムには「Mollusk」という曲も収録されていましたが、あなたがロサンゼルスのMolluskというサーフ・ショップで定期的に行っていたというジャム・セッションは、どのぐらい続いていたんですか? Jackson BrowneやSarah Watkins、Fiona Appleとセッションする映像も残されていますが、彼らともそこで出会ったんでしょうか?

2008〜2015年頃にそれをやってたんだ。Molluskでの夜の参加者はみんな、僕の友達だった。ある時は、3、4人が近くにいてお店で演奏できないかと思いながら、12人ぐらいに一斉にメールを送りつけるんだけど、たいていは12人全員が返事をくれて、「何時から?」みたいな感じだった。それで満員になっちゃうんだ。普段は観客も呼ばないんだけど、営業してるお店だから、ドアは開けていた。たぶん近所の人たちは、「このちいさなサーフ・ショップは、どうしていつもJackson Browneのレコードを爆音でかけてるんだ?」って不思議がってたと思うよ!



──Alabama Shakesの『Sound & Color』をプロデュースすることになったきっかけは何だったのでしょう? それまでのちいさな友達の輪とは違いますし、あなたにとっても大きな飛躍だったと思うのですが、グラミーのノミネートの他に、あの仕事はあなたに何をもたらしましたか?

単純に、お互いの音楽のファンだったことから始まったんだ。彼らは僕のファースト・アルバムのサウンドに基づいて、プロデュースを打診してきたんだと思う。彼らは世間からの“クラシック・ロック”・バンドという認識に挑戦するようなものを作りたがっていた。僕は素晴らしい直感と演奏力を持ったバンドにとって、それが何を意味するのか可能性を追求したかったんだ。僕はアーティストと一緒にリスクを冒すのが好きで、しばしば芸術的表現と商業的な成功の排反事象についての議論に陥ってしまう。芸術はそのどちらにもなれるのだろうかってね。『Sound & Color』はこうした主張を無効にする、好例のひとつだと信じている。それはユニークで創造的な表現の価値を、人々に信じさせてくれたんだ。



──Sky Ferreiraに提供した「Sad Dream」が、『Mutable Set』でも共作しているCass McCombsとの最初のコラボレーションですか? あの曲はどのように生まれたのでしょう?

あれがCassと書いた初めての曲だったけど、彼とコラボレートしたのは初めてではなかったよ。2010年代に、1年ぐらい彼のツアー・バンドでギターを弾いていたんだ。「Sad Dream」は、SkyやCassと仕事する機会が来る何年も前に書いていた曲で、当時はまだバンドでの作曲を除けば誰かと共作することに慣れてなかったんだけど、僕はSkyと出会って、何か一緒に新しい曲を書いてみようということになった。何度か失敗した後で、僕は彼女に「Sad Dream」を提供することになったんだ。僕は自分でそれを録音して世に出すよりも、誰か他の人の中に、居場所を見つけてほしいと考えたんだと思う。他のアーティストのものにしてもらって、それを演奏してもらうことで、曲に命が与えられたんだ。



──2018年にリリースされたミニ・アルバム『Look』のジャケットと裏ジャケットからは、Talk Talkの『Spirit of Eden』と『Laughing Stock』を連想しました。偶然でしょうか? それともTalk TalkのMark Hollisからは影響を受けていますか?

僕の主な目的はBruce Cohenの絵を使うことで、それは『Look』に収録されているような音楽が存在する、独自の場所を喚起させてくれるんだ。同時に、ECMやWindham Hillのレコードの、殺風景さについても考えていた。だけどTalk Talkのアルバムのデザインも間違いなく僕が意識していたもので、ちょうど同じようなことを考えていたし、僕はMark Hollisと、(Talk Talkのプロデューサーの)Tim Friese-Greenの大ファンだからね。


Blake Mills - Look (2018)


Talk Talk - Spirit of Eden (1988)


──『Look』のジャケットのポピーの花は『Mutable Set』のジャケットにも登場しますが、これは基本的にEmilio Villalbaの「Up at the Homestead」という作品に手を加えたものですよね。ジャケットに描かれているモチーフはアルバムの曲の歌詞にも登場しますが、どんなことを表現したかったのでしょう?

気づいてくれてありがとう! その、あのポピーは、『Look』から『Mutable Set』への連続性を象徴してるんだ。(2014年のアルバム)『Heigh Ho』のアートワークは、音楽の舞台を整えるためにレコーディング・セッションからの写真を使っていたけど、今回のアルバムはもっとシュルレアルな感じがしたから、物理的なスペースのほうが、もっと暗示的だと思ったんだ。


Blake Mills - Mutable Set (2020)


──連続性という話が出ましたが、『Look』で使っていたのと同じヴィンテージのギター・シンセを、『Mutable Set』でも使っているのでしょうか? もし『Look』が実験だったとしたら、そこでの発見は『Mutable Set』でどのように生かされていますか?

『Mutable Set』でもギター・シンセを少し使ってるけど、全体ではないんだ。間違いなく『Look』とは違う。もっとオーケストラっぽい使い方で、他の何かを助ける役割をしてるんだ。「Mirror Box」がその良い例だね。



──では、ギター・シンセを使ったアルバムで好きなものはありますか?

それを使っているアルバムにはそんなに詳しくなくて、存在することは確かだし、少しは聴いたことがあるのも確かだけど、新鮮な気持ちでギター・シンセにアプローチしたかったんだ。だけど基本的には僕のプロセスも他の人たちと一緒で、頭の中で鳴っている音を聴いて、それから違った楽器で、その音を再現しようと実験してるんだよ。

──ほとんどの曲で、いわゆる普通のドラム・セットは使われていませんが、これにはどんな意図があったのでしょう?

僕はリズミックな意識を持って曲を演奏していたし、その上で各々のミュージシャンも、明確なリズムの個性を持っていた。リズミックな感覚を、普通のドラム抜きでも容易に受け取ることができると思うし、ある意味ではドラムを使うことで独裁的になってしまうというか、過剰に定義されることで、曲の独自性が失われてしまうこともあると思うんだ。

──「Eat My Dust」でのピアノはエチオピアの音楽を思わせますが、これは他の曲で弾いているAaron Embryではなくて、あなたが弾いているんですよね?

そう、あれは僕がひとりの時に弾いたんだ。さもなければ、Aaronが素晴らしい演奏をしてくれたと思うけどね。エチオピアっていうのはわかるな。あの演奏はEmahoy Tsegue-Maryam GuebrouやMulatu Astatkeが弾いているのを想像できるからね。蝿や蝶のように聴かせたかったんだ。



──今回のアルバムではそこまでギターに比重を置いていないのかもしれませんが、あなた自身が選ぶ、セッション・ギタリストとしてのベスト・パフォーマンスがあれば教えてください。

セッションで演奏するのが好きなのは、曲そのものに集中できるからなんだ。曲に自分を捧げている時のゴールは、歌っている人に感じてもらうことで、リスナーに聴いてもらうことではないから。

──アマゾン・プライムのオリジナル・ドラマ『Daisy Jones & The Six』のために、あなたがPhoebe BridgersやChris Weismanと作っているという音楽について教えてください。

僕は『Daisy Jones & The Six』シリーズのすべての音楽の作曲とプロデュースを手掛けていて、際立った個性を持っているPhoebeやChrisのようなソングライターたちと作業するのは、素晴らしい経験だよ。楽しいのは、架空のキャラクターのために書いた曲を、リアルに感じさせるところ。僕はこのショウの音楽をありきたりな、話に沿ったものにはしたくなかったし、僕と作業しているのはみんな、そういう曲作りはできない人たちだと思うんだ。

──あなたとTony Bergが、今回のアルバムもレコーディングしたSound City Studiosを引き取ったというのは本当ですか? Perfume GeniusのMike Hadreasが、彼やPhoebe Bridgers、Ethan Gruskaがみんな同じ時期にレコーディングしていたと話してくれたのですが、どんな状況だったのでしょう?

Tony Bergと僕は2017年、2つのメイン・ルームの長期レンタル契約をした時に、Sound City Studiosを引き取ったんだ。僕らの夢は、この絶え間なく広がっていく音楽コミュニティのための、本拠地のように感じられる環境を育てることだった。スタジオの歴史、さらにはそのサウンドはその門を潜ったすべての人たちをインスパイアしてきたし、なおかつ僕らが持ち込んだホーム・スタジオのような雰囲気は、商業的なスタジオの環境とは趣を異にしていると思う。僕らはどちらも、今の時代において大きなレコーディング・スタジオを維持するだけでも、どれだけ運が必要か理解しているし、とんでもなくラッキーだって思ってるんだ。