カナダのアート・ロック・バンド、Braidsのフロント・ウーマンであるRaphaelle Standell-Prestonは、バンドのファンでもあるChvrchsのLauren MayberryやEmpress OfことLorely Rodriguezと並んで、音楽界の女性蔑視と闘い、声を上げ続けた来たひとりだ。

前作『Deep In The Iris』に収録されていた「Mini Skirt」は、そんな女性たちにとってのアンセムになったが、その一方で白人である彼女たちが、意図せずして不公平や差別に加担しているのかもしれないという疑念は、バンドの基盤を根底から揺るがすことになる。

そんな彼女たちを救ったのは、偶然モントリオールに引っ越して来てメンバーの運営するスタジオを借りることになった元Death Cab For CutieのChris Wallaによる、こんな言葉だったという。

「怒ったっていいんだ。君がそうするべきだと感じたなら、避けなくたっていいんだよ」

こうして完成したのが、Chris Wallaを共同プロデューサーに迎えた5年ぶりの新作『Shadow Offering』であり、そのリード・シングルとなった、9分間にも及ぶ大作「Snow Angel」だ。過去のトラウマや気候変動、人種差別といった問題、そしてそれに加担してしまうことの罪悪感を吐き出すように歌ったこの曲で、彼らはファースト・アルバム以来真剣にギターという楽器と向かい合い、バンドを解体/再構築している。

そんな「Snow Angel」の日本語対訳付ミュージック・ビデオが公開されたので、アルバムについてのメンバー3人のインタビューを読みながら、ぜひその音楽と言葉に耳を傾けてほしい。




僕らは自分たちの人生の影、内側の深い部分にある
美しくて時に恐ろしいものに手を伸ばし
それを音楽に変えて世界に返している


──2016年にEP『Companion』、2018年にシングル「Collarbones / Burdock & Dandelion」をリリースしてはいますが、本作『Shadow Offering』はアルバムとしては5年ぶりになります。どうしてこれだけ長くかかったのでしょう?

Taylor Smith 新作に対しては、忍耐強くあろうと意識して、実験と成長のための隙間を与えようとしたんだ。以前のアルバムは急き立てられながら作曲や録音をしていて、最初に書き上げた10曲がアルバムになって、それからまたツアーに戻っていた。グループとして、僕らには新しいことを試したり、新しい手段やサウンド、楽器、ソングライティングを見つける時間が必要だと感じていたんだ。僕らは成長して20代後半に差し掛かっていて、4枚目のアルバムの作業を始めようとしていた。それは新しい感情の視点や、新しく没頭できること、活力を見つけるための時間だったんだ。

クリエイティヴな面での成長のほかにも、家庭での生活を見直したいという欲求があった。ツアーにしろ新作の録音にしろ、僕らは成人してからの人生のほとんどを、家から離れて過ごしていたからね。すべてが美しい激動の時間だったけど、僕らには休息や、家庭生活の単純な喜びを楽しむ機会が必要な時が来たんだ。定住するアパートや古い友達、クッキングやガーデニング、季節なんかをね。

音楽の作業は毎日していたけど、必ずしもBraidsに集中していたわけじゃなかった。Raphaelleは彼女のダンスフロア・プロジェクト、Blue Hawaiiとして2枚の傑作をリリースしたし、Austinと僕はエンジニアとミキシングの技術を磨いて、地元モントリオールのアーティストとコラボレートしていた。 その一方でBraidsのアイデアも成長し、拡がり続けていて、何ヶ月にも渡って僕らは30近い曲や、数え切れない未完成のアイデアを書き上げたんだ。

確かに、僕らは時々見失うこともあった。実験することや、新しい曲をスケッチすることは得意だけど、それを終わらせる方法を忘れてしまったんだ。そこへアルバムを共同プロデュースしたChris Wallaが優雅に僕らを救いにやってきて、僕らがこうしたアイデアを議論しながら、レコードにするのを助けてくれたんだ。9週間かけて僕らはモントリオールのスタジオで9曲を録音して、続く1ヶ月でミックスした。のんびりした散歩で始まったものが、終わりに向かうにつれて競争になって、締め切り前には文字通り徹夜の連続だったよ。

この格言が真実だったらいいんだけど、「良いことは待つ人のところにやってくる」ってね。

──新作はエレクトロニック寄りだった過去作と比べると、よりロック・バンドっぽく聴こえます。これは意識的だったのでしょうか?

Taylor 意識していたかと言われればイエスだけど、故意だったかと言われたらノーだね。パレットの変化は、場所と環境の変化と一致していたんだ。

2016年、僕らはふさわしい時期にふさわしい場所にいて、モントリオールの古い倉庫の中にあるレコーディング・スタジオを、引き取る機会を与えられたんだ。その部屋は広々としていながら同時に居心地が良くて──ピアノやオルガンやアンプを置くのに、充分なスペースがあった。 オーガニックだったり、アンプで増幅された楽器が輝く部屋だったんだ。ひとつのきっかけが次に繋がって、僕らはギターやアコースティック・ドラム、ピアノに手を伸ばすようになった。

『Flourish // Perish』と『Deep In The Iris』の初期のデモの多くは、ツアー車の後部座席に座りながら、ラップトップで書かれたものだった。持っている物、その当時は電子楽器とソフトウェアを使ってね。『Shadow Offering』では、環境の変化の結果として、そのパレットが広がっていった。

それからChris Wallaと、彼の影響についても触れないとね。彼は10年にも及んで素晴らしいアルバムをプロデュースし続けてきて、その多くはギター主体のものだった。僕らはみんな、もっと“エレクトロニック”なアルバムを作ろうとしていたんだけど、Chrisは僕たちをギターのほうへとそっと押してくれて、彼の専門知識は、その楽器に向かって真っ正面からぶつかっていくことへのためらいを、吹き飛ばしてくれたんだ。

こうしたすべての変化と新しいアイデアが、“演奏”と融合した。以前の作品で、僕たちは音楽を形のない、別世界のようなものにしたかったんだ。今回の曲では、僕らは語り手の向こう側にいる演奏者を感じてもらうこと、そして音楽を地に足の着いた人間のように感じてもらうことに取り憑かれていた。その結果として、僕らはプログラムよりも演奏されたものに、構築されたものよりも、生きて捕らえられたものに惹かれていったんだ。

──あなたたちが外部のプロデューサーと作業したのは、今回が初めてだと思います。どうしてChris Wallaを共同プロデューサーに選んだのですか? 彼がプロデュースした作品で、好きなものがあれば教えてください。

Austin Tufts うん、実際にバンドの外のプロデューサーとコラボレートしたのは、これが初めてだったんだ。Braidsはモントリオールで二部屋あるレコーディング施設を運営していて、幸運なことに僕らがアルバムを作っている頃にChris Wallaがモントリオールに引っ越してきて、スタジオのスペースを僕らから借りることになったから、自然と親しい友達になったんだ。僕らが『Shadow Offering』に入る曲を書いている頃に、彼はスタジオで自分のプロジェクトの作業をしていた。

2018年の春に、僕らはポーランドでいくつかの新曲を観客の前で試してみて、三人で一緒に演奏した瞬間に、それらの曲が持つ形と本能的な力を、アルバムで捕らえたいということがはっきりしたんだ。ツアーから帰って、Chrisこそが僕らのライブの力を捕らえるのに最適な人間だということもはっきりした。彼はスタジオでバンドをライブ録音してきた長い歴史を持っていたし、既に親しい友達だったから、個人的、音楽的な安心感から、彼の前で無防備になることができて、それは僕らが音楽を作る上では重要だったんだ。

だから直感で始まったことが、結果的には深く、実りのある音楽的なコラボレーションに繋がった。Chrisはレコーディングのプロセスに深みと誠実さをもたらしてくれて、バンドとして10年に渡って染み付いていた悪いパターンを打ち破るのを助けてくれたんだ。彼はプロデューサーでもあり、セラピストでもあったね。ハハハ。

Chris Wallaがプロデュースしたアルバムで好きなのは、Death Cab For Cutieの『Plans』と、Foxingの『Nearer My God』かな。

  
(L)Death Cab For Cutie - Plans (R)Foxing - Nearer My God


──本作は、ジャケットにメンバーの写真が使われた初めての作品でもあります。このジャケットと『Shadow Offering』というタイトルで、どんなことを表現したかったのでしょう?

Austin 『Shadow Offering』で、リスナーには音楽の背後にいる人物を聴いてほしかったから、ポートレートをアートワークに入れることが重要だと思ったんだ。アルバムのグラフィック・デザインのために、僕らはTam VuとDylan Bourdeauという、ふたりの才能ある友人と作業した。僕らはアルバムの個人的で親密な側面と同時に、力強く、みずみずしい、広がりのある音楽的な側面を写し出すために、抽象的な自然や花の素材と、自分たちの写真を入れたいと思っていたんだ。ふたつの要素の間には緊張感があって、押し引きと混乱が、美しくて調和の取れた方法で提示されている。タイトルとアルバムのテーマが、パッケージ全体に反映されているんだ。アーティストとして、僕らは自分自身の一部を世界に提供することを選んだ。『Shadow Offering』で、僕らは自分たちの人生の影、内側の深い部分にある美しくて、時に恐ろしいものに手を伸ばし、それを音楽に変えて世界に返している。すべての人生経験が僕らに刻印を残し、僕らはそれを使って出来ることを選んだんだ。


Braids - Shadow Offering (Secret City / PLANCHA)


──「Upheaval II」という曲がありますが、「Upheaval I」というBraidsの曲もあるんでしょうか? もしくは、Mitskiの『Puberty 2』のように、“Second Upheaval(二度目の激動)”という意味だったりして?

Raphaelle Standell-Preston 実際の由来より、そっちのタイトルの解釈のほうが好きだな! 「Upheaval II」は「Upheaval」っていうタイトルの、何度も破り捨てた別の曲から発展してるんだよね。曲作りしている間、スタジオに進行中の作業と仮タイトルを記録するための巨大なホワイトボードがあったんだけど、これは「Upheaval」のセカンド・バージョンだから、自然に「Upheaval II」になって、結局それに落ち着いた。どちらも同じテーマ──人が何かに囚われたり、永遠に同じ悪い行いを繰り返してしまう習慣を激変させたいっていう欲望についての曲。

── アルバムの曲の多くは過去に囚われることについて歌っていて、自分のトラウマを吐き出して解放する、プライマル・スクリーム療法のようです。あなた自身はどう考えていますか?

Raphaelle 確かに、自分でそう考えたことはなかったけど、あなたがそう感じたのはわかる。わたしはこのアルバムは今この瞬間の考察に根ざしたものだと思っていて、「Eclipse (Ashley)」、「Just Let Me」、「Note To Self」といった曲は、書いている間の日々に起こったことからインスピレーションを受けた、ある意味日記のようなものだった。「Upheaval II」、「Fear of Men」、「Ocean」といった曲はちょっと違って、過去について考察したもので、行き詰まったり、過去の瞬間や、うまく飲み込めない決断から、動けなくなったりすることを表現している。わたしにとってのプライマル・スクリーム療法は、歌って叫ぶことかな! 曲を書くことで、わたしは現在と過去の感情を消化できる。それって間違いなくセラピーだし、わたしにとってのカタルシスだから。





──「Snow Angel」の歌詞は必ずしも自伝的ではないと思うのですが、あなたはどんな時に“白人の特権に覆われて”いたり、“酷くなる世界に加担している”と感じますか?

「わたしがただ不公平の存在に気づいただけなの?/生まれたその日から白人の特権に覆われて」

Raphaelle あなたが触れている「Snow Angel」の一節は、白人としてこの肌に生まれることが、この世界の不公平から、いかにあなたを匿うことになるかについての意見なの。多くの白人にとって、自分の特権を認めることや、自分の特権が不公平や差別を助長していると理解することの不可能さと向き合うのは、気まずいことかもしれない。わたしは“世界が酷くなることに自分が加担している”と、毎日のように感じている。この感情が広がっていったことが、わたしにこの曲の歌詞を書かせたの。それは自分の罪の意識を和らげるために、リサイクルしたり古着を買うことも、充分地球を救うための手助けになると納得させていた時期だったけど…わたしは飛行機に乗り続けて、新しいiPhoneを買っていた。人間として今の時代に生きることと、母なる地球を守ろうとすることは、矛盾した行いだよね。変えなくちゃいけない生活様式は膨大で、大企業や政府が方針を変えない限り、無駄に思える。わたしは何か変えられるかもしれないし、変えられないかもしれないという堂々巡りの中にいて…“Snow Angel”はその混乱についての曲なの。

──その一方で、このアルバムは恐れや怒りだけではなくて、最終的に平穏を見つけることについても歌っていると思います。最近はどんな時に安らぎを感じますか?

Raphaelle そう思う。恐れや怒り、でも大部分はそれを理解して、受け入れようとすることについてだから。パンデミックに直面して、最近だと、単純な喜びのなかに安らぎを感じるような気がする。外に散歩に出て顔に太陽の光を感じたり、通りで笑っている子供を見たり。それが大変な苦しみと不安のなかでも、人生は続くんだという安心をわたしにくれるの。