日々の生活のなかの、ちいさな綻び。それは晴天の霹靂か、それとも擦り切れた、布の裂け目か──今年の秋に惜しまれつつも移転するAmoeba Recordsハリウッド店のスタッフでもあったDevon Williamsの6年ぶりの新作『A Tear In The Fabric』は、彼の父親の死と、娘の誕生という出来事を挟んで完成したアルバムだ。

それは同時に、家族を育てながら、音楽を続けることの難しさについても歌っている。80年代ニューウェーヴ/ネオ・アコースティックなサウンドに、DestroyerのメンバーでもあるJoseph Shabasonのサックスと、Ted Boisのピアノが色を添える本作について、Devonがメールで答えてくれた。



「No More Rock 'N' Roll」は
働いて家族を育てるために
ロックンロールのための時間が無くなってしまった
カップルについての曲なんだ


──10年前のこのライブ映像の1曲目に演奏していた曲が、新作に収録されている「For My Memory to Collect」だということに気づいたんですが、1番の歌詞が変わっていますよね。どういった経緯があったのでしょう?



「For My Memory to Collect」の初期バージョンは2009年か2010年に書いたんだけど、単純にうまく行かなかったんだ。ずっと作業し続けていて…ここ何年も、時には他の曲よりもっとね。だけど曲に対する僕の視点も何度か変化して、ほとんど10年経って、曲のポイントも明確になってきた。僕は2011年にロンドンに住んでいて、SOHOで働きながら、自分が何をしているのか理解するのに苦労していた。2017年頃に僕は“時間”と、いかに直線的な人生を過ごすかについて考えてたんだけど、その線から外れることはとても苛立たしい。そこにはいくつもの違う場所や人々、感情が含まれているんだ。

──2年前のこのライブ映像で既に新作の曲をいくつか演奏していますが、この時点でほとんどの曲が完成していたのでしょうか? ミックスに2年もかかったのはなぜですか?



それだけ時間がかかったからだよ! 何曲かのデモがあって、素晴らしいと思ったんだけど、もう少しだけ良く、クリーンでタイトに作り直そうとしたんだ。だけど自分の気持ちはオリジナルのデモに決まっていた。だからオリジナルの感触に戻るまで、作業を続けることにしたんだ。今は曲作りの段階からクリーンで、良くなるようにしているから、これからはひとつの曲にひとつのバージョンしかなくなると思う。丸い穴に四角いネジを嵌めないようにね。

──ところで、この日のライブの「Puzzle」のイントロでElton Johnの「Crocodile Rock」を演奏していますが、これは恒例なんですか?

そのイントロは一度きりだったけど、レコード・ストアのショウで、一曲通しで演奏したことがあるよ。うちの娘がその曲を好きで、いつも歌ってたんだ。それで彼女が2、3歳の時にレコード・ストアのショウに来たから、彼女のために演奏したんだよ。気に入ってくれたみたいだね。それに「Crocodile Rock」はすごい曲だし、みんなあの曲が好きだから。聴くとマペッツのことを思い出さずにはいられないけどね。



──以前と比べると、本作はあなたとNic Hessler、Wayne Faler、Dan Allaireというコア・バンドのメンバーを中心としたサウンドに聴こえます。これについては意識していましたか?

ある意味ね。Alesisの電子ドラムでデモを作ったんだけど、そのキックとスネアのトーンが強烈だったんだ。曲はその強烈なドラム・サウンドから育っていった。それにDanとはしばらく一緒に演奏していて、彼のプレイが好きだったんだ。強力にもメロウにもなれるからね。だから彼がデモ・バージョンから“マシーン”を取り除いて、強烈でリアルにしてくれた。ギターの層も、コアなバンド・サウンドに加えられているね。ほとんどの曲はギターに6トラックを使っている。だからフルに聴こえるとしたら、たくさんのギターが隙間を埋めているからだと思うんだ。

──Destroyerの鍵盤奏者のTed Boisが参加した「Peace Now?」と、サックス奏者のJoseph Shabadonが参加した「Domesticated」での彼らのパートはどちらも短いですが、決定的な役割を果たしていると思います。どうして彼らに頼むことになったのですか?

TedとJosephはどちらも素晴らしいと思う。Tedは『Gilding the Lily』の「All I Have To Do」で驚くようなピアノを、「Who Care About Forever」でもキーボードを弾いてくれた。だから曲に何かが必要だと思ったら、いつでも彼に送ってみるんだ。彼は親切に「いや、この曲に他のパートが必要だと思わないよ」と言ってくれることもある。それも良いんだけど、彼の演奏が好きだから、僕は彼が思いついたことを聴いてみたいんだ。Josephも一緒だね。僕がサックスとキーボードを弾いてくれないか頼んだんだけど、すごく面白いものを考えてくれたよ。



──以前Clifford T. Fordの話をしてくれたので、「A Tear in the Fabric」のラストで彼の曲がサンプリングされていることには驚かなかったのですが、どうして「No More Rock 'N' Roll」という曲を選んだのでしょう?

「No More Rock 'N' Roll」は、働いて家族を育てるために、ロックンロールのための時間が無くなってしまったカップルについての曲なんだ。「A Tear in the Fabric」という曲とアルバムは…自分の優先事項をこなすことについて歌っている。過去を手放すのは辛いけど、同時に毎晩出掛ける興奮を追い求めるような自分も想像できない。だからバランスを見つけようとしてたんだ。「No More Rock 'N' Roll」を最後に入れることで、その問題についての僕の考えに、別の次元を加えることができるような気がした。「Domesticated」もそのことについての別の視点だね。曲全体として、僕の頭の中にあった絵を描けていたらいいなと思うよ。



──プレス資料に挙がっていたFeltやThe Churchといったバンドの名前は、あなたのファンにはおなじみだと思うんですが、Tommy Keeneについてはいかがですか?

Tommy Keeneをそんなに聴いているわけじゃないから、その比較についてはよくわからないんだ。FeltやThe Churchについても、その音楽を知らない人たちには、届いていないような気がする。そのバンドをよく知っている人たちが大ファンだったら、「The Churchが好きなら、これを聴きなよ」って言うんだろうけど、すると誰かがそれを期待して僕を聴くことになる。アルバムを“宣伝”したり、“売る”ために何て言ったらいいのかわからないよ。ヤケクソで、みっともないことになりかねないからね。

──「Borderline」は傑出した曲だと思うのですが、この曲を共作したKurt Feldman(Pains of Being Pure at Heart/Ice Choir/Roman a clef)は、どのような貢献をしているのでしょう?

Kurtには、『Euphoria』と『Gilding The Lily』の何曲かをミックスしてくれたJorge Elbrechtを通じて会ったんだ。僕はIce Choirの最初のアルバムが好きで、彼に「Around In A Maze」をリミックスしてくれないか頼んだ。それで彼と一緒に曲を書いたら楽しいんじゃないかと思ったんだ。これまでに誰かと曲を書いて上手くいったことはなかった。僕が彼に「Borderline」の初期バージョンを送ったら、彼が別のバージョンを送ってくれて、それを僕が少しいじって、アルバムに入ってるものになったんだ。僕が書いたサビはマイナー調だったんだけど、彼がそれをメジャーに変えてくれて、すごく面白いと思ったんだ。



──「Peace Now?」の歌詞に出てくる、ラジオから流れてきたDionの曲というのは、どの曲ですか?

あの曲は、父親と僕についての曲なんだ。父親はCasey Kasemが司会していた、50〜60年代のロックンロール番組のテープをよく聴いていたから。何度も何度もね。僕が初めて好きになった曲が、Dionの「Runaround Sue」だったんだ。



──妻と子供を持つ夫として、「A Tear in the Fabric」や「Domesticated」の歌詞には共感できたのですが、あなたの奥さんが“奥さん嫌いの曲の中でどれが一番好き?”とInstagramにコメントしているのを見て、ちょっと心配になりました。実際に奥さんと娘さんからの反応はいかがですか?

娘は僕が音楽をやってることを知ってるよ。僕がレコードを作ったこともなんとなく理解してるみたい。僕の奥さんは、どの曲も僕が彼女に悪口を言ってるってジョークにしてるんだけど、僕はそういう風には思わない。結婚はややこしいよね。彼女のことは愛してるし、誰かと一緒になって、人生を過ごすなんて驚くようなことだよ。良いことや悪いことを通じて、深い関係を築いていく。確かにこうした曲は困難なことについて話しているけど、それを分け合う誰かがいるってことは、美しいことだとも思う。

──あなたが働いていたAmoeba Musicのハリウッド店が移転してしまうそうですが、どんなことが印象に残っていますか?

音楽とコミュニティだね。まったく新しい音楽や曲の世界を見つけることが、僕の心をフルカラーにしてくれた。それ以前の僕は白黒だったからね。それに僕の仲間たちもそこで見つけたんだ。音楽こそが言語だった。本当に、もうひとつの家族を見つけたような気がしたんだ。



──前作がリリースされてから、何かハマった音楽はありますか?

もちろん、でも前作がリリースされてから、本当にたくさん聴いてきたからね。だけどPearls Before Swineをオススメするよ。僕が好きな曲は「Snow Queen」だね




Devon Williams - A Tear In The Fabric
(Slumberland)


1. Followed Me Back
2. A Tear in the Fabric
3. In Babylon
4. Out of Time
5. Domesticated
6. Deadly Turn
7. For My Memory to Collect
8. Snake in the Grass
9. Borderline
10. Slow Motion
11. Circus World
12. Peace Now?