photo by El Hardwick

彼らは、世界の全てが悪い状況になると予見していたのだろうか──と邪推せずにはいられないタイトル、『Every Bad』と名付けられたPorridge Radioのアルバムは、2015年にヴォーカルのDana Margolinを中心としてブライトンで活動を開始し、デジタルでのリリースやDIYな活動を経た後、名門Secretly Canadianと契約してから初のリリースとなる作品である。

今作に収録されている「Sweet」のミュージックビデオでいきなりDanaが頭を剃りだすシーンは衝撃的だ(最近は朝に半分頭を剃り、残りの半分は昼に剃ったとtwitterで呟いていた)。ラウドで骨太なパンク・サウンドに、繰り返し呪文を唱えるかのように歌う彼女は、激しい感情をぶつけているかのよう。本作品は、彼らが人生で体験した愛や喪失、孤独についての叫びである。

3月31日、Danaに電話インタビューを行い、今の状況やアルバムについて語ってもらった。




全てのシチュエーションが正しいかもしれないし
悪い可能性もあって、様々なアイデアが考えられる


──こんにちは! コロナウィルスの影響もあり、家にずっといるのではないかと思いますが、この影響はアーティストたちにも大きく、実際にあなたちのツアーや、出演予定だったSXSWを含めた大きな音楽フェスも軒並み延期や中止となっています。どの程度影響を感じていますか?

そう、ミュージシャンとしての影響というと、ツアー等の計画していた予定が崩れてしまって大変な状況にいるよね。でも今は、みんなにとって安全が1番大事だと思うから、予定を変更するという判断は正しいことだと思う。今後の計画を決める判断をするのが難しくなってしまったし、この状況にとても困惑しているけれど、私たちは今、何が起きていて、これから何が起きるかを慎重に判断する必要があるね。

──イギリス政府はアーティストに支援的でしょうか?

えーと、実は私自身も今まだ完全に理解しきれてないというのが正直なところ。ビジネス、ライブハウスやクラブ、プロモーターが苦しんでいて、大変な時期というのは理解できている事実だね。

──さて、早速リリースされたアルバム『Every Bad』について訊いていきたいと思います。アートワークはあなたが手掛けたものですよね。とても素敵です! 綺麗な青の色が印象的なのと、揺れているのが海をイメージしているように感じました。

ありがとう! 中心に描かれている蛇がこのアートワークのイメージだったんだけど、言われてみれば確かに海の要素もあるね。実際に、このアルバムそのものは、海の気持ちを表現していて、海にまつわる曲が多くある。アートワークが海のイメージにも見えるというのはあなたの指摘で気づいたけど、その解釈はいいね。



──このアルバムには赤の色も使われていて、またあなた自身やバンドも赤い服をよく着ている印象があり、どちらかというと赤があなたのテーマカラーかと思っていました。

そう、赤が大好き! 前作の『Rice, Pasta and Other Fillers』は赤! って感じだったよね。今回はその対比もあって、もっと青を使っている。アルバムのアートワークでどの色にするかということは、いつも考えているね。どのように感じるかの印象が変わるからね。とにかく、赤は好きな色だよ。



──あなたの個人のInstagramにも、たくさんの作品を投稿していますよね。どこか学校などで学んだのでしょうか。

いえ、本格的にはアートスクールとかで学んだことはないんだよね。16歳の時に学校で学んだことがあるけれど、止めてしまった。私は、自分自身のことをビジュアル・アーティストだとは思っていなくて、でも何かを作るということがとても好き。それで、時間がある時や悲しくなった時に作品を作ったりして、その延長でアルバムのアートワークも自分で制作したんだ。

──先ほどこのアルバムは海に関連していると言っていましたが、なぜ海にフォーカスしたのでしょうか。

以前、海に囲まれたブライトンに住んでいたから、海が近い存在だったということもあると思う。当時は海で泳いだり、海を見に行ったり、とても多くの時間を海で過ごしていて、海にとてもインスパイアされていた。

──なるほど、海との思い出というと美しいノスタルジーな記憶のように聞こえるのですが、なぜ『Every Bad』というネガティブに聞こえるタイトルにしたのでしょう?

“Every Bad”は未完のセンテンスと言うのかな。このフレーズには、様々な道筋があって、そのひとつを選ぶ必要はないんだけれど、全てのシチュエーションが正しいかもしれないし、悪い可能性もあって、様々なアイデアが考えられるということを表したかった。

──あなたの歌詞は、同じフレーズを繰り返し何度も唱えるように歌っているので、マントラ的、呪文のようだと評されることが多いです。このスタイルや歌詞自体は、どこから影響を受けているのでしょうか。

このスタイルは、様々なところから影響を受けているね。歌詞自体については、私の人生の過去の一部から来ているんだ。パーソナルなことから影響を受けていて、出会った人や知っている場所から歌詞を思いつくことが多いよ。

──さて、アルバムのオープニングである「Born Confused」 はとても叙情的で、コーラスが美しく、多幸感があります。アルバムの始まりというよりはエンディングのような雰囲気がありますが、なぜこの曲を冒頭に持ってきたのでしょうか。

確かに、あなたの言っていることはとてもわかる。エンディングのようというのは理解できるよね。でも、これは他の曲にとってのイントロダクションであり、アルバムの様々な要素がこの曲にあるから、最初に持ってくることが良いと考えた。

──この曲で、“Thank you for making me happy Thank you for leaving me(私を幸せにしてくれてありがとう、私を放っておいてくれてありがとう”と歌っていますが、誰に対しての感謝なのでしょうか。

これは自分にとってとてもパーソナルなことで…ある誰か、についてだね。

──「Sweet」の歌詞は詩的で、解釈が難しいと思いました。Pitchforkはこの曲を女性の動力や、若い女性がしばしば感じる自己嫌悪についてであると解釈しているのですが、女性だからというような要素があるわけではないですよね。実際のところのこの歌詞の物語の背景を教えてください。

Pitchforkの批評を読んだけど、それを意図してたわけじゃない。これには様々な様相があって、少し遊び心もあるような感じ。説明するのが難しいな。みんなに色々な解釈をしてもらいたいから、全てを説明することはあまりしないんだけれど、Pitchforkの言う女性の動力という解釈は明らかに違う。これはとても様々な意味があって、自分自身についてや、自分の方向を表現しようとしてたんだ。



──「Lilac」は愛とコントロールについてだそうですが、このアイデアはどこから出てきたのでしょうか。

えーと、どこからきたんだろうな。この“愛とコントロール”については、いろいろなところから考えついたアイデアだと思う。「Lilac」は、私とある人の特定の関係についてで、これは私の人生において、とてもパーソナルなものだね。

──このアルバムはあなたのとてもパーソナルな関係や、誰かについて歌っているものが多いんですね。

その通り。

──「Pop Song」はスローなテンポの曲なので、いわゆる“ポップ”のイメージとは違うように思いますが、なぜこの曲名にしたのでしょうか。

最初は速いテンポで作っていて、実際にポップ・ソングにしようとしていたんだけれど、この形になった。でも逆にちょっと遊び心があるよね?

──なるほど、その「Pop Song」で“I'm not coming home(家に帰らない)” という歌詞と共に孤独を歌っているのですが、アルバムの最後は「Homecoming Song」という曲で締め括られます。つまりあなた、もしくはアルバムの中の主人公は、このアルバムの中で孤独を克服したということでしょうか。

そうとも表現できるけれど、孤独を克服したというよりも、探していた居場所に辿り着いた。それを探そうとして発見したのではなく、その場所を認識したという感じかな。

──サウンド的には、どのようなアーティストから影響を受けたのでしょうか?

アルバムを作るときは様々な曲を聴いて、曲はそれぞれいろいろなプロセスで制作しているよ。このアルバムの制作時に限っていうと、Cat Powerの作品をとても聴いていた。あとはDIYなパンクの音楽が多かったかな。いつも音楽は色々なジャンルを聴いているね。

──ちなみに、お気に入りのUKの若手のバンドは誰でしょう? この前Sorryのアルバムについて、SNSで投稿しているのを見ました。

Sorryはとても好きなバンド! お気に入りはとてもたくさんあるね! それで気に入ったのをネットで投稿してる。あとは、Drug Store Romeosがお気に入りかな。



──あなたのいたブライトンの若手と言えば、The Magic GangやDream Wifeもいますよね。

Dream Wifeは大好きだし、友達だよ! ブライトンは良いバンドが多くいるし、狭いからね。

──ところで、デジタルのみでリリースしたあなたの最初の作品、『misery radio (solo 2015)』に「Losercore」という曲がありますが、Dinosaur Jr.のベーシストのLou BarlowがSentridoh名義でリリースした同名シングルをカバーしようとして、できなかったから自分で書いた曲だというのは本当ですか?

本当と言えば本当(笑)。でもジョークで言ったんだよね。実際に曲をカバーしようとはしてたんだよね。Lou Barlowのファンだからね。



──話は変わりますが、あなたのInstagramで“チューハイ”と書かれた壁掛けを見つけました。あれはあなたの部屋ですか? 日本ではおなじみのお酒ですが、他の国にはあまり見ないものかと思ってびっくりしました。どこで手に入れたのでしょう?

ああ、あれは私の部屋だよ! 数年前に東京、大阪、京都と旅行で日本に行った時に見つけて買ったんだよね。私にとってもこれは面白くて。日本に来た時にチューハイが好きで飲んでたんだけど、マーケットで偶然見つけて思わず買っちゃった! 旅行はとても楽しかった。



──Instagram繫がりで、先日インスタストーリーで「泣けるアニメの映画」をファンから募集してましたよね? アニメ・ファンなんでしょうか? 音楽にもアニメの影響はありますか?

そう、私はジブリがとても好き! ほぼ全部観ていて全部お気に入り! 音楽についてはいろいろな経験やものから影響を受けているから、その中にアニメからの影響を受けたものはあるかもしれないけれど、アニメが特に影響を与えた、というわけではないかな。

──最後に、今の状況だから聞きたい質問ですが、冒頭でお話したように、世界中がとても不穏な状態にある中で、あなたは音楽で世界を救えると信じていますか?

人と繋がって、世界の人と一緒になれるという意味では助けになると思う。音楽で繋がって一緒に楽しむことが世界を救うことになるのかも。でも、わからないな、どんな音楽かによるんじゃないかな。

──ありがとうございました。日本のファンへ一言お願いします。

音楽を聴いてくれてありがとう! 日本に行けることを願っています。イングランドから愛を込めて。



Porridge Radio - Every Bad
(Secretly Canadian / Big Nothing)


1. Born Confused
2. Sweet
3. Don't Ask Me Twice
4. Long
5. Nephews
6. Pop Song
7. Give / Take
8. Lilac
9. Circling
10. (Something)
11. Homecoming Song