Sorryの名前を初めて見たのは、『DIY』の新人アーティストの曲を紹介する記事だったと思う。2017年、彼らは13曲のミックステープ『Home Demo/ns Vol I』を、フリー・ダウンロードで配布していた。あまりに素っ気なくシンプルなバンド名に、逆に興味を惹かれて聴いてみた約30分のこのテープは、90年代のグランジやローファイの雰囲気があるオルタナティヴなロック・サウンドを軸にしながら、Pro-Eraといったヒップホップからの影響も感じさせる。そして不協和音でありながらもどこか温かみのあるメロウなサウンドに、色っぽく気だるい男女ヴォーカルが重なっていく。聴き終わった頃には、彼らの奇妙で歪んだ世界観の虜になっていた。その直後、彼らと同じノース・ロンドン出身で、セカンド・アルバム『Visions of a Life』で全英2位を獲得したばかりのWolf Aliceにインタビューをする機会があり、気になる新人として彼らの名前が挙がるなど、注目の高さが伺えた。

それから月日が流れ、彼らはDomino Recordsと契約し、満を持してリリースされるデビュー作が『925』である。



(アルバムのタイトルは)
「完璧じゃなくてもいい」ってことの例えとして面白いと思った


目の覚めるようなピアノと管楽器から始まる「Right Round The Clock」で幕を開け、ダークなシンセサイザーが印象的な「Lies (Refix)」に終着する本作は、様々なジャンルを昇華した彼ららしく、最初から最後まで予想のつかないジェットコースターのよう。

バンドを形成するAsha LorenzとLouis O’Bryenのふたりは中学校からの幼馴染で、10代の頃から一緒に音楽を作ってきた。この作品はふたりの人生22年の集大成である。自分たちのこれまでの音楽の変化について、Louisは次のように語った。「単純にたくさん作ってきたし、パソコンも使うから曲を作るのにそれほど時間もかからないし、自分ひとりでも色々実験的に試してみることができる。それと同時に、常に新たな音楽を発見して聴き続けてるから、自然と作る音楽も変化していくんだと思う」

実は彼らは以前Fishという、これまたとてもシンプルで検索しづらいバンド名で活動していた。「Fishって名前を使ってる人が多すぎて、変えざるを得なかったんだよ。どっちにしろバカみたいな名前だったしね。Sorryはバンド名として笑えるかなと思ってさ」と説明する彼らは、現在も魚のマークをシンボルとしている。


Sorry - 925 (Domino / Beatink)


Sorryの過去のEP作品のアートワークを見ていくとカラフルなコラージュのものが多かったので、それらと比較してアルバムの『925』というタイトルを表現したネックレスが映るシンプルなアートワークに、驚いたファンもいることだろう。実際のところ、「もっとシンプルにしたいなっていうのは思ってた。それまで作ってきたものから遠ざかっていく感じもあったしね。でもコラージュ的な要素はあるというか、アナログ盤の内側のアートワークはコラージュになってるから、今までの感じがなくなったわけでもないよね」とAshaは語る。「あとこのアルバムについては、これまでの感じを残しつつ、もうちょっと力強くて簡潔なアートワークにしたいっていうのもあったと思う」とLouis。

そのタイトル『925』という数字は銀の純度(92.5%)に由来しているというが、「Rock 'n' Roll Star」ではなぜか“You're pure silver, 952(君は純銀、純度95.2%)”と数字を逆にして歌う箇所があることについて、Ashaは次のように語った。「何かが完璧じゃなくてもいいっていうことの例えとして面白いと思った。あとこの数字ってジュエリーに使われるもので、アルバムもある意味ジュエリーとか、アクセサリーみたいなものだしね」。また、彼女は本作についてこうも語った。「アルバムを通してのコンセプトとか、ひとつのテーマが流れてるわけではなくて、それぞれの曲にいろんな経験が反映されている感じ。もちろん恋愛とかもそうだよね」



Domino Recordsのウェブサイトには「本作はヘルマン・ヘッセからAphex Twin、Tony Bennettまでありとあらゆるものに影響を受けた」と掲載されていたが、なぜバラバラな3アーティストの名前を挙げたのだろう。「その3人を挙げたのは、あくまで自分たちの受けた影響が幅広いこと、そして音楽だけではなくて、本や映画からも影響を受けていることを示すためだったんだよ。もちろんAphex TwinもTony Bennettも大好きだけどね。つまりエレクトロニック系もクルーナー的なラヴ・ソングも好きなんだっていう意味で。あとAshaがこのアルバムを作ってる時に、ヘルマン・ヘッセを読んでたんだ」とLouisは答えた。

また、彼らのユニークさは本人たちも制作に携わったミュージック・ビデオでも表現されている。一部モザイクがかかったり、突然別の映像や写真に移ったりするので、まるで映像もコラージュのようなのだ。「曲自体の雰囲気とか内容から決めるんだけど、基本的にはシンプルなアイデアが好きだし、映像が曲の抑揚を強調したり曲と合ってたりするのが好きかな」とAsha。最近公開された「More」のミュージックビデオは、若者が”I want more(もっと欲しい)”という歌詞に合わせて飛び跳ねたり、音楽を聴いているようにも、ドラッグをしたり、絶頂を感じているようにも見える。Ashaは笑いながら説明した。「まあ誰かとセックスしてるっていう設定で、ごくシンプルなアイデアなんだけど、確かに少し曖昧な感じにしたいというのはあった。あとあの曲が結構ガタガタ動く感じだから、それに合うようにしたかったんだよね」



彼らは「Right Round The Clock」で、”She's all dress up like a movie star(彼女は映画スターみたいに着飾っている)”と歌っていた。他にもアルバムには「Starstruck(スターに魅せられた、という意味)」「Rock 'n' Roll Star」という曲が収録されている。“スター”を多く引用していることは、彼らの野望の現れなのだろうか。「名声っていう考え方を興味深いと思ってるっていうのはちょっとあるかもね」とAsha。しかし自分たちの憧れのスターについて尋ねると、Louisは「分からないな、思いつかない」とクールに答えるあたりが、我が道を往くSorryらしいところだろう。



インタビューをした2020年2月には、今年について「アルバムをリリースするのと……UKのEU離脱とかで変な影響を受けなければいいなあというのはあるかな。ツアーは、アメリカに行くのも楽しみだし、ヨーロッパも楽しみで、あと日本にも近々行けることを願ってるよ」と語っていたが、COVID-19で次々と世界中のフェスやギグが中止になる中、彼らのツアーにも影響があったのだろうかと思っていたところ、彼らのUSツアー初日の3月13日、Union Poolでのギグは完売、無事に開催され、ニューヨーク・デビューは成功を収めたようだ。コロナウイルスが収束する頃には彼らが日本にも来られることを祈りながら、ベッドルームでこのデビュー・アルバムを聴いて、混沌の終わりを待とう。