photo: Jake Michaels

変わらないことが魅力のひとつだったニュージャージーのロック・バンドReal Estateにとって、3年ぶり5作目のアルバムとなる『The Main Thing』は、いくつかの大きな変化を捉えた作品だ。

ドラム・マシーンとストリングス・セクションを導入したオープニングの「Friday」や、前作から加入したギタリストのJulian Lynchが初めてリード・ヴォーカルを取るプログレッシヴな「Also A But」といった新機軸を含むバンドの挑戦心は、The WalkmenのMatt Barrickがパーカッションで、Sylvan EssoのAmelia Meathがコーラスで参加したリード・シングルの「Paper Cup」にも端的に表れている。

変わり続ける世界で、彼らが大切にしている“The Main Thing”とは一体何なのだろう。フロントマンのMartin Courtneyが語ってくれた。



The Cureの「Friday I’m In Love」の
出だしの歌詞も“Monday”だしね


――2017年にフジロックに出演しましたが、感想はいかがでしたか?

うん、何となくは覚えてる。あの日はかなり頭がボーッとしてたんだ。あまり長く滞在できなかったんだよね。東京から車で行って出番があって、その後ほんの少しだけいて、また東京に戻ったんだ。でも素晴らしかったよ。フジロックについてはもうずっと前から話には聞いてたし、ずっと出たいと思ってたからさ。ぜひまた行きたいし、すごく特別な経験だった。

――昨年の10月に、アルバムの全曲を曲順通りにライヴで演奏していましたよね(日本盤のボーナス・トラックに当日の「You」が収録)。これはレコーディングの進行具合で言うとどのタイミングで、どういった狙いがあったのでしょうか?

あの時点で、既に完成して半年くらい経ってたかな。去年の2月だから、今から約1年前には作り終わってて、リリースを待っている状態だった。だからとにかく早くみんなに聴いてほしいと思ってたんだけど、10月の時点ではあと2ヶ月は発表もできないっていうことだったから、ライヴでやったら楽しいんじゃないかと思ったんだよ。アルバム発売前に、ファンに向けたスペシャル・ライヴとしてね。

―― 2017年の前作『In Mind』の最後の曲が「Saturday」でしたが、新作『The Main Thing』の1曲目のタイトルが「Friday」で、その歌詞の1行目が“Monday”なのには何か意図があったのでしょうか?

なかった(笑)。完全なる偶然だけど、あたかも隠れた意味があるかのようになってるのはいいね。1曲目のタイトルが「Friday」である理由は、書いた当時からはかなり変化したからそうは聴こえないかもしれないけど、元々はThe Cureの「Friday I’m In Love」をパクろうとしてたから(笑)。じゃなくて、あんな曲を書きたいと思ったからなんだ。結局は全く別物になったわけだけどね。でも作っていた時の仮タイトルが「Friday」だったし、そのままの方が面白いかなと思ってさ。「Friday I’m In Love」の出だしの歌詞も“Monday”だしね。でも前作の「Saturday」に関しては全くの偶然だね。



――本作はストリング・カルテットの起用が印象的ですが、2015年にリリースされたあなたのソロ・アルバムでも、ストリング・カルテットを起用していましたよね? どうして前作『In Mind』ではなく、今回のタイミングでバンドの作品にストリング・カルテットを起用しようと思ったのでしょう?

Real Estateでストリングスを使うことに若干ためらいがあったというか…このバンドの作品は常にメンバーの5人と、その時その時のプロデューサーで作るものというか、バンドの作品の中で鳴っているサウンドはメンバーによるものであることが望ましい、みたいな考えがあって。でも今回はある意味そういう考えを全部捨てて、色々新しいことを試したり、自分たちが面白いと思ってる人やリスペクトしてる人、昔からの友達なんかと一緒にやってみたいと思った。自分たちを駆り立てて新しいことに挑んで、新鮮さを保つためにね。それでストリングス部分に関して言うと、ソロでは自分で書いたんだけど、今回はそうではなく、ちゃんとストリングスの知識があって編曲の仕方を知ってる人に頼みたいと思ったんだ。それでJane Scarpantoniを雇ったんだけど、彼女は本当に優秀なアレンジャーで、もう長くやっててある意味伝説みたいな人で、過去には素晴らしい作品も手掛けていて。だから彼女に編曲してもらって本当によかったよ。実は僕も1曲(「Silent World」)やってるんだけどね。


※00年代以降のLou Reed作品で知られる女性チェロ奏者のJane Scarpantoni。Mr. Childrenや三上博史のアルバムでも演奏。


――個人的に面白いと思ったのは、ストリング・カルテットのメンバーが、全員ソロで活動するコンポーザーでもあるということです。この4人はどうやって集められたのでしょう? 彼らの参加作品や、ソロ作品は聴いたことがありましたか?

JaneとプロデューサーのKevin McMahonが集めてくれたんだ。2人がしっかり吟味して、ひとりひとり選んでくれた。というのも、たとえヴァイオリンやチェロといった自分の楽器の演奏に長けていても、ロック・バンドと組むことに慣れてない人だと難しいからね。今回参加してくれた人はみんなものすごく才能豊かなミュージシャンで実績もあり、もちろんクラシック音楽もたっぷり演奏してきたと思うけど、おそらくそれと同時にロック・ミュージックにも馴染みがあったんだと思う。

  

※左からヴィオラのOlivier Manchonの『En Route』(2003)、ヴァイオリンのRenata Zeiguerの『Old Ghost』(2018)、ヴァイオリンのAnni Rossiの『Rockwell』(2009)


――チェロ奏者のJane Scarpantoniは2曲の編曲も手掛けていますが、彼女にはどのようなイメージを伝えましたか?

全般的なことを2人で少し話して、僕がどういうアレンジを望んでいるかを伝えて、その際には参考になるものとしてAl Greenだったり、昔のソウル・ミュージックを挙げたりしたね。それから、僕はいかにもストリングスな感じの使い方はしたくなかったんだ。それで、例えばほとんどサウンド・エフェクトみたいな感じでもいいかもしれないとか話したり。ちなみに彼女はオールドスクールで自分のパートは全部手書きで、彼女が書いてるものを初めて聴いたのがレコーディング当日だったんだよ。その日に初めて聴くなんてさすがにちょっと不安だったけど、とにかく彼女を信じるしかないってことで。でもすごく良くて、聴いた瞬間めちゃくちゃテンションが上がった。とにかくJaneの編曲はすごくクリエイティヴで、彼女が独自に書いたメロディが、すごくいい感じで曲とガッチリはまってるんだよね。

――ギターのJulian Lynchのソロ作のファンなので、新作で彼がリード・ヴォーカルを取っている「Also A But」も好きなのですが、反面この曲はまったくReal Estateらしくないとも思います。この曲をアルバムに入れることに躊躇はなかったのでしょうか?

それはなかった。Julianはもうずっと前から知っていて、彼は前作を作り始める前にバンドに加入したわけだけど、僕らとしては彼が入った瞬間から、何の違和感もなくメンバーとして認識していた。でもたぶん彼の方は馴染むまでに少し時間が必要だったんだと思う。やっぱり長年続いたグループに入るわけで、自分が正式メンバーだと感じられるまでには少しかかったんだ。もちろん前作の彼の演奏も素晴らしかったけど、ここ2年一緒にツアーを回って、バンドに入って3、4年経った今、もう完全にメンバーになったんだ。それで今回新たに作る時に「Julian、もし持ち込みたい曲があったら遠慮なく持ってきてよ」という感じで、そしたら彼はあの曲を持ってきた。実はもう1曲あって、それも作ってたんだけど完成しなくてさ。というわけで躊躇は全くなく、それどころかみんな喜んでるし、確かにちょっとこれまでとは違って新しい感じだけど、それはもちろんいいことだからね。実際僕は今作の中でもかなりいい曲だと思ってるし、違うからこそ際立ってると思う。彼は間違いなくすごく才能あるソングライターだし、バンドに曲を書いてくれるのは本当にエキサイティングだよ。

――逆に毎回恒例だったベーシストのAlex Bleekerが歌う曲が入っていませんが、今回は彼が持って来た曲はなかったのでしょうか?

いや、今回たまたまアルバムに入らなかっただけで作ってはいたし、すごくいい曲で、完成するのを楽しみにしてたんだよ。ただ、たぶん彼自身が曲の方向性に超満足してはいなかったというか。ごくカジュアルな流れでそうなっただけなんだ。今作には13曲入ってて、実際には19曲レコーディングしたんだけど、ある時点で特に力を入れる曲っていうのができてきて、じゃあこの曲は次のアルバムにとっておこうみたいな感じで言ってたんだけど、結局彼はもうすぐ出る予定の、自分のソロ作に入れることにしたんだ(笑)。

とにかくインディ・ミュージックはすごく変わったし
よりポップに、よりエレクトロニックの方に傾いている


――リズムマシンの導入やパーカッション奏者の参加も新しい試みだと思いますが、逆に言うと、これまでReal Estateにおける暗黙の了解というか、制約みたいなものってあったのでしょうか? 

もし何かあったとしたら、どの過程においても一瞬立ち止まって、なぜ自分がこういう歌い方をしようとしてるのかとか、どうして今これをやったのかとか、ひとつずつ自問自答していくことかな。ただボーッと作ってるだけじゃなくてさ。

――インストの2曲、「Sting」と「Brother」のタイトルの由来について教えてください。

「Sting」はキーボードのMattが書いたから彼がタイトルをつけたんだけど、バンド内のグループ・チャットがあって「Matt、あの曲のタイトル何がいい?」って訊いたら「Sting?」ってはてなマーク付きで書いてきて、「あ、了解」みたいな(笑)。たぶんちょっとふざけたのかな。とにかくちゃんとした理由はないと思う。あと「Brother」は僕が書いたもので、あれは元々4トラックのカセットで録ったデモがあって、そのデモに重ねてレコーディングしたものなんだ。自分の部屋でタイトルを考えてた時にミシンの古い箱があって、そのミシンのメーカーが“Brother”だったという(笑)。で、いい名前だなと思ったんだ。それ以上の理由が特にないんだよね。

――「You」で歌っている、“想像もつかない、君の最初の記憶が何になるのか”というのは、あなたのお子さんのことでしょうか?

うん、そうだね。自分的にはさりげない感じにしたつもりだったけど、どうやらみんなすぐ気づくみたいだ(笑)。どうなんだろう、どの歌詞も自分にとってはパーソナルで、でもあまりに具体的に書くのは変な感じだから、あからさまには言ってないつもりなんだけど、この曲はもしかしたら他の曲より分かりやすいのかもしれない。でもみんなが共感できるからいいことなのかもね。当時は妻が妊娠中で、まだ会ったことがない子どもについて書いたんだ。

――アルバムの多くは年齢を重ねることについて歌っているように思えますし、「Shallow Sun」で歌われている“Twenty five in twenty ten(2010年に25歳)”や“Thirty nine in twenty four(24年に39歳)”というのもあなたのことだと思うのですが、最近歳を取ったと感じる瞬間があれば教えてください。

そんなのしょっちゅう感じてる。今子どもが3人いて、一番上の子が幼稚園だから普通にお父さんだし、ソフトボールの練習に連れて行ったりしてると「自分は本物の父親になったなあ」って思ったり。そういう私生活面で自分の人生がリアルなものになってて、いいもんだなって感じるんだけど。あと音楽でも、単純に物事の進み方がすごく速いから、34歳なんて実際はそれほど年寄りってわけじゃないのに、でも自分が時代に追いついてないんじゃないかと思いがちというか。もともと僕らの音楽は今流行ってるもの……例えばBillie Eilishとか、そういうものとは違うけどね(笑)。17歳の子が自分たちの音楽を好きになるのも想像つかないしさ。まあもしかしたらそういうこともあるかもしれないけど、とにかくインディ・ミュージックはすごく変わったし、よりポップに、よりエレクトロニックの方に傾いていて。でも今の世界に生きてて新しい音楽を聴いてるわけで、ある意味そういう要素が自分の書く曲にも微かに入ってきてると自分では思ってるんだ。他の人は気づかないくらいのレベルだと思うけど、自分は聴き取れるんだよ。あくまで自分にとっては、だけどね。だからそれはエキサイティングなことなんだけど、でもそれと同時にただ自分たちなりの音楽を作っているだけであって、決して「どうやったらあの高校生に人気のバンドみたいな曲ができるんだ」とか頭を悩ませてるわけではない(笑)。でも結局のところ自分たちの音楽を作るだけで、今も自分たちが作ってるものに興奮できるからいいと思う。

――「Paper Cup」の歌詞は若い新人バンドへのリアクションのようにも取れますが、最近お気に入りの若いバンドはいますか?

Big Thiefは好きだけど、新人バンドとしてカウントされるんだろうか。まあいいか、僕の解釈では今もレコードを出してるバンドは新しいから、そういうことで。というか、本当に新しい人が今すぐは思いつかないなあ。本気で考えれば出てくるだろうけど……あとMichael Nauもしばらく前からいるけど、彼もすごくいいよね。

通訳:中村明子




Real Estate - The Main Thing (Domino)
2020.2.28 release

1. Friday
2. Paper Cup [feat. Sylvan Esso]
3. Gone
4. You
5. November
6. Falling Down
7. Also A But
8. The Main Thing
9. Shallow Sun
10. Sting
11. Silent World
12. Procession
13. Brother

- Bonus Track for Japan -
14. You [Live in Chicago 2019]