1曲24分の大作「In Another Life」と、Andre Ethier(The Deadly Snakes)、Dan Bejar(Destroyer)とのメドレーによる「Everybody's Paris」という2曲のみで構成された2018年のアルバム『In Another Life』に続き、昨年早くも新作『Soft Landing』を届けてくれたカナダのシンガー・ソングライター、Sandro Perri

2011年の傑作『Impossible Spaces』からの7年の空白が嘘のように溢れ出してきたこの2枚のアルバムは、一体どのように生まれたのだろう? そこで行われたソングライティングにおける大胆な実験について、メールで話を聞いてみた。



僕はこの曲が、3面のサイコロみたいに感じられたらいいなと思った

──2017年のジャパン・ツアーはいかがでしたか?

素晴らしいツアーだったよ。僕のお気に入りのひとつだね。人々や音楽、ショウ、食事…すべてが驚きだった。プロモーターも僕らに良くしてくれたし、ASA-CHANG&巡礼と渚にてが演奏するのを観られて、夢が叶ったよ。

──ツアー限定のCD-Rに入っていた「In Another Life」のデモ・バージョンはシンプルな弾き語りでしたが、そこからどのように、アルバム・バージョンへと発展していったのでしょう?

あのデモは“独自”なもので、アルバム・バージョンは“多元的”なものなんだ。僕は聴く人それぞれに共鳴しつつも、別の次元にいるように感じられる音のレイヤーを作りたかった。もしくは、幾つものイメージを持つホログラムのようにね。レコードでシーケンサーを使った初めての試みでもあった。



──「Everybody's Paris」はThe Deadly SnakesのAndre EthierとDestroyerのDan Bejarがそれぞれのパートを書いて歌った3部構成のメドレーになっていますが、彼らとはどのように共作したのですか?

元になった曲は、10年ぐらい前に書いたんだ。録音せずに、ただそっとしておいた。それから僕は、その曲がまるで、ある種の歌詞を入れるための“コンテナ”のようだと気づいたんだ。いくつかの声明文をリスト化するための曲。人々や、彼らの行いを観察するための曲。これはそういった種類の曲についての観察でもある。舞台はパリなんだけど、それは世界中の人々が、あの街にロマンティックな憧れを抱いているから。たとえ訪れたことがなくても何かを連想する傾向があるし、“パリ症候群”なんて言葉もあるぐらい魅力的なんだ。その傾向も、また観察のひとつだね。この曲では、何かをひとまとめにするように“everybody(みんな)”という言葉を使っている。他の人に曲を書いてもらうというアイデアを思いついたのは、ひとつの視点からでは、そうした曲の要点を得ないことに気づいたからなんだ。それでは主観的になってしまうことを認めざるを得ない。AndreとDanを選んだのは、彼らが独自の作曲方法を持っているから。まるで映画のキャスティングをしているみたいだったし、それが曲に正しいコントラストを与えてくれると思ったんだ。そしてそれは、曲が僕の思っていたような“コンテナ”になり得るかどうかのテストでもあった。彼らに多くは語らず、ただ曲のタイトルと、歌詞が“everybody ______, everybody _________”になることだけを伝えたんだ。僕のバンドと一緒に作った5、6種類のインスト・バージョンのうち、ひとつを僕が選んで、彼らにもひとつずつ渡した。僕はこの曲が、3面のサイコロみたいに感じられたらいいなと思ったんだ(それが不可能だってことはわかってるけどね!)。3つの異なる側面。始まりも、途中も、終わりもない。「すべての物語にはふたつの側面がある」なんてことわざもあるけど、これは「少なくとも3つの側面があって、それぞれが別の物語を伝えている」だね。ひとつの大きな議題に対する、矛盾した、主観的な視点。『羅生門』ではないけど…その意味では実験的だ。これはどんなソングライターでも、自分のバージョンの歌詞を当てはめることのできる曲なんだ。

──「Everybody's Paris」の冒頭で聴こえる「ABCの歌」は、“1978年にトロントのエトビコで、Vito PerriとGregorio Perriによって録音された”というクレジットがありますが、これはあなたの家族ですよね? どうしてこの歌を入れようと思ったのでしょう?

その「ABCの歌」は、僕が歌っている初めての録音なんだ。僕の叔父さんが録音して、兄弟がマイクを握っていたから、彼らをクレジットしたんだよ! あの曲は(英語圏の)多くの人たちが最初に覚える曲で、僕に響いたんだ。「Everybody's Paris」もABCと同じようにシンプルな曲だから、作詞者、シンガー、そしてリスナーにとって“学習する”曲としても機能するはずだよ。

──「Everybody's Paris」だけでなく、『Soft Landing』の「Time」も2010年頃に書かれたそうですが、長い間曲を寝かせておくことが多いのでしょうか?

それらの曲についてはそうだね。でも必ずしもそうとは限らない。次のアルバムがどんな形になるか、それが何を必要としているかによる。時々、曲は正しい家ができるのを待たなければならない。もしくは、僕がその曲を充分に探求していないかだね。『Soft Landing』のすべての曲は2010年から2015年の間に書いた。「In Another Life」は2016年に書かれた。僕はその曲が「Everybody's Paris」と同質の“永久性”を持っていることに気づいて、そこからアルバムのアイデアが生まれたんだ。



──タイトル曲の「Soft Landing」と「Floriana」は映像的な曲ですし、あなたは最近ロバート・アルトマンの映画にハマっているそうですが、好きな映画のサウンドトラックはありますか?

音楽だけが好きなスコアもあるけど、映画の文脈で聴くことが多いね。アルトマンの『ナッシュヴィル』が好きなんだけど、それは曲がキャラクター表現の一部だから。つまり、曲を理解するために映画を観るんだ。エンニオ・モリコーネとジャック・ニッチェに関しては、映画なしでも聴くことができるけどね。



──クラヴィネットを使った「Wrong About The Rain」を聴いてCurtis Mayfieldを連想したのですが、レコーディング中はどんな音楽を聴いていましたか? 好きなシンガーがいたら教えてください。

レコーディング中は、自分の作業している曲だけを聴いていることが多いんだ。だけどCurtis Mayfieldは僕も好きだよ。最近のお気に入りはGeorge Jacksonかな。


※Cat Powerも2008年のアルバム『Juke Box』でカバー


──レコーディングに参加したバンドのメンバー、Blake HowardとJosh Cole、Thomas Hammertonを紹介してください。

素晴らしいバンドが組めてラッキーだよ。Blake Howardはワイルドなドラマーで、演奏はその人の個性の延長だってよく言われるけど、彼の場合は本当にその通りなんだ。カリスマ性があって、予測不可能で活気に溢れている。彼と演奏するのは、自分で操縦できない乗り物に乗せられたみたいなんだ。僕はBlakeのことをうまくコントロールしようとしていて、ドラマーとはいつもこの問題を抱えているんだけど、彼のことは好きだし、彼も僕に我慢してくれてるよ。Josh Coleは素晴らしいベース・プレイヤーだ。しなやかで、繊細なタッチを持っている。支えてもくれるし、同時に緩めてもくれる。個体と液体のような、素晴らしい感性だ。Thomas Hammertonは、どんな状況にも対応できる才能の持ち主。なんでも頼めるし、どんなことにも応えてくれる。音楽のアイデアを、いくつもの違った方法で翻訳してくれるんだ。前回日本に行った時も、Ryan DriverとMike Smithという素晴らしいバンドを連れていったよ。

──『In Another Life』と『Soft Landing』のジャケットはどちらも平面的で抽象的ですが、どんなことを表現しようとしたのでしょう?

『In Another Life』のジャケットは、ストック画像と合成した絵なんだ。黄色い“染み”は日本の書道のように一筆書きされたものだけど、マウスを使ったからそこまで美しくはないね。絵のなかで、それはギャラリーの壁に描かれていて、解釈されるのを待っている。窓であり、鏡でもあり、壁の漆喰が剥がれているのかもしれない。ジャケットの反対側には、それがないことによる“完全な自由”(壁の穴越しの青空)を見ることができる。『Soft Landing』もこのアイデアの延長だけど、もっと広くて、空っぽな空にそれを映し出したものなんだ。下に描かれている建物の影(おそらく“楽園”)は人工的で、構築されたイメージ(『Impossible Spaces』のジャケットのようにね)。それは中心から外れていて、見るものに対して、その楽園が“不完全”でもあるということを思い出させてくれるんだ。

(質問作成協力:山岡弘明)

SANDRO PERRI and friends
JAPAN TOUR 2020


3月5日(木)東京 渋谷WWW
OPEN 19:30 START 20:00
チケット:前売¥4,800(ドリンク代別)
お問い合わせ:渋谷WWW(03-5458-7685)

3月7日(土) 肘折国際音楽祭2020
山形県最上郡大蔵村 肘折温泉 肘折いでゆ館 ゆきんこホール
OPEN 12:00 START 12:30
チケット:
・入場券 ¥6,900(税込)
・入場券+1泊(土)朝食付 Aプラン(トイレ共有) ¥13,000(税込)
・入場券+1泊(土)朝食付 Bプラン(トイレ付) ¥15,000(税込)
※全自由(整理番号無し)
※未就学児童無料
お問い合わせ:肘折国際音楽祭実行委員会

制作・招聘:INDIE ASIA


※新型コロナウイルスの影響で中止となりました。