photo by Cameron McCool

今から数年前、ミュージシャンとしての駆け出し時代を過ごしたシカゴから、恋人を追ってノースカロライナ州アッシュビルへとやってきたAngel Olsen

作家のトーマス・ウルフが生まれ、スコット・フィッツジェラルドの妻であるゼルダが入院したハイランド病院があるこの土地をAngelはいたく気に入っていたが、そんな彼女は前作『My Woman』のリリース後に“ほとんど離婚に近い状態だった”という別れを経験し、その経験をもとに完成したのが、最新作となる『All Mirrors』だ。

本作は当初簡素な弾き語りバージョンと、オーケストラをフィーチャーしたバージョンが対になった2枚組としてリリースされる予定だったが、Angel本人の意向から、まずはオーケストラ・バージョンのみがリリースされることになった。アルバムのオープニングを飾るのは、“まるで家が燃えているように聴こえる”というストリングスで始まる、壮大な「Lark」。この曲で幕を開けることで、本作は聴き手に、エンドシーンから始まる映画のような印象を与えてくれる。

そんなAngelはアッシュビルに留まり、昨年念願の一軒家を構えることになったが、彼女が住むことに決めたのは長年憧れていた瀟洒な豪邸ではなく、その向かいにある、慎ましやかな家だったという。それは鏡に映る自分と、本当の自分を対比したような本作のタイトルとも、奇妙に重なっていたのではないだろうか。すでに様々なメディアの年間ベストにも軒並み選出されているアルバムについて、電話で語ってくれた。



ハロウィンの日にPhil Elverumのスタジオに居たんだけど
あの教会には絶対幽霊がいると思う


──現在ツアー中だと思うのですが、いくつかネットに上がっているライブ映像を見たところ、以前から一緒に活動しているベースのEmily Elhaj以外のメンバーが入れ替わっているようですね。その理由を教えてください。

今回のアルバムを演奏するのに、前よりも人数が多く必要だったの。それに前のメンバーは他にやりたいことがあったから、メンバーが変わるのは自然なことだった。今のメンバーはこのバンドで演奏したいってことがはっきりしているからやりやすいし、サウンド面でもより自然になったと思う。今回はストリングスも入ってより重厚なサウンドになっているから、ストリングスのアレンジについて勉強して、以前の曲にもストリングスを加えながら、全く同じサウンドにならないようにしないといけなかった。

──前作をリリースした頃から、さまざまなアーティストの作品にゲスト・ヴォーカルとして参加していますよね。アーティストによって作業の進め方はそれぞれだと思うのですが、特に気に入っている曲や、印象に残っているコラボレーションはありますか?

Mark Ronsonと一緒にやるのは特に興味深かったかな。彼みたいな世界でやっている人と一緒に曲を作ることになるとは予想していなかったし。彼は私の意見によく耳を傾けてくれて、レコーディング中も、それが歌い方についてであれギターについてであれ、私の持っているアイデアを色々試して取り入れてくれた。ミックスの段階ではエディット・ルームに私も入れてくれて、彼がやったミックスを聴いて私がどう思うかや、変えたいところを聞いてくれたんだけど、そのプロセスにまで参加させてくれるとは思っていなかったから、とても親切だと感じたし嬉しかった。その他には何かあるかな……でも、自分ではもっとコラボレーションしたいと思っているけど、自分で思うほどコラボレーションしていないかも。最近ようやくコラボレーションをするようになってきたところなの。コラボレーションって、一旦始まると自分がちょっとこれは嫌だな、と思ったりしても相手によっては言いづらかったりするし、結構難しいから。自由に発言できる時もあるけど、自分のその時のモード次第でそういう気分になれなかったりもする。



──2017年には、アルバム未収録曲を集めた『Phases』というアルバムもリリースされました。もともとは2013年に日本のレーベルからカセットでリリースされた「California」という曲を、自分もそこで初めて聴いたのですが、あなた一人で、数人の歌手がメドレーしているように声色を変えて歌っているのが面白いと思いました。ちいさい頃に両親が聴いていたカントリー・ミュージックに親しんでいたそうですが、当時物真似していた歌手や、今でも物真似できるという歌手がいたら教えてください。

物真似っていうのはあんまりないけど、私はこれまでいくつも違うタイプの音楽にはまった時期があって、その間に自分の声の出し方や、どんな歌い方なら自分でできるかを試していたから、そのせいかも。今もたまにやるけど、昔ほど色々試す必要はなくなったかな。子供の頃はLeonard Cohenとかをよく聴いていたし、そのあとはイギリスのフォーク・ミュージックなんかを聴くようになって、その次は60年代の音楽を聴くようになって、Everly BrothersとかTimi Yuroとか、そのあとは古いカントリー・ロックを聴いてたし……。色々な音楽を聴いてきたから、その時書いている曲の題材によって、それに合ったスタイルで歌うのが好きなの。母はオルタナティヴなカントリー・ミュージックをよく聴いていたんだけど、母は結構信心深いタイプだから若い頃にロック・コンサートとかには行っていなかったと思うし、「どんな音楽を聴いて、どんなところに行く生活をしていたんだろう?」っていうのが気になって、そこから母が聴いていたような音楽を私自身も聴き始めたと思う。

──海外のインタビューで、高校時代にMagnetic Fieldsを聴くようになったと話していたのを読んで少し意外だったのですが、よく考えたらMagnetic Fieldsはシンセ・ポップをやっていたり、オーケストラル・ポップがあったり、Gothic Archiesという変名のゴシック・バンドをやっていたり、あなたの新作『All Mirrors』に通じる要素を兼ね揃えているような気がしました。あなたはMagnetic Fieldsのどんなところが好きでしたか?

ゴス・バンドもやっていたのは知らなかったな。好きになった理由は、ボーカルが低音なのと、曲にドライなコメディのような要素があるところが気に入ったの。十代の頃の私の気分と一致していたからだと思う。

──新作『All Mirrors』ですが、もともとはMount EerieことPhil Elverumが所有するワシントン州アナコーテスの教会を改修したスタジオで、弾き語り作品として録音したと聞きました。どうしてアナコーテスを最初のレコーディング場所に選んだのでしょう?

もともと、前作『My Woman』で一緒に作業をした、友人のMichael Harrisが教えてくれたの。Philがそのスタジオを使っているかどうかってことよりも、その場所自体にすごく惹かれるものを感じた。ここ数年に自分に変化や、成長しなきゃいけないような経験が多かったこともあって、彼(Phil)がそこでレコーディングしたアルバムを聴いて、それと同じ場所で自分もレコーディングするのが、作品の題材にも自分の気分にもふさわしいと感じていた。彼に連絡をとって、「今もスタジオって使える状態なの?」と聞いたら、彼自身もNYに引っ越していて、「長い間そのスタジオに行ってないから現状は分からないけど、機材はずっと昔のまま置いてあるはずだ」って返事だった。彼はしばらく音楽を作っていなかったけど、ちょうど久しぶりの新作が出たところだから、私も楽しみにしているの。

──あなたは今回ドラマ『ツイン・ピークス』に影響を受けたと語っていましたが、面白いのは以前Philが、「アナコーテスはツイン・ピークス(ドラマの舞台になった架空の町)に似ている」と語っていたことです。

そういう風に見たことはなかったけど、確かにそう言われてみればちょっとそういう不気味さがあるかも。ハロウィンの日にPhil Elverumのスタジオに居たんだけど、あの教会には絶対幽霊がいると思う。

──アナコーテスで録音したデモを、2014年の前々作『Burn Your Fire for No Witness』をプロデュースしたJohn Congletonに送ったことからアルバムが発展していったそうですが、彼は最初の候補だったのでしょうか? どうしてJohnに頼もうと思ったのですか?

なんでかはわからないんだけど、曲を書いたりしているときに彼のことが頭に浮かんでいたの。前から彼とは友人だったけど、今回本当に友人として深く知ったと思う。最初は彼とRonsonの間で迷っていたんだけど、Ronsonは忙しいだろうし、彼のやり方が私の作品に合うかどうかも分からなくて少し迷っていた。例えば彼のスケジュールが忙しくて制作が細切れになってしまうとしたら、私はコントロール・フリークで早く完成させないと気分が落ち着かないタイプだから、うまくいかないかもって心配で。悩んでいたら彼の方から「やりたいけど正直スケジュールが厳しいかもしれない」って連絡が来て、悩む必要がなくなった。Johnは前からいつもまた一緒にやろうって声をかけてくれていたし、今回改めて彼と一緒に作って、彼との仕事のしやすさとか、この数年で彼との関係がどう変わったかとかを実感して、彼とこのアルバムが出来て良かったと思う。Ronsonとはまたいつか機会があればぜひ一緒にやりたいと思っているけどね。ただ、お互い予定の空きが重なることがいつあるのか全くわからないな。

──以前からJherek Bischoffのファンだったので、ストリングス・アレンジと指揮で彼が参加しているのも嬉しい驚きでした。彼とJohn CongletonはAmanda Palmerのアルバムで共演しているので、もしかしたらJohnの紹介だったのではないかと思うのですが、以前にJherekの作品を聴いたことはありましたか? 本作での彼のアレンジや指揮の感想も聞かせてください。

そう、Johnの紹介で、紹介してもらえて本当に良かったと思っている。彼は私が今までに出会った中でも最もエネルギーに溢れてて、前向きで、勤勉な人の一人で、すごい傑作を一晩の間に作ってしまうようなタイプなの。彼のことはちょっと知っていたけど、彼のアイデアや才能が私の作品に与えた影響は私の予想をはるかに超えていた。「Lark」とかに彼の実験性がよく表れていると思う。彼のやってくれた曲はアルバムの中でも特に気に入っているものが多いから、彼にやってもらえて本当に良かった。



──アルバム冒頭の「Lark」のストリングスは、家が燃えているように聴こえるのが映画のラストシーンのようで、ラストシーンからアルバムが始まるのが良いと話していましたが、海外のインタビューであなたが名前を挙げていた『サンセット大通り(Sunset Boulevard)』も、まさにそんな映画ですよね。アルバムの大半の曲をあなたと共作したBen Babbittも映画のサウンドトラックを手掛けていますが、本作を作るうえで他にイメージした、もしくは本作の曲がフィットすると思う映画があれば教えてください。

うーん、『All Mirrors』は私のこれまでの作品の中で最も映画的だと思うけど、そう感じたのはアルバムが完成した後だった。ストーリーテリングとかはいつも重視しているけど、今回はたまたまそれが映画的な形で表れたんだと思う。特に意識して見ていた映画はなくて、強いて言うならこの頃古い映画を色々見るようになって、そこからビジュアル的なインスピレーションを受けたりはしていた。でも曲を書いていたときは、これは全部私自身の人生や体験についてだから…例えば「Endgame」はただのラブソングじゃなくて、「ただ恋愛をするんじゃなくて、それよりもっと深いもの、頼ることが出来て、ただ一緒にいるっていう以上の存在になってほしい」ってことを歌っていて、そういうものこそに意味があるんだっていうことを、歳をとるごとに実感することについての歌。そしてこの曲を書くのに映画などのインスピレーションは必要なかったし、全て私に実際に起きたことから生まれているの。自分のプライベートを全部さらけ出すつもりはないから、いちいちその実体験について話したりはしないけど、私を個人的に知っている人たちは、みんな私が短期間に大きな変化の渦中にいたことを知っていると思う。今はそれも全て過ぎ去って、多少平和な生活を送れているけどね。


※「All Mirrors」のビデオに影響を与えたという1924年のロシア映画『アエリータ』


──アルバム中、「Too Easy」、「Spring」、「Summer」の3曲にはストリングスが加えられていませんが、ストリングス入りのバージョンも存在するのでしょうか? それとも、はじめから少数編成で録音しようと決めていたのでしょうか? その理由も教えてください。

最初に曲を書いていたときはストリングスを入れる予定はなかったし、入れると決めてからもどうやって入れるかはっきりしてはいなかった。実際入れてみると、自分が思っていたよりもかなり多く入れる結果になったの。最初からそんな感じだったから、実際ストリングスの曲とシンセの曲が混ざった全曲にストリングスが入っていなくても良くて、違ったテクスチャーが混じって変化がある方が良かった。それにツアーでは13人編成のストリングスを連れて回れないから、ライブ・バージョンにアレンジしないといけないしね。

──後期ビートルズのような「Spring」と、グラム・ロックのようなビートが印象的な「What It Is」は、今までにないタイプの曲だと思いました。それぞれ参考にした曲があれば教えてください。

どちらも基本的にはJherekのアレンジによるところが大きいと思う。私が一人で書いた曲と、彼がストリングスを加えた後では、かなり変わっているから。(「What It Is」は)ちょっと『ウエストワールド』みたいな、SFウェスタンな雰囲気が気に入っている。「Spring」は終盤でBrian Eno & Robert Frippみたいな感じを意識しているの。ああいうサウンドに影響を受けてきているし、彼らがキーボードをギターのように、ギターをキーボードのように演奏するのが好きで、同じようなことをしてみたかった。

──最近マイホームを購入したそうですが、今一番欲しいもの、買いたいものがあれば教えてください。

自分のために? ……うーん、自分自身のために欲しいものはないかな(笑)。休みが欲しいかも。1ヶ月リスボンで休暇を過ごせたら最高だな。


Angel Olsen - All Mirrors
(Jagjaguwar)

1. Lark
2. All Mirrors
3. Too Easy
4. New Love Cassette
5. Spring
6. What It Is
7. Impasse
8. Tonight
9. Summer
10. Endgame
11. Chance