photo by Dustin Condren

4ADからリリースされ絶賛された前作『U.F.O.F.』からわずか半年足らずで、早くも今年2枚目となる新作『Two Hands』をリリースする4人組ロック・バンドBig Thief。ライブでも演奏されていない実験的な曲が多かった前作と比べると、既にライブで定番となっている曲を数多く収録した『Two Hands』は、極限まで無駄を削ぎ落とした、バンド本来の演奏が聴ける作品となっている。

そんなBig Thiefの核となっているのは、両親と共にインディアナ州のカルト集団から脱退し、15歳の時にシンガー・ソングライターとしてデビューしたというヴォーカル&ギターのAdrianne Lenkerが持つ、圧倒的なカリスマ性だ。しかし同時に、「彼女たちを見ていると、あの4人以外の誰かは必要じゃないような気がしてくる」とboygeniusのLucy Dacusが語るように、メンバーからはまるで血の繋がった家族のような、強い絆が感じられる。

新作のリリースにあたってバンドにインタビューする機会を得たのだが、Adrianneには雑誌『ミュージック・マガジン』の5月号でその生い立ちについて語ってもらったこともあり、今回はMega Bogの傑作『Dolphine』にも参加していた、ドラマーのJames Krivcheniaを指名。“天上と地上の双子”だという2枚のアルバムが出来るまでについて、エンジニアでもある彼ならではの視点で語ってくれた。




まるで宇宙が銀のお皿にチャンスを載せて
自分に向けて出してくれたみたいだった


――Big ThiefのギタリストのBuck MeekやMega BogのErin Bargyは最近ロサンゼルスに引っ越したそうですが、あなたはまだニューヨークに住んでいるのでしょうか?

僕も数ヶ月前にロサンゼルスに引っ越したんだ。バンドはみんなニューヨークで出会ったんだけど、その後ツアーをたくさんしていて、どこに住んでいるのかがよく分からない状態になっていた。それから僕は1年ほどニューメキシコ州の、周りに何もない所に住んでいた。それで4月か5月にロサンゼルスに引っ越したんだよ。

――なぜロサンゼルスに引っ越そうと思ったのですか?

理由は色々あったんだけど、友達が近くにいる方がいいなと思って。ニューメキシコは最高だったけど、孤立していて寂しかった(笑)。仕事ははかどったけれど、1年経ったら、友達や他のミュージシャンの近くにいる方がいいなと思った。他の人の創作意欲に触れたいと思ったんだ。

――あなたはもともとBig Thiefのファースト・アルバム『Masterpiece』にエンジニアとして参加していて、その後ドラマーとして加入しましたよね? 他の3人はバークリー音楽大学の出身ですし、AdrianneとBuckはもともとデュオとして活動していたので結束が強かったと思いますが、どのようにバンド・メンバーと打ち解けていったのでしょう?

僕はもともとAdrianneの音楽を少し知っていて、彼女のソロ・ライブを観に行ったりしていた。彼女とBuckがライブをやるのも時々観に行っていた。けれど彼らと知り合いになったのは、『Masterpiece』や、他のBig Thiefのアルバム全てを手掛けたプロデューサーのAndrew Sarloを介してなんだ。僕とAndrewはもともと友達で、僕はニューヨークのThe Bunkerというスタジオでエンジニアとして働いていた。AdrianneとBuckがアルバムを作るという話をAndrewとしていた時に、僕もエンジニアとして参加することになった。その時に彼らと会った。そのセッションの途中で彼らのドラマーが脱退したから、「僕が適任だと思うんだけど?」と彼らに言ったんだ(笑)。

――そうなんですね。ドラムは昔からやっていたのですか?

ドラムは何年もやっていたよ。まるで宇宙が銀のお皿にチャンスを載せて、自分に向けて出してくれたみたいだった。僕はドラムを昔からやっていて、彼らの音楽が好きで、自分がバンドに加わることによってバンドを良い方向に持っていけると思ったし、音楽についてのアイデアも考えていたから。

――新作『Two Hands』収録曲は、ほとんどが今年の5月にリリースされた前作『U.F.O.F.』よりも前、古いものだと2017年の前々作『Capacity』以前からライヴで披露されている曲ですが、2枚のアルバムを立て続けに録音して、半年のうちにリリースするというプランは、いつ頃思いついたのでしょう?


去年の始めごろだと思う。去年の2月にアルバムの全ての曲のデモを作った。カリフォルニアで1ヶ月間かけて、35〜40曲のデモを作った。今までAdrianneが書いてきた曲全てを。アルバムを作ろうという話をした時にすぐ気付いたのは、いい曲がたくさんありすぎて、1枚のアルバムには収まらないということだった。2枚組も考えたけど、それはやりすぎだと思った。一度に聴く音楽が多すぎると思ったんだ。そこで、具体的にいつかは覚えていないけど、ふたつの雰囲気の、ふたつの特有のセッションはどうだろう? ということになった。でもレコーディングの時期は同じにして、どちらのアルバムも完成できるようにした。このやり方が、僕たちが録音したい音楽全てを完成することができる方法だった。

――既にライヴの定番になっている曲が多い『Two Hands』と比べると、『U.F.O.F.』はライヴで演奏されていない実験的な曲も多いですが、この2枚の色分けやリリースの順序については、どのように考えていたのでしょう?

2枚のアルバムは“天上と地上の双子”と呼んでいた。でも全ては抽象的なイメージで、直感的な感覚で決めていたよ。どの曲をどちらに入れたら、良い作品集になるかというのを考えていた。まとまりのある作品になるためには、どうやって曲たちをまとめれば良いかというのを考えていた。録音している時は、どちらを先にリリースするかは決めていなかった。それは後で決めれば良いと思っていた。結局、『U.F.O.F.』を先に出すことになったけど、それは『U.F.O.F.』を先に録音したからという理由だけだと思う。この2枚はペアだということが感じられるように、短い期間の内にリリースしたかった。でもリリースの順番は後から決めたんだよ。


――前作『U.F.O.F.』に収録されていた、「Century」や「Strange」といったリズム主体の曲も、もともとはAdrianneがギターで書いたと聞いて驚いたのですが、新作についてはどうですか? Adrianneが書いた曲にリズムをつける時に、どんなことに気をつけていますか?

通常の流れとしては、Adrianneが作曲をして、できたものをバンドに披露する。1人1人に披露するときもあるよ。曲ができたエイドリアンは興奮していて、それをみんなに共有してくれる。最初、僕はそれを聴いて、曲の感じを掴んで、あまり考え過ぎずに、音楽に合わせて、自然に出てくるものを演奏する。でも意識しているのは、歌詞のための余白を残しておくことと、歌詞とヴォーカルで既にいい感じになっているものを損なわないということ。けれど同時に、ある安定した感覚を生み出すということも考えている。僕が好きなのは、すぐに入り込めるグルーヴなんだ。僕は、ゆっくりとビルドアップして壮大な感じになる曲よりも、最初からすごいと感じられる曲に魅力を感じる。最初のヴァースはドラムが一切なくて、シンバルが入ってきて…というような超ダイナミックなアレンジメントよりも、最初からロックしてずっとロックしている方が好きなんだ(笑)。だからそういうことは常に頭の隅で意識しているよ。でも大体の場合、みんなで演奏していると、何が上手く行って、何が上手く行っていないのかが分かってくる。

――『Two Hands』はBon Iverも新作を録音したテキサスのソニック・ランチ・スタジオで録音されていますが、先日そのBon Iverの新作をプロデュースしたBrad Cookとあなたが、同じソニック・ランチ・スタジオでKevin Morbyと一緒にレコーディングしている写真を見ました。これらの出来事は、どのように繋がっているのでしょう?

Bradとは、友達のMeg Duffyを介して出会った。Megのバンド、Hand HabitsのアルバムをBradがプロデュースしていたから。Bradはとてもポジティブなナイスガイだった。だから彼と一緒にいるのは楽しかったよ。彼とはその後フェスティバルで一緒になったりして、偶然会う機会が何度かあった。Bradは、僕のドラミングを気に入ってくれたし、僕もBradと一緒にいるのが好きだったから、一緒にコラボレーションする機会が何度かあって、この写真もその時のものだよ。でもそのセッションについては、実はこれ以上は言えないんだ(笑)。




――新作の収録曲中「Two Hands」と「Replaced」は先月初めてライヴで披露されてますが、この2曲についてはいつ頃書かれたものなのでしょう?

「Two Hands」と「Replaced」は、2曲とも2018年2月に書かれたものだね。デモを作る直前に書かれたから。デモを作るという時に、ロサンゼルスへのロードトリップ帰りのエイドリアンが新曲を5曲くらい持ってきたんだ。あの2曲はその5曲に入っていたから、去年の始めということになるね。

――アルバムの10曲中、2曲を除く8曲がオーバーダブなしで録音されたとのことで、2曲のうちの1曲は「Two Hands」だと思うのですが、もう1曲はどれですか? また、どの部分をオーバーダビングしたのでしょう?

曲は「Those Girls」で、オーバーダビングしたのは歌っている所だと思うよ。他の曲にもタンバリンの音とか、オーバーダビングしているところはいくつかある。ほんのわずかな部分だけどね。でも「Two Hands」と「Those Girls」以外は、ヴォーカルもライブで撮ったんだ。「Those Girls」はまだセッティングしている時にみんなが演奏していて、それがとても良く聴こえたから、エンジニアのDom Monksが「今の雰囲気は最高だから、この感じを撮ろう」と言って録音した。それを後で聴いたらすごくグルーヴィーだったから、その上にAdrianneが歌を載せたんだ。

――アルバムに“Tape Liaisons(テープ接続係)”としてミュージシャンのSam Owensの名前がありますが、「Two Hands」のギター・ソロはテープを逆回転しているようにも聴こえます。これはどのように録音したのですか?

あの部分はギター・ソロを入れたかったんだけど、何か変わったことをしたいと思った。そこで、トラックを半分のスピードで再生して1オクターブ低くした。バックは通常のスピードでギターを演奏してトラックに合わせてオーバーダビングしたんだけど、トラックは半分の速さで再生されていた。そして、トラックを普通のスピードに戻すと、ギター・ソロが2倍速く聴こえて、1オクターブ高く聴こえるんだ。そうやってあの効果を出したんだよ。

――技術的な部分で、今回他に試してみたことはありますか?

色々試したよ。実際の録音を始めるまでに3日間もかかったんだ。荒削りな感じにしたいのは分かっていたんだけど、スタジオで色々な配置を試していて、演奏したものを聴き返していたんだけど、最初の1日2日は、演奏したものをみんなで聴いても「うーん、あんまり良くないよね…」「あんまり良いサウンドじゃないよね…」という感想だった(笑)。Domも、僕たちが「どうだろう? あんまり良いサウンドじゃないよね?」などと言っていたから、プレッシャーを少し感じていたと思うよ。良いと思える環境がすぐに出来上がらなくて、みんなガッカリしたり、イライラしたりしていた。そこでDomが提案したのは、アンプを下げて、ヘッドホンをしないで、自然な音を追求するということだった。DomとSarloのアドバイスのもと、バンドのみんなは機材を動かすのをお互いに手伝って、最適な配置になるようにした。AdrianneとBuckは、普段のサイズよりもずっとちいさいアンプから演奏することになった。大きなアンプの爆音だけなく、みんなが全ての音を聴けるようにね。バンドのみんなが同じ部屋にいて、Adrianneのアンプが部屋の真ん中に配置されて、みんなが彼女の声を聴こえるようにした。僕はセッションの間ずっとヘッドホン無しでやった。とても素敵だったよ。部屋の音だけを聴いて、録音プロセスは一切気にしていなかった。だから、僕たちが満足するような音がスタジオで出せるようになって録音するまでには、結構時間がかかったんだ。でも、それができた後の流れはずっと楽だった。

――Big ThiefはAdrianneがヴォーカル、Buck Meekがコーラスというパターンが多いですが、前作の「Jenni」や本作の「Not」には、あなたもヴォーカルとしてクレジットされています。あなたが歌う曲はどのように決めているのでしょう?

それは自然に決まるんだよね。音を聴き返す時には、自分のエゴを出し過ぎないように、みんな気をつけている(笑)。ライブと録音の時の歌い方も違うよ。ライブの時は、コーラスの部分をみんなで歌ったりする。スタジオで録音している時は、みんなで音を聴き返して、「Jamesだけが歌う方が良い」とAdrianneが言ったりする。そこでみんなも「そうだね」と言う。僕も同感だった。でも、バンドのみんながバック・ヴォーカルを歌いたいと思って、30分くらい壮大な感じで歌い上げるんだけど、最終的にはBuckだけが歌う、という時も多々あるよ。Buckだけが歌ったらどうなるか、とかAdrianneがオーバーダビングしたらどうなるか、とか色々なパターンを試してみる。みんな、一番良いサウンドを求めてやっているから、別に自分がそこに含まれていなくても平気なんだ。僕たちが求めているのは最高なサウンドだからね。



――歌詞のことは答えづらいと思うのですが、「Those Girls」に出てくるZoe(ゾーイ)というのは、前作にも参加していたAdrianneのお姉さんのZoe Lenkerのことしょうか? 彼女はどんな人ですか?

どんな人かというのは僕は説明できないけれど、あの曲に出てくるZoeは、確かにAdrianneのお姉さんのことだよ。

――『U.F.O.F.』にも『Two Hands』にも収録されていない曲がまだいくつかありますが、もしかして既に録音していたりするのでしょうか? 

次のアルバムはまだ録音していないよ。まだ考えているところなんだ。

――一度決まりかけていた来日がキャンセルになったことがあったそうですが、今後来日の予定はありますか?

まだ完全に決まったわけではないんだけど、日本に行けるように調整しているところだよ。


Big Thief - Two Hands
(4AD / Beatink)
2019.10.11 release


Big Thief - U.F.O.F.
(4AD / Beatink)
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