photo by Tonje Thielsen

グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」には、お菓子の家の魔女に捕まった兄のヘンゼルを救い出す、勇敢な妹のグレーテルが登場する。一方、フィラデルフィアのシンガー・ソングライター(Sandy)Alex Gの「Gretel」という曲で歌われているのは、魔女に兄を殺させ、お菓子を貪り続ける身勝手な少女だ。

Frank Oceanの『Blonde』と『Endless』でギターを弾いていたことで一躍脚光を浴びたAlexが間もなくリリースする新作『House of Sugar』のタイトルもまた「ヘンゼルとグレーテル」を思わせるものだが、一般的には“House of Candy”と英訳されることの多いお菓子の家の“Candy”を、彼が“Sugar”に変えた理由は何だったのだろう。

実は古くから砂糖の精製で有名だったフィラデルフィアには、砂糖工場を改築した“SugarHouse”というカジノがあり、そこに時々通ってはルーレットに興じていたAlexは、そのカジノにちなんだタイトルをつけたのだという。そしてフィラデルフィアに実在する通りから命名された「Hope」という曲では、こんな風に歌われている。

 彼は僕の親友だった/彼は死んだ/どうして今更そのことを書くんだ?
 彼にどうにか敬意を表するため/その晩泣いている人たちを見た
 そう、フェンタニルは僕らから幾つかの命を奪った


ドラッグを暗喩する“Sugar”やギャンブルなど、甘い誘惑や欲望に負けてしまう人たちを描いた寓話とも言える本作について、Alexが話してくれた。




悪いことは、ここでは言えない
良いことが何かもわからない


――同名の女性シンガーとの混同を避けるために、前作『Rocket』で名義をAlex Gから(Sandy) Alex Gに変えましたよね。あなたの初期の曲で、「Sandy」という曲もありましたが、どうしてこの名前を選んだのでしょう?

「Sandy」が、初めてbandcampに公開した曲だったから。もう10年前以上のことだよ。もともとそこから始まったという意味で、名前に(Sandy)と付けたんだ。



――あなたはデビュー当時から一貫してセルフ・レコーディングを続けていますが、Domino移籍後の前々作『Beach Music』からは、Unknown Mortal OrchestraのJacob Portraitがミックスを手掛けています。彼と出会ったきっかけと、どんなところが気に入っているのか教えてください。

彼と出会ったきっかけは、ミックスを担当する人として、DominoがJacobを勧めてくれたから。自分の音源をミキシングのために人に渡すということは、彼以外の人にはしたことがないんだ。彼との作業は上手く行っているから、他の人に任せたいとは思わなくなってしまったね。

――新作『House Of Sugar』も含めて、あなたのアルバムのアートワークはほぼ毎回お姉さんのRachelが描いていますよね。毎回タイトルとモチーフが関連無いようにも思えるのですが、あなたからお姉さんにリクエストするのでしょうか? それとも、お姉さんはアルバムを聴いた印象を絵にしているのでしょうか?

Rachelは大抵の場合、音楽に関連する絵を描いてくれる。絵を描く前に、俺が音楽を渡すから。だけど今回に関しては、具体的な絵をリクエストした。Rachelは昔フィギュアスケーターをやっていて、彼女のフィギュアスケートをやっている写真をもとに、絵に描いてもらったんだ。



――新作には父や母、兄弟といったフレーズが登場しますが、あなたのお姉さんやご両親はどんな人で、あなたにどんな影響を与えましたか?

家族は結構普通の人たちだったよ。俺は姉ととても仲が良かったから、姉と一緒に遊ぶことが多くて、彼女をいつも尊敬していた。

―― 新作『House Of Sugar』からのリード・トラックは「Gretel」という曲でしたが、これはあなたとお姉さんをグリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」(あれは兄妹でしたが)になぞらえているのでしょうか? あの童話のどんなところに惹かれますか?

この曲は姉について歌っている曲ではないんだ。でも「ヘンゼルとグレーテル」の何が好きかというと、お菓子で出来た家や、死ぬまでたらふく食べる、という、発想が変わっている物語だというところだね。



――アルバムにも全体を通して“砂糖”や“食べる”といった言葉が繰り返し登場するのですが、なにかコンセプトのようなものがあったのですか?

深く考えられたコンセプトではないけれど、今回のアルバムのテーマとして触れたのは、耽溺しすぎることや、自分を甘やかしすぎること、そして自分の制御の効かない欲望に屈服することだね。

――本作は中盤に並んだ実験的なビートの曲を、前半と後半のフォーキーな楽曲が挟む形になっていて、その点では前作の『Rocket』にも共通していますが、この曲順には意図があったのでしょうか?

前作もそうだけど、アルバムを信頼できるものにしたいという意図があって、こういう曲順にした。正常性というもので間を挟むことによって、アルバムの真ん中で、好きなだけ探求することができる。この構成にしておけば、あまりクレイジーな感じにはならないと思ったんだ。

――Bruce Springsteenを思わせるラストの「SugarHouse」はライヴ録音ですが、どうしてこの曲だけライヴ録音したのでしょう?

理由はいくつかあって、ひとつは、一緒に演奏しているバンドに対して、俺からの深いリスペクトを表したかった。何年も同じバンドと一緒にツアーをしてきているから、彼らをアルバムに含めたかった。もうひとつは、ライヴ録音をスタジオアルバムに収録するということ自体がひとつの実験だと思ったから。そうすることによってアルバムに深みが出ると思った。

――あなたはRyan HemsworthやFrank Ocean、Oneohtrix Point Neverといったアーティストの作品に参加していますが、彼らとの作業からは影響を受けましたか?

あまり影響は受けなかったな。一緒に作業したことはとても楽しかったし、彼らをミュージシャンとして常に尊敬はしているけれど、俺には既に確立された制作方法があって、そのやり方が俺には合っているから、それを変えようとは思わないんだ。





――ビートメイクという点で、影響を受けた人がいれば教えてください。

Aphex TwinとThe Knifeはすごく好き。あと、Boards Of Canadaというグループもすごく好き。エレクトロニック音楽で好きなアーティストはこの3つだね。

――インスト曲「Project 2」のサウンドは実際にOneohtrix Point Neverにも通じると思うのですが、この曲はなぜ「Project 2」というタイトルなのでしょう?

なんでだったか俺も分からない(笑)。ファイルを作った時に自動的に付けられた名前が「My Song 2」だったけど、実験的な曲だったから「Project 2」というファイル名に変えたのかもしれない。結局その後、曲に名前を付けなくて、出来上がった曲も異質なものだったから、「Project 2」という科学の実験みたいな名前をそのまま使うことにしたんだ。

――あなたがFrank Oceanの作品に参加することになったのは彼のマネージャーから誘われたからで、あまり会話はしなかったそうですが、その後フェスティバルで彼のギタリストを務めたそうですね。以前よりも親しくなりましたか?

Frank Oceanと一緒に音楽をやるのはとても楽しかったけれど、俺たちは特に親しいというわけじゃないよ。彼のことはとてもリスペクトしているけれどね。



――ギタリストとしてはもちろん、あなたが弾くピアノも好きなのですが、ピアノはどうやって学んだのでしょうか?

俺の兄がピアノを弾いていて、兄はピアノがとても上手だった。俺も兄みたいになりたくて、子供の頃に、両親にねだって、ピアノ教室に入れてもらったんだ。だから子供の頃に2年ほどピアノを習っていた。

――そういえば、Clairoというシンガー・ソングライターがあなたの曲をよくカバーしていますが、聴いたことはありますか? 

共通の友達がいるらしくて、彼女の名前は聞いたことはあるよ。けれど、音楽は聴いたことがないからチェックしてみるよ。俺の曲をカバーしているなんて嬉しいね。



――あなた自身がカバーしたい曲や、今後コラボレートしたいと思うミュージシャンがいたら教えてください。

俺は自分の曲を作る方が楽しいと思うから、あまりカバーをしたいと思わない。また、ミュージシャンである人たちはみんな尊敬しているけれど、誰かとコラボレートしたいという具体的な欲望は無いんだ。自分のやり方でやるのが好きだから。他の人をサポートしたり、他の人の音楽に加わったりするのは喜んでやるけれど、自分の音楽に関しては、他の人が加わるという必要性を感じていないね。

――アルバムには“俺は悪い男”(「Bad Man」)、“俺はずっといい子だった”(「Sugar House」)、“良い音楽を聴くと悪いことがしたくなる”(「In My Arms」)といった歌詞が出てきますが、あなたがこれまでにした一番良いことと、悪いことを教えてください。

(笑)それは難しい質問だな! 一番良いことは…良い答えがあればいいんだけど、見つかりそうもないよ。

――良いことも悪いことも、思いつかなさそうでしょうか?

悪いことは、ここでは言えないよ(笑)。良いことが何かもわからないな。

通訳:青木絵美