予定より3週間も早く、昨日8月8日(∞∞)に急遽リリースされたBon Iverの新作『i,i』にジャーナリストのLaura Bartonが寄せたライナーノーツに、興味深い一文がある。

「Bon Iverのアルバムタイトルには必ずカンマが入る。つまりふたつの考えとふたつのものが存在するということ」

すなわち2008年のデビュー作『For Emma, Forever Ago』、2011年の『Bon Iver, Bon Iver』、2016年の『22, A Million』、そして今回の『i,i』だ。

アルバムタイトルだけでなく、本作の収録曲のタイトルに含まれる“i”はすべて小文字で表記されているが、それについてJustin Vernonは「どれだけ自分が大事なのか、または大事ではないのか、そして僕らみんながいかに繋がり合っているのかを意味すると言えると思う」と説明している。

その言葉通り、昨年JustinとThe NationalのDessner兄弟が立ち上げたミュージシャン主導のコレクティヴ“PEOPLE”のコンセプトを踏襲するかのごとく、本作にはJames BlakeやMoses Sumney、Bruce Hornsby、Velvet Negroni(意外なところではFogことAndrew Broderも)といった様々なコラボレーターが参加し、またはソングライターとしてクレジットされているが、そこには大文字の“I”であり、全曲を共作しているはずのJustin本人の名前は含まれていない。

今回のアルバムは地元ウィスコンシン州を離れ、テキサス州の広大な農場にあるソニック・ランチ・スタジオ(Animal CollectiveやBeach House、Deerhunterらが過去に録音している)で6週間かけて制作されたそうだが、その近くにはメキシコとの国境沿いに建てられた、作りかけの壁があったという。時にはレコーディングを止めて国境沿いに向かい、「そこに立って、メキシコに触れ、そして壁にも触れられる」と語るJustin。

アルバムのリリースに先駆けて、まずは5、6曲目にあたる「Hey, Ma」と「U (Man Like)」が公開され、続いて8、9曲目にあたる「Jelmore」と「Faith」が公開されたが、それはアルバムの全13曲のちょうど中心にあたる7曲目の「Naeem」を挟んで、シンメトリーを成しているのがわかる。

ということは、この「Naeem」こそがこのアルバムにおける“カンマ”であり、“i”と“i”、国と国とを隔てる壁を意味しているのではないだろうか。昨年の12月、「まだ完成すらしてないけど、みんなに聴かせたいんだ」と言っていち早くライブで演奏されたこの曲では、“カースト”や“階級”といった言葉が歌われ、「I can hear, I can hear, I can hear you crying(聴こえる、聴こえる、きみが泣いているのが聴こえる)」と何度も繰り返されるが、それは文字通り本作のセンターピースであり、音楽的、感情的なハイライトだ。



この曲はまた、昨年ミネソタ州のダンス・カンパニーであるTU DanceとBon Iverがコラボレートした舞台「Come Through」でも披露されているが、その際にJustinのヴォーカルにかけられていたエフェクトは取り除かれ、より生身に近い歌声を聴くことができる。これに関しては元バンドメイトであり、本作にも共同プロデューサーとして参加しているMegafaunのBrad Cookの助けによるものが大きかったと、Justin本人は語っている。

「Bradの分析によると、僕がボーカルをディストーションしていたのは、僕が恐れていたからだと。彼は曲はクールだと言ってくれたんだけど、でも人の心に本当に届くのはそれじゃない。君が歌うのが本当に聴きたいんだ、と」

「i,i」というタイトルは“eye,eye”と読むこともできるが、それはまた、2つの目が涙を流しているようにも見える。恐れを取り除き、壁を隔てた2つの“i”が“We”になる瞬間、それこそが本作でJustin Vernonが描きたかったことなのかもしれない。


BON IVER - i, i
(Jagjaguwar / Big Nothing)
2019.8.28 release

1. Yi
2. iMi
3. We
4. Holyfields
5. Hey, Ma
6. U (Man Like)
7. Naeem
8. Jelmore
9. Faith
10. Marion
11. Salem
12. Sh’Diah
13. RABi

‘本盤特殊仕様:日本オリジナル・アートワーク、ワイドケース、36Pブックレット(全ぺージ、ニス・コーティング)、投げ込み解説
Laura Barton(ローラ・バートン)による解説、歌詞/対訳(中村明美)付
F本先行発売