2019年も下半期に突入! Vampire WeekendやThe National、Weyes Bloodなど、今年もたくさんの話題作がリリースされていますが、今回はその中からMonchiconが「もっと注目されてもいいと思うアルバム」を、10枚選んで紹介したいと思います。




Tredici Bacci - La Fine Del Futuro
(NNA Tapes)

John ZornやSun City GirlsのAlan Bishop、FoetusことJG Thirlwellなど、アヴァンギャルド系のミュージシャンにEnnio Morriconeの映画音楽の信奉者は多いが、ボストンのロック・バンドGuerilla Tossのベーシスト、Simon Hanesもそのひとり。前作に続いてJG Thirlwellをゲストに招いた本作では、総勢20人のオーケストラをバックに、バカラック・ナンバーの「Promises, Promises」に加え、Ryan Powerの2017年作から「The Calvary」を本人歌唱で再演。新しい“グレイト・アメリカン・ソングブック”が今ここに。(清水祐也)




Yak - Pursuit of Momentary Happiness
(Third Man Records)

時代を逆行するロックンロールをかき鳴らすロンドンの3人組が、デビュー作から約3年を経て帰還。J. SpacemanことJason Pierceの手によって、さらに骨太なサイケデリック・グルーヴへと仕上がった。若き頃のMick Jaggerそっくりなルックスを差し引いてもカリスマ的魅力のあるフロントマン、Oli Burslemが自身の経済的安定、精神の健康を含めた全てを犠牲にし、ここ日本含めた様々な国で音楽を作りながらの旅を経て、彼の芸術的ビジョンを探求した回答が本作だ。荒々しくも宇宙空間の中を漂うような恍惚としたサウンドは、まさに彼らが求める幸福の瞬間を表しているのだろう。(栗原葵)




Chris Cohen - Chris Cohen
(Captured Tracks / Sweet Dreams)


Deerhoofへの参加やWeyes Blood作品のプロデュースなど、多岐に渡る活動でUSインディー・シーンを縁の下から支えてきたChris Cohenの最新作は、誤解を恐れずに言えばこれまでで最も"SSW作品らしい"アルバムだ。技巧的なソングライティングとアレンジをベースにした、ほのかにサイケデリックでソフト・タッチなサウンドは過去作の延長線上にあるものだが、今作ではより一層メロディーへのこだわりと注力が見られる。そしてそこで歌われるのは、本作制作中に起こった両親の離婚と父親のカミングアウト、長年の薬物依存の告白を受けての自身の内省。自らの抱える不安や苦悩、葛藤を滲ませつつも、それらに向き合い前を見据える意志も同時に感じられる瑞々しい語り口が印象に残る作品だ。(山岡弘明)





Olden Yolk - Living Theatre
(Trouble In Mind)

40年代にジュリアン・ベックとジュディス・マリーナ夫妻が設立したニューヨークの実験劇団リヴィング・シアターからタイトルを拝借した、Olden Yolkのセカンド・アルバム。もともとはサイケ・フォーク・バンドQuiltのShane Butlerによるソロ・プロジェクトだったが、現在はCaity Shafferを加えたデュオとなっており、本作にも2人の楽曲が交互に収められている。The Go-Betweensへのオマージュと思しきShaneの「Cotton and Cane」や、Broadcastを彷彿させるCaityの「Distant Episode」。ふたつの個性が織り成す、美しいモンタージュ。(清水祐也)





SASAMI - SASAMI
(Domino)

Cherry Glazerrのメンバーとして活動していたSasami Ashworthが、SASAMIとしてDomino Recordsからリリースした初のソロ・アルバム。Beach Fossilsの中心人物 Dustin Payseurをフューチャーした「I Was A Window」を序章として、轟音のギター、無機質なエレクトロによって紡がれる美しくもメランコリックな世界観が広がっていく。親しい人々へ書いて送ることのなかった手紙のコレクションと日記のミックスだという本作は、自身の名前を冠したように、誰のものでもない彼女の人生の軌跡と吐き出した感情が込められた1枚だ。(栗原葵)




Julian Lynch - Rat's Spit
(Underwater Peoples / PLANCHA)


ニューエイジ音楽がここ数年欧米を中心に盛り上がりを見せているが、図らずも(?)同じようなムードを湛えた作品をリリースしたウィスコンシン州のSSW、Julian Lynch。アメリカのスミソニアン博物館の傘下にある非営利レーベル、〈スミソニアン・フォークウェイズ〉で働いていたこともある彼が今作で作り出したサウンドは、掴みどころが無い程に多層的でシームレス。とりわけHenry KaiserやAdrian Belewら独創的なプレイで知られるギタリストらに影響を受けたサウンドはギターのものとは思えないほど重厚だ。彼のこれまでの作品に通底して感じられた非欧米圏〜民族音楽のエッセンスも同時に絡み合った、何とも不思議で有機的なフォーク・アルバム。(山岡弘明)





Rustin Man - Drift Code
(Domino)

Mark Hollisの訃報の数週間前にリリースされた、元Talk TalkのベーシストPaul Webbによるソロ・プロジェクト。PortisheadのBeth Gibbonsをヴォーカルに迎えた2002年の前作から一転、今回はRobert Wyattを思わせる自身の歌声を披露している。Talk Talk時代からの盟友でもあるドラマーのLee Harrisと共作した「Our Tomorrow」は、初期のSoft Machineのアルバムに入っていてもおかしくないプログレッシヴ・サイケの名曲。57歳にしてなお、その創造力は錆び付くことを知らない。(清水祐也)




Indoor Pets - Be Content
(Wichita)

UKケントで結成したパワーポップ・バンド、Indoor PetsのWichita Recordingsからリリースされたデビュー作。(本人たち曰くGet It Intoの短縮で他意はなかったようだが)元々はGet Inuitと活動していたのをイヌイット族への文化の盗用だとバッシングされて改名を余儀なくされたそう。Weezerのような90年代のエモ・ポップや10年代のLAのサーフ/ガレージ・ロックを思わせるポップでキャッチーな青臭いギター・ロックで、青春のキラキラが詰め込まれたような作品だ。(栗原葵)




Blueprint Blue - Tourist
(Toadspin / P-Vine)


玄人めいたセッション・パートが登場する2016年のEPに収録の「Good Dreams」や、昨夏に既に公開になっていたヨット・ロック丸出しな表題曲「Tourist」などから期待値高めだった彼らが、満を持して放ったデビュー・アルバム。何かひとつが主張するわけでもない、絶妙なバランスで配置された各楽器とそれらが生み出すスムースなグルーヴ、女性コーラスが混じるレイドバックしたメロディーは70sウエストコーストサウンド〜AOR以外のなにものでもないが、同時にどこかイマっぽくもある。スロウ・テンポの楽曲でもきちんと聴かせる事ができる、そのリラックスしながらも充実した音の"鳴り"は、never young beachら現行の日本の若手バンドと通じたりも。(山岡弘明)






Mega Bog - Dolphine
(Paradise of Bachelors)

遥か昔、陸に上がったイルカが人間に進化したという伝説に着想を得た、シアトル出身のミュージシャンErin Elizabeth Birgyによる不定形プロジェクトの最新作。現在ニューヨーク在住のErinが、前作に続いてHand HabitsやBig Thiefのメンバーを招いて録音したもので、彼女のアイドルだという永遠のボヘミアンKevin Ayersや、Mega Bogの音楽に惚れ込んでツアーに誘ったDestroyerを思わせる、フリーフォームなアート・ロック・アルバムだ。セルゲイ・パラジャーノフとイングマール・ベルイマンにインスパイアされたミュージック・ビデオも必見。(清水祐也)