photo:Zia Anger

いよいよ来週7月1日、“ワンマン・クワイア”の異名を持つシンガー・ソングライターのJulianna Barwickが、Kurt VileやKevin Morby作品への参加で知られるハープ奏者のMary Lattimoreと共に、4年ぶりの来日を果たします。

そこで今回は、2016年にリリースされた目下の最新作『Will』のライナーノーツを再掲。彼女の歩みを振り返りながら、その魅力を紐解いていきたいと思います。



ルイジアナ州の片田舎で生まれ、16エーカーもあるミズーリの広大な牧場で、羊の世話をしたり、野生のブルーベリーを摘んだり──まさに『大草原の小さな家』さながらの生活を送っていたというジュリアナ・バーウィック。その敷地内には何本もの木が生い茂っていたそうだが、なかでも一番大きな木のてっぺんを彼女は“マジック・プレイス”と呼んで、そこに登っては、何時間も空想にふけっていたそうだ。牧師を父親に持つジュリアナは、週に3回教会へ通うことが習慣になっていて、そこで賛美歌を歌うことの楽しさを知ったというが、同じ頃彼女は、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『太陽の帝国』を映画館で観て、劇中で使われていた音楽(少年合唱団が歌う「スオ・ガン」というウェールズ地方の子守唄)に、感銘を受けたと語っている。
 

そうしたエピソードを聞くと、いかにも浮世離れしたイメージを持ってしまうが、13歳の時に親の仕事の都合でオクラホマに引っ越してきたジュリアナは、エイミー・グラントやパール・ジャムに夢中になる、ごくごく普通の女の子だったそうだ。高校時代には姉の友人に誘われてロック・バンドを組んでいたこともあるそうだが、そんな彼女の音楽観を変えたのは、ある日偶然ショッピング・モールで見つけた、ビョークのファースト・アルバム。それ以来、何度もそのアルバムを繰り返し聴いていたというジュリアナは、次第にトーリ・エイモスやレディオヘッドといった音楽を知り、のめり込んでいったという。

以上はジュリアナ・バーウィックのファースト・アルバム『サングイン』の拙文ライナーノーツからの抜粋だが、オクラホマのコミュニティ・カレッジを卒業してニューヨークにやってきたジュリアナは、2006年にそのアルバム『サングイン』を自主制作でリリースしている。彼女のその後の活躍については、ご存じの方も多いだろう。友人であるヘラド・ネグロことロベルト・カルロス・ランジェの紹介で、スフィアン・スティーヴンスの主宰するアズマティック・キティと契約した彼女は、2011年にセカンド・アルバム『ザ・マジック・プレイス』をリリースすると、幾重にも重ねられた自身の歌声と、深いリヴァーブが織りなすその神秘的なサウンドに魅了される人は後を絶たず、多くのファンを獲得することになったのである。その後も前述したヘラド・ネグロとのデュオOMBREや、アート・リンゼイ率いるDNAのメンバーだったイクエ・モリとのコラボ作をリリースし、『ツイン・ピークス』の新シリーズへの出演も決まっている女性シンガー・ソングライターのシャロン・ヴァン・エッテンや、スウェーデンの2人組コーラルレイヴンのアルバムにヴォーカルで参加。人気レーベルのデッド・オーシャンズに移籍すると、2013年にはシガー・ロスのヨンシーとのコラボレートで知られるアレックス・ソマーズをプロデューサーに迎え、ストリングス・カルテットのアミーナや、ムームのメンバーも参加したアイスランド録音のアルバム『ネペンシ』がリリースされている。ギリシャ神話やエドガー・アラン・ポーの詩に登場する、悲しみを和らげる妙薬からタイトルを取ったこのアルバムは、レコーディング中に他界した彼女の祖母に捧げられたもので、その憂いに満ちた歌声は、多くのリスナーにとってもまた、鎮静剤の役割を担うことになったのである。



そして2015年の1月には、品川の教会を含む全国4箇所での初来日公演が実現。その後も毎年恒例のチベット・ハウス・コンサートでフレイミング・リップスやフィリップ・グラスと共演、ビートルズの「シーズ・リービング・ホーム」やデヴィッド・ボウイ「ワルシャワ」のカバーを披露し、オノ・ヨーコのコンサートでもピアノを演奏するなど、精力的に活動を送っていた彼女がその合間を縫って完成させたのが、ニューヨークの現代美術家ブロック・エンライトの作品をジャケットにあしらった、通算4枚目のアルバムとなる本作『ウィル』というわけだ。
 
前作とは対照的に、様々な場所でレコーディングされている本作。デビュー当時のベッドルーム・レコーディングの感覚を思い出したいと思ったジュリアナは、昨年の2月にニューヨーク北部の友人宅を借りてひとりで曲作りを始めているが、真冬の寒さと孤独は相当こたえたようで、結局捗々しい成果は得られないまま、ブルックリンの自宅に戻ってくることになる。しかしその後、アナログ・シンセサイザーで知られるノース・カロライナ州アシュヴィルのモーグ社の工場を訪れた彼女は、友人宅で温めていたアイデアを実行に移し、徒労に思えた真冬のニューヨークでの曲作りが、ようやく実を結ぶことになったのだ。
 
そんなアルバムが完成したのが、ジュリアナとも縁の深いポルトガルのリスボン。今から10年前、アニマル・コレクティヴのパンダ・ベアーの大ファンだった彼女は、彼が出演したポルトガルのラジオ番組のマイスペースにフレンド・リクエストを送ったところ、番組の司会者から出演を依頼され、その紹介でリスボンとロンドンでもショウをすることになったのだ。その後も何度かポルトガルを訪れていたジュリアナにレコーディング場所を提供してくれたのは、地元のプログレッシヴ・サイケ・バンド、パウスのドラマーでもあるヨアキム・アルバガリア。ちょうど完成したばかりだったという彼らの新しいスタジオに着いたジュリアナを待っていたのは、驚きの光景だった。そこにはなんと、リスボンでツアーの最終公演を終えたスフィアン・スティーヴンスが預けていったという、彼のピアノが置いてあったのだ。そのピアノは彼女が『ザ・マジック・プレイス』をレコーディングした、スフィアンのニューヨークのオフィス兼プラクティス・スペースにあったピアノと全く同じもの。運命に引き寄せられるかのように、ジュリアナはそのピアノを弾いてアルバムのレコーディングを開始する。
 
階段の吹き抜けで歌っていた大学時代を思い出しながら歌ったという冒頭の「セイント・アポロニア」は、スタジオのそばにある同名の駅のガード下で録音されたもので、曲の後半にはマーティン・ヴォスの弾くチェロが加えられている。「セイム」と「サムウェイ」でヴォーカルを披露しているのは、マス・イサ名義で活動する男性ミュージシャンのトーマス・アーセノー。ジュリアナには以前からやってみたかったことが3つあり、「1つめが自分の曲に男性ヴォーカルを入れること、2つめがチェロで、3つめが誰かにロックなドラムを叩いてもらうこと」と話しているが、アルバムのラストを飾る「シー・ノー」ではニューヨークのバンド、チェアリフトのツアー・メンバーでもあるジェイミー・インガルスがドラムで参加し、ジュリアナの夢を実現させている。



いくつかの偶然と、いくつかの意思(Will)によってもたらされた本作。そこにはジュリアナ本人でさえ想像していなかったような、美しい瞬間が閉じ込められているのではないだろうか。(清水祐也)

Julianna Barwick & Mary Lattimore

2019年7月1日(月)渋谷 WWW
出演: Julianna Barwick / Mary Lattimore
時間: 開場18:30 / 開演19:30
料金: 前売¥4,500(税込 / ドリンク代別 / 全自由)
チケット:e+ / ローソンチケット[L:74382]/ チケットぴあ[P:150-223]/ WWW店頭
問い合せ: WWW(03-5458-7685)
公演詳細: https://www-shibuya.jp/schedule/011048.php
主催・企画制作: WWW
協力: PLANCHA