音楽雑誌『ミュージック・マガジン』の創刊50周年を記念した毎月恒例のランキング企画、先日発売された6月号(写真)は「21世紀のシンガー・ソングライター・アルバム・ベスト100」ということで、なぜか自分にも声が掛かり、30枚ほど選出させていただきました。

ただしこのジャンル、解釈によっては対象が際限なく広がってしまいそうなので、自分の中で「2001年以降にデビューしたアーティスト」、「広義でのシンガー・ソングライターはなるべく含まない」という縛りを設けて選んでいます(と言いつつ例外もありますが…)。

加えて、若干ルール違反とは思いつつ、「自分が入れなくても100%入りそうなアーティスト(James Blake、Sufjan Stevens、Bon Iverなど)」は選ばなかったので、結果的にマイナーな作品が多くなってしまいましたが、マイナーだから選んだというわけではなくて、どの作品にも『ミュージック・マガジン』読者にアピールしそうな、それなりの理由がありました。

しかし残念ながら1枚ごとの選評を書くには与えられた文字数が足りなかったので、こちらで少しずつ紹介していこうと思います。というわけで、まずは30位から!




30. Nat Baldwin - Most Valuable Player (2007)


Dirty Projectorsの『Rise Above』というアルバムに人生を変えられてしまった人間として、関連するバンドやミュージシャンを聴き漁っていた時期があるのだけど、この人もそのひとり。と言っても、当時はまだ正式メンバーではなく、『Rise Above』に参加していたミュージシャンのひとり、という認識だった。彼はサックス奏者のAnthony Braxtonに師事していた(実際には聴講していただけらしい)ジャズ畑のミュージシャンで、弓弾きのダブルベースと、Arthur Russellを思わせるテナー・ヴォイスがトレードマーク。本作は『Rise Above』と同じ時期に同じミュージシャンと録音された作品で、プロデュースとエンジニアはGrizzly BearのChris Taylorが担当、Dirty ProjectorsのDave Longstrethもギターとヴォーカルで参加しているので、姉妹作品と言えるだろう。実はMonchicon!で一番最初にインタビューしたのがこのNat Baldwinで、その中で彼が「最近聴いている音楽」として挙げていたSandro PerriやPeter And The Wolfといったアーティストも、今回のランキングの後のほうで登場する。そういう意味でも自分にとっては印象深い作品。





29. Anni Rossi - Rockwell (2009)


アートワークの美しさにかけては定評のある4ADからこの作品がリリースされたことは、ある意味“事故”だったと言えるかもしれない。しかしSteve Albini録音による本作の内容は掛け値なしに素晴らしく、ヴィオラを時に指で爪弾きながら歌う彼女は、第二のJoanna Newsomになれるはずの逸材だった。ところが続くセカンド・アルバムからの「Crushing Limbs」が4ADのサンプラーに収録された後、なぜか発売は中止に。結局別のレーベルからリリースされたが、真相は謎のまま。シングルも含めて三度再録されている「Wheelpusher」は屈指の名曲。ちなみに裏返ってしまう歌声がエモーショナルな冒頭の「Machine」は、くるりのファンファンさんがラジオでかけていた記憶がある。





28. Sebastian Blanck - Alibi Coast (2010)


Animal CollectiveやDirty Projectors、Deerhunterの名盤を生み出したニューヨークのスタジオ、Rare Book Roomが主宰するレーベルからリリースされた、Black Diceのオリジナル・メンバーによるソロ・アルバム。ノイズ・バンドにいたという事実が俄には信じ難いフォーキーな歌もので、溺れて亡くなった彼の兄弟と、生まれたばかりの長男に捧げられている。プロデュースはのちにAriel Pinkらを手掛けるJorge Elbrechtで、ChairliftのCaroline PolachekやLia Ices、Lavender DiamondのBecky Starkらがデュエットを披露しているほか、元Black DiceのHisham Bharoochaもドラムで参加。アートワークはSebastianの妻であり、Lou Reedのドキュメンタリー映画で知られる写真家Timothy Greenfield-Sandersの娘Iscaによるもので、Sebastian本人も画家として高い評価を得ている。





27. Bedouine - Bedouine (2017)


今回選んだ30枚の中では、もっとも新しい2017年のリリース。しかしもっともオーセンティックなシンガー・ソングライター作品かもしれない。ギターの弾き語り曲だけ聴くとLaura Marlingによく似ているが、Matthew E. White率いるSpacebombのお抱えアレンジャーTrey Pollardによるストリングスが、古い映画のようなノスタルジックな風合いを加えている。シリア生まれだという彼女の出自を思わせることはほとんどないが、アメリカがシリアの反体制派に武器を供給しているというニュースを受けて書かれた「Summer Cold」で、“あなたの銃と弾薬にはもううんざり”と歌われる瞬間に、思わず姿勢を正さずにはいられない。





26. Colossal Yes - Acapulco Roughs (2006)


Six Organs Of AdmittanceのBen Chasnyも在籍したカリフォルニアのノイズ・ロック・バンド、Comets On FireのドラマーだったUtrillo Kushnerによるソロ・プロジェクト。バンド時代から垣間見られたソングライティングの才能が開花した作品で、そのヨレた唄心は、まるでNeil Youngの『After The Goldrush』のよう。本人はほとんどの曲で歌とピアノに専念していて、代わりにドラムを叩くのはのちにGirlsに参加するGarret Goddard。そういえばDestroyerの前座をしているのをニューヨークまで観に行ったけど、間に合わなかったということもあった。余談ですがモンチコンの佐藤一道がこのアルバムのアートワークを気に入っていて、自分は正直よくわからないのだけど、彼が好きそうだというのはなんとなくわかる。





25. Andrew Cedermark - Moon Deluxe (2010)


Real EstateやVivian Girlsのメンバーが通うリッジウッド高校と凌ぎを削ったという(?)、ニュージャージー州グレンロック高校のバンドTitus Andronicusの元ギタリストによるソロ・アルバム。そうした経緯からReal EstateのMartin Courtneyが2曲でベースを弾いているが、Colossal YesがNeil Youngの『After The Goldrush』なら、本作はさながらCrazy Horseを率いた『Everybody Knows This Is Nowhere』か。J Mascis直系のノイジーなギターが全編を覆う一方で、John Faheyばりのアメリカン・プリミティヴなギターを聴かせる曲もあり、初期のKurt Vile好きにはたまらない1枚。音質は限りなく劣悪だが、グロッケンシュピールやハーモニカのノスタルジックな響きが効いている。ラストの「I Won't Know Me Anymore」は異様な高揚感に包まれる、全オルタナ・ファン必聴の曲。






24. Peter J. Brant - Façades (2015)


音楽ファンのみなさんなら当然のように(?)、好きなミュージシャンの参加作品をdiscogsで定期的に検索していることでしょう。自分が“Chris Cohen”を検索していた時に見つけたのが、彼がミックスを手掛けるこのPeter J. Brantで、驚いたのはその歌声。アルバムに参加しているNicholas Krgovichにあまりにもそっくりなので、てっきり彼が歌っているのかと思ったぐらい。ブリル・ビルディング・ポップを参照したような楽曲もNicholasの作品とよく似ていて、少しだけ異なるのは、Julia Holter作品で知られるChris Votekによる、アヴァンギャルド寄りのストリングス・アレンジ。一体何者なのかと思ったら、実はこの人、本業はSolangeやMount Eerie、War On Drugsなどのミュージック・ビデオを手掛ける映像作家とのこと。Ariel Pink's Haunted GraffitiのKenny Gilmoreも参加した、ハリウッドの裏方たちによる隠れた名作。





23. David Kitt - The Big Romance (2001)


何の予備知識もなく、レコード屋でジャケットが気になって聴いてみた一枚。David KittはTindersticksのメンバーだった時期もあるアイルランドのシンガー・ソングライターで、その歌声はとにかくArthur Russellによく似ている。現在はNew Jacksonという名義でハウス作品もリリースしているので、おそらく音楽的にも重なる部分があるのだろう。このセカンド・アルバムは今聴くとリズム・マシーンやシンセ・ストリングスに時代を感じてしまうのだけど、それ以上に憂いを帯びたメロディとヴォーカルが素晴らしい。ちなみに彼はこの後Rough Tradeから『The Black And Red Notebook』というSonic YouthやThin Lizzy、J.J.Cale、R.E.M.などのカバー集をリリースしていて、まさに「Arthur Russellがポップ・ソングをカバーしたら?」という妄想を具現化したような作品なのでこちらも必聴。





22. Danny James - Pear (2013)


全く無名ながら、当時Burger Recordsからリリースされたカセットを(Soundcloudで)聴いて、クオリティの高さに驚いた記憶がある。その正体は、のちにGirlsに加入するドラマーGarett GoddardらとThe Cutsなるバンドで活動していたDaniel Aaberg。改めてThe Cutsのアルバムを聴き返すとバンド時代からズバ抜けたソングライティング・センスを持っていたことがわかるが、ハード/ブルース・ロックの素養があるところも含めて、どことなくTodd Rundgrenを連想させる。実は兄弟のMike Aabergも、Lalah Hathawayのバック・バンドのリーダーとして来日経験がある腕利きセッション・ミュージシャンらしい。







21. Matt Duncan - Soft Times (2013)


OPNからTame Impalaまで、人気ミュージシャンのアートワークを一手に担うRobert Beatty。その作品を調べていた時に見つけたのがケンタッキー州出身のこのシンガー・ソングライターで、サイケデリックな他のRobert Beatty作品とは似ても似つかぬ、70年代風のAMポップに仕上がっている。その職人的ポップ・センスとは裏腹に、ほとんど話題になることなく終わってしまったが、昨年アルバムをリリースしたBlueprint Blueのメンバーのプレイリストに、冒頭の「The Keys」が収録されていた。早過ぎたヨット・ロック・リバイバル?



(20位につづく)