評価:
Secretly Canadian
(2019-03-08)

芝生の復讐

フジロックフェスティバルへの出演も決まっているオーストラリアのシンガー・ソングライター、Stella Donnelly。多くの人たちと同じように、彼女のことは2017年に本国でリリースされた「Boys Will Be Boys」という曲で知ったのだけれど、これまで積極的に取り上げてこなかったのには理由がある。正直に言って、この「Boys Will Be Boys」という曲が苦手、というか嫌いだったからだ。



レイプされた彼女の友人と、被害者に責任を負わせる社会について歌ったこの曲は、発表されるやいなや大きな話題となり、翌年この曲を含むEP『Thrush Metal』がアメリカのSecretly Canadianから再発されるなど、彼女のブレイクのきっかけになった。けれども動機が何であれ、男性全般を指して“男の子は男の子(Boys Will Be Boys)”という結論に至ってしまうのであれば納得がいかないし、反面いまだにそういう男性が後を絶たないというのも事実であり、男性である自分にとっては、二重の意味で聴くのが辛い曲なのだ。もっとも、文脈的には彼女がそう思っていると言うよりは、“男の子は男の子”という言葉で差別を許容してしまう社会に対する問題提起と言ったほうが正しいのかもしれないけれど、どちらにせよ手放しでこの曲を絶賛している男性がいるとしたら、それはよっぽどのマゾヒストか、自分には全く無関係だと思っている鈍い人だけだろう。

そんな彼女の姿勢は、ファースト・アルバムとなる本作『Beware Of The Dogs』でも変わっていない。未成年女性への性的虐待疑惑をかけられた映画監督のウディ・アレンが、#MeTooムーヴメントに対して、「魔女狩りだ」と発言したことに端を発する「Old Man」では、妻子がありながら若い女性に手を出す男性に対して“今度彼女に触ったら、奥さんと子供にバラしてやるから”と脅し、自身の中絶経験を基にしたという「Watching Telly」では、エレポップ風のサウンドに乗せて、“わたしは自分の身体について自分で選ぶ価値もないみたい”と、男女の不公平を嘆いているのだ。意味深なアートワークも、“アンタの人格は関係ない、もしも誰かの顔にイチモツを当てるなら”という、「Old Man」の歌詞に由来するものだろう。



しかし困ったことに、このアルバムの音楽は素晴らしいのである。「Old Man」や「Tricks」におけるギターワークは、ニュージーランドのFlying Nunレーベルのジャングリー・ポップ・バンドや、Mac DeMarcoの『2』あたりを思わせるものであり、表現力豊かなヴォーカルも心憎いほどだ。この歌詞じゃなければ…と思ってしまったりもするが、そんな自分を嘲笑うかのように、「Tricks」では“あなたはわたしが態度を改めたら良くなるって言うけど、放っておいて”と歌っているのだから、もう白旗を上げるしかない。

そして問題の「Boys Will Be Boys」は、本作にもしっかりと収録されている。2年前のこの曲をアルバムを収録した理由について彼女は、“まだこの曲が有効だと思ったから”と語り、“必要とあらば次回作にも入れる”とも語っているが、「Boys Will Be Boys」のミュージック・ビデオでカメラを真っ直ぐに見つめる女性たちを見ながら、そうならなくてもいい日が来ることを、心から願わずにはいられない。