photo by Kazumichi Kokei

音楽性は変われど、4ADというレーベルには連綿と受け継がれている伝統や、美意識がある――自分もそう思っていたし、そう考えたいのがファン心理というものだろう。けれども、それは必ずしも褒め言葉ではないのかもしれない。少なくとも、Warpの元スタッフで、4ADの現社長であるSimon Hallidayにとっては。

先月日本で開催された4ADのレーベル40周年記念ショーケース・ライヴの直前に行われたこのインタビューでの彼の発言は、往年のファンが聞いたら眉をひそめるようなものばかりかもしれないが、存続の危機に瀕していたレーベルを10年足らずで立て直したという自負と、カリスマ的な存在だった前オーナーへの対抗心が、その節々に感じられた(事実、店頭でのキャンペーンで配布された4ADのサンプラーCDのために自分が提案した楽曲のうち、過去の作品の多くは、現在のレーベル所属アーティストの楽曲に差し替えられていた)。

けれども不思議なことに、“僕はビジネスマンだ”と言い切るこの男を、嫌いになれないのは自分だけだろうか。素晴らしいアーティストが、素晴らしいオーナーであるとは限らない。その逆もまたしかり。Simon Halliday、実は結構すごい人なのかもしれない。

Ivo-Watts Russellとは会ったことがない
会う必要があるとも思わない


――昨年Ariel Pinkの『pom pom』の4周年記念ビデオにあなたが出演していましたが、どうしてまた5周年や10周年ではなくて、4周年だったのでしょう?

ちょっとした冗談だよ。みんな今を見つめるよりも、昔を振り返るほうが好きだよね。それに10周年なんて短過ぎる。だからからかってみたんだ。あとは、僕のちいさい娘にとってはYouTubeがすべてだから、僕がYouTubeに出てるのを見たら、「パパって有名だったんだ!」って言ってくれると思ったんだ(笑)。



――Ariel Pinkは4ADから移籍してしまいましたが、やっぱり思い入れは強かったんですか?

最高だよ。彼との仕事は誇りに思っているし、Deerhunterと同じで、契約する前からずっと彼の作品のファンだった。だけどもっと予算をかけてスタジオ録音すれば、素晴らしい作品になると思ったんだ。初期の作品はあまりにもローファイ過ぎて…。

――(笑)

いや、もちろんとても良い曲やメロディーを書いていたし、そんなことを気にしない人たちもいるけど、多くの人たちはローファイな音楽を聴かないし、ラジオでは絶対にかけられない。彼自身もスタジオ録音したがっていたし、4ADに残した3枚のアルバムは、どれも素晴らしいものだと思っているよ。

――じゃあ、別に彼と揉めたわけではないんですね?

まあ、時々ね(笑)。彼はすぐ誰かと揉めるけど、可愛いよね。面白いし。

――あなたはマンチェスター出身で、ニューヨークにあったWarpのUSAオフィスでしばらく働いていたそうですね。どうしてまたニューヨークに行くことに?

そうだね。マンチェスターで育ったんだけど、ロンドンに移って、音楽業界で働き始めた。シェフィールドにしばらくいてからロンドンに戻って、2001年にニューヨークに移って、アメリカに進出したWarpで働くことになったんだ。でもそれもすごく自然な流れで、僕が10代の頃のマンチェスターはとても良かったけど、窮屈に思えたからロンドンに移ったら、今度は退屈になった(笑)。だから新しい挑戦をするために、ニューヨークに行けたのはラッキーだったよ。80年代のマンチェスターの音楽は素晴らしかったよね。ハシエンダみたいなナイトクラブやギャラリーもあって、育つには良い場所だった。Joy DivisionやNew Order、The Smiths……それからアシッド・ハウス。でも89年とか90年には、マンチェスターは以前ほどではなくなっていて、ロンドンのほうが良かった。80年代はマンチェスター、90年代はロンドンっていう感じで。

――確かに、良い時期に良い場所にいたというか、あなたがニューヨークに移った頃から、Warpがアメリカのロック・バンドと契約し始めたんですよね。!!!とか、Grizzly Bearとか…実際にあなたが契約したのは、どの辺りのバンドなんでしょうか?

僕個人というよりはチームだったけど、Grizzly Bearとか、!!!もそうだね。ただ、!!!ってロックというよりはファンクというか…でもギター・バンドではあるか。それからカナダのBorn Ruffians。彼らはVampire Weekendぐらいビッグになると思ったんだけど、僕が間違っていたね。



――いや、でも彼らのファースト・アルバムは僕も大好きでした。

僕がリリースしたわけじゃないけどね(笑)。でも、誰かがそう言ってくれると嬉しいよ。

――そして2007年には4ADのヘッドになるわけですが、当時好きだった4ADのアーティストはいましたか?

TV on the RadioとBeirut、それからBlonde Redhead。良いバンドもいたけど、同時に余白もあった。そこで10組とか15組も所属していたら、自分は4ADに必要なかったと思う。4ADに来てからすぐに、DeerhunterやAriel Pink、Gang Gang Danceといったバンドと契約して、インディペンデントでアメリカンな感覚を加えたことで、4ADが新しい精神性を獲得できたんだ。

――4ADの初代オーナーだったIvo-Watts Russellは1999年に引退して、今はニュー・メキシコ州のサンタフェに住んでいるそうですが、会ったことはあるんですよね?

ないよ。会う必要があるとも思わない。引退する数年前から、彼の精神状態も以前ほど良くなかったんだ。90年代に入って音楽自体が変わってしまったけど、4ADはそれを受け入れなかった。レーベルである以上はビジネスという部分も必要で、好きなものだけに固執するのもいいんだけど、それだけでは成り立たない。それが出来ずに下降していった時期に、彼は出て行ってしまったんだ。たぶんビジネスを考えるのが嫌だったんだと思う。

――Ivoが辞めた1999年から働いているEd Horroxは、まだレーベルにいるんですよね? あなたと彼の役割は、どのように分担しているのでしょう?

僕がもっと戦略とか、ビジネス的な部分を考えているのに対して、彼は純粋に音楽を担当しているというか。もちろん、彼が主導で契約することもあれば、彼より僕のほうがアーティストに入れ込んでいる時もある。ただし、お互いが同意できないことは絶対にしないんだ。Atlanticを経営していた、Ahmet ErtegunとJerry Wexlerみたいな関係だね。でもニューヨークやロサンゼルス、ロンドンに若い女性スタッフもいるから、年寄り二人で決めているわけじゃなくて、彼女たちの意見も取り入れてるよ。

――4ADといえば、ハウス・デザイナーのVaughan Oliverのアートワークも象徴的でしたが、2010年以降は、ほとんどアートワークを手掛けていませんよね? 近年は音楽のストリーミングが主流になってきていますが、フィジカル作品やアートワークは重要だと思いますか?

時々ね。DeerhunterとかThe Nationalみたいなアーティストはフィジカルにこだわっているけど、そうじゃないアーティストもいる。80年代はVaughanの存在が大きかったけど、彼やレーベルに任せずに、自分でアートワークを手掛けたいアーティストが増えてくるにつれて、少しずつその影響が薄れていった。80年代ですら、Cocteau TwinsのようにVaughanのアートワークを使いたくないバンドとの間では問題が起こっていたんだ。ひとつの美意識を持ち続けるのは難しいよね。だから80年代から90年代前半まで、それを持ち続けた4ADはラッキーだったと思う。Factoryなんかもそうだね。だけどアーティストがインディペンデントになっていくにつれ、すべてをひとりの人間が決めることはなくなった。ほとんどのアーティストは何も指図されたくないし、僕がBradford Coxに「これが君のアートワークだ」って言うなんて想像もできないよ。Warpも同じことで、The Designers Republicが手掛けた初期のアートワークはWarpのサウンドを象徴していたけど、彼らを起用したがらないアーティストも増えてきたし、The Designers Republicも発展して、Warp以上に大きなグループになった。これはどちらにとっても成功だと言えるね。初期のWarpには特定のサウンドがあったから、ひとつの世界観を持つのも簡単だったけど、音楽が多様化していくにつれて、それは難しくなってしまった。

――10年前にあなたにインタビューした時に、「イギリスに本当のアンダーグラウンドは無くなってしまった」と話していましたが、今はどうですか?

うーん……同じようなものだね。たとえばPixxなんかはイギリスの新しいアーティストだし、僕はイギリスのアンダーグラウンド・ミュージックに復活してほしいと思っているけど、ここ10年、いや20年は良くない状態が続いている。だけどアメリカのバンドだからとか、イギリスのバンドだからという理由ではなくて、単純に自分たちの好きな音楽を選んでいるんだ。ドイツでも、フランスでもいいし。カナダに関しては…面白いよね。意識しているわけじゃないけど、カナダは良いバンドを送り出し続けている。たとえば、ちょうどスウェーデンの女の子とサインしたんだけど、僕はむしろスウェーデンのアーティストとはサインしたくなかったんだ。スウェーデン出身というだけで珍しがられるからね。だけど彼女は素晴らしいんだ。GrimesがプロデュースしたMinnie Ripertonみたいで。Becky and the Birdsっていうんだけど、デジタルでEPを1枚リリースしていて、ソウルフルだけど、モダンなプロダクションなんだ。たとえば他のレーベルだったら、「すごく良いから、このプロデューサーを起用しよう」ってなるのかもしれないけど、彼女はそれが嫌で、全部自分でやりたがっている。そこが好きなんだ。



――そういえばtUnE-yArDsのファースト・アルバムもすごくローファイでしたけど、4ADがそのままイギリス盤としてリリースしましたよね。あれがすごく良かった。

その通り。あのアルバムにはキラー・ソングが入ってるし、「Sunlight」はいまだに彼女が書いた最高の曲だと思う。彼女はオリジナルだし、他の誰にも似ていない。



――僕も同感です。じゃあ、最近オーストラリアのバンドが増えていることも、やっぱり無意識ですか?

そうだね。オーストラリアはここ10〜20年良いバンドを送り出してきたけど、今でもそうなのかはわからない。最近はラジオで国内の音楽ばかり流していて…それが上手く行っているとは思えないんだ。ラジオは優れた者が勝つ、自由市場であるべきだと思うし、オーストラリアのラジオでかかっている国内の音楽が、そこまで良いとは思えない。80年代のイギリスが素晴らしくて、90年代はそうでもなかったように、音楽にも浮き沈みがあるけど、内側を向いているのは良くないよね。だけどオーストラリアのバンドには細かいことは気にしない、良いヴァイブがあると思う。この間会ったんだけど、女性のパンク・バンドで、良い意味でクレイジーで…思い出した、Amyl and the Sniffersだ。酷い名前だけど(笑)、良いバンドだよ。



――なるほど。ちなみに今あなたは日本に来ているわけですが……日本のバンドに興味はありますか?

もちろん。もし新しくてアイコニックな日本のバンドが、ボアダムスやYMOのように登場してきたら本当にエキサイティングだよ。カナダやオーストラリアのバンドばかりのところに、日本からバンドが出てきたら完璧だ。誰か知ってる?

――えーっと(笑)。CHAIとかは知ってますよね? 女の子4人組の…。

知らないな。良いの?

――アイコニックだと思います。

ダンスとかエレクトロニックでもいいよ。Zombyのアルバムなんかもエレクトロニックだけど、4ADにフィットしていたと思うし。

――Luby Sparksという日本のバンドは、4ADのファンらしいですよ。

今の4AD? それとも昔の4AD?

――両方だと思います。Yuckってわかります?

知らない。

――えーっと、元Cajun Dance Partyの……。

Cajun Dance Partyは知ってるけど、2005年ぐらいでしょ? それからいなくなったよね。

――(笑)とにかくそのYuckのメンバーがプロデュースしたりしています。あとグッド・ルッキング。

それは助かるよね。音楽が良ければね。

――そうですか(笑)。そういえばあなたが4ADに就任した時に、Too PureとBeggars Banquetが4ADに吸収されましたが、それもあなたの判断だったそうですね。

そうだね。4つのレーベルがバラバラに存在していたのがやりにくかったから、それをひとつにしたんだ。当時は過激で残酷な判断だと思われたかもしれないけど、今思えば理にかなっていた。

――確かに、The Nationalも当時はBeggars Banquetにいましたけど、今では4ADの代表的なバンドですしね。

St. Vincentもそうだね。良いバンドはたくさんいたんだけど、充分ではなかった。

――それから、もしかしたらちょっと答えにくいかもしれないんですが、GrimesやTorresといった女性アーティストが…。

何を訊かれるかわかったぞ(笑)。






――(笑)彼女たちが4ADに対してネガティヴな発言をしていましたが、それに対するあなたの意見があれば聞かせてください。

アーティストとのクリエイティヴな関係において、時には意見の不一致も起こる。Grimesについては理解できるし、それはビジネス的な問題だ。彼女がやることを僕らは止めないから、クリエイティヴな面での相違ではない。問題なのはソーシャル・メディアで、発言したことがすぐに広まって、撤回することができない。誰もがパートナーや上司、家族との問題を抱えているものだけど、それをツイートするべきではないと思う。もちろんそういうことも起こり得るし、Grimesに関しては理解しているけど、Torresの件に関しては完全に間違っている。彼女のマネージャーが僕らより先に契約を切って、そのことを報告しなかったんだ。彼女のマネージャーはプロフェッショナルではなかった。それに彼女は“ビジネス的な判断”と言っていたけど、こちらはクリエイティヴな面での判断だった。彼女は“自分が商業的に成功しなかったから”と言っていたけど、そんなのはデタラメだよ。だって4ADには成功していないアーティストだってたくさんいるんだから(笑)。すべてを簡潔に、管理できるようにしたいと思っても、難しい時もある。

――そうですよね。では最後に、さっきのBecky and the Birds以外で、これからリリースが決まっているアーティストがいれば教えてください。

Becky and the Birdsは、数ヶ月以内にEPが出せたらと思ってるよ。彼女は若いのに自信に溢れていて、自分のやっていることがわかっている。それからミネアポリス出身の、Velvet Negroni。同じミネアポリスの、Psymunっていう若いアーティストがプロデュースしてるんだけど、ソウルフルなBon Iverって感じのファルセット・ヴォイスで、ミネアポリス出身だから、プリンスっぽくもある。自分たちが好き過ぎると上手くいかないことも多いんだけど、自分たちと同じぐらい、みんなが気に入ってくれたらと思っているよ。



――ありがとうございました。

ありがとう! また10年後に会えたらいいね!