photo by Ryan Pfluger

2014年の前作『Are We There』リリース後、臨床心理士の資格を取るために大学に通いながら、様々なアーティストの作品にゲスト・ヴォーカルで参加し、Netflixのドラマ『The OA』や『ツイン・ピークス』の新シリーズにも出演するなど、女優としても活動してきたSharon Van Etten

一昨年に男の子を出産して一児の母となった彼女が、Nick CaveやSuicide、Portisheadを参考にしたという5年ぶりのカムバック作『Remind Me Tomorrow』について話してくれた。
働きながら母親になることが
すごく不安だと泣きながら話したら
彼女は笑い出して、携帯に入っている
15年前の写真を見せてくれた


──こんにちは。今日はよろしくお願いします。お元気ですか?

クレイジーだけど元気よ(笑)。今このちっちゃい子とのディナーが済んだところなの。前よりも食べるのに手はかからなくなったんだけど、まだ時々大変なのよね(笑)。

──お子さんがお生まれになったんですよね。おめでとうございます! 今はお幾つですか?

3月で2歳よ。だから、少しだけおしゃべり出来るようになったわ。“バスケットボール”とか(笑)。今はまだイヤイヤ期には入ってないの(笑)。心構えをしておかないといけないわね(笑)。

──2015年にnprのサイトで、あなたとLowのMimi Parkerが「母であると同時にツアー・ミュージシャンであること」について対談していたのが印象に残っているのですが、当時は自分が母親になることについて、どの程度意識していたのでしょう? 

当時は子供を産むなんて考えていなかった。素晴らしい対談だったのを覚えているわ。母親になることは考えていなかったけれど、しばらく家にいる準備は出来ている時だった。

──Mimiから聞いた話で、実際に母親になってから役に立ったことはありますか?

話を聞いて、安心したのを覚えているわ。大変だけど、周りに助けてくれる人たちがいればなんとかなるんだと自信が持てたし、助けてくれる人が実はたくさんいるんだということがわかった。ツアーに小さい子を連れていくなんてもちろん大変だけれど、それをどうするかは人それぞれなのよね。親も子供もどんなタイプの人間か、どんな環境、状況にいるかは本当に人それぞれ。だから、それが大変か、大変だと思うかも人それぞれなんだとわかった。大変だけど、楽しいわよ。子供を持つということはすごく素晴らしいことだと実感しているわ。

──自身の活動休止期間中も、かなりの数のアーティストの作品やトリビュート・アルバムにヴォーカルで参加していましたが、特に印象に残っているものはありますか?

たくさんあるけど、一番ランダムで印象的だったもののひとつは、マイケル・セラの曲で歌ったこと。私たちは同じ練習スペースをシェアしているんだけど、スケジュールが合わなくて、お互い会ったことがなかったの。でもある時いきなり彼からメッセージが来て、「あるショーのために曲を書いているから、その新曲のために歌ってくれないか」と書いてあった。彼はその曲のために既に歌っていたんだけど、それを取り除いて、私の新しいヴォーカルを乗せたの(笑)。すごくギリギリだったし、まさか実現するとも思っていなかったし、ランダムだったから印象に残っているわ(笑)。



──アルバムのジャケットを飾っているのは、あなたがサントラを担当した映画『ストレンジ・ウェザー』の監督で、収録曲「Jupiter 4」のミュージック・ビデオも撮影しているキャサリン・ディークマンのお子さんだそうですね。彼女は過去にR.E.M.のミュージック・ビデオを監督していたこともあるそうですが、彼女との出会いはあなたにどんな影響をもたらしましたか?

彼女とは、2015年の終わりに出会ったの。それまで私は映画のスコアの仕事をしたことが一度もなかったんだけど、彼女は本当に我慢強く、私を信じて助けてくれた。私の正直な気持ちを音楽でそのまま表現させてくれたし、あのコラボレーションで私たちはすごく近くなったわ。そして、現場には私と同じく彼女とコラボしている女性がたくさんいて、映画を編集しながら音楽を乗せている時、その現場で働いている女性たちからもインスピレーションを受けた。音楽を制作している時はまだ私は母親ではなかったけれど、映画のプレミアでカナダに行った時、妊娠がわかったの。彼女が舞台に上る前にそれを教えたら、彼女が泣いて、それで私も泣いちゃって(笑)。で、私が働きながら母親になることがすごく不安だと彼女に泣きながら話したら、彼女は笑い出して、携帯を取り出して、その中に入っている15年前の写真を見せてくれた。それがあの写真なんだけど、写真の中では子供はまだ小さくて家の中はカオス。でも15年後の今はふたりともしっかりと自立していて、写真を見せているキャサリンからは、すごく自信が感じられたのよね。あの写真は自分にとってすごく大きなインスピレーション。レコードを作ってから、あの写真がアルバムにぴったりだと思ったの。私の家はあそこまでではないけれど、気持ち的にはあんな感じ(笑)。



──新作『Remind Me Tomorrow』の参加ミュージシャンは意外な人選で、長年コラボレートしているHeather Woods Broderickを除くと、ほとんど初めて一緒にレコーディングする人たちばかりだと思います。プロデューサーのJohn Congletonの人脈もあると思うのですが、どうやって集められたのでしょう?

今回は、あまりこれまでのクルーを使いたくなかったの。それをやってしまうと、前回のレコードをサウンドが同じになってしまって面白くないと思って。彼らを集めてくれたのはJohnよ。Heather以外は、スタジオで会うまでは知らない人たちばかりだった。彼を信用していたし、私は既に自分が作ったものをとにかく一緒に演奏してパフォーマンスしてくれる人を探していたから、私の指示を聞いてくれて、信頼が出来る人たちをJohnが紹介してくれたの。

──John Congletonは多岐に渡る作品を手掛けていますが、個人的にはやはりSt. VincentやAngel Olsenといった女性アーティストが、イメージ・チェンジした作品で果たした役割が印象的です。あなたはなぜ彼を起用したのでしょう?

私は自分でコントロールするのが好きだけれど、これまでの作品でもうそれはやったし、今回は他の人にそれを任せる準備ができていた。彼に実際に会って、自分が考えていることや何に影響を受けたかを話したら、彼はそれをよく理解してくれたの。だから彼にお願いすることにしたのよ。

──彼が手掛けた作品で、好きなものはありましたか?

Angel Olsenの作品は確実に大好き。でも彼のいいところは、あの幅広さだと思う。ひとつのジャンルにとらわれていないわよね。彼はThe Paper Chaseっていうバンドのメンバーでもあったんだけど、その時に私の友達と仕事をしていて、彼からはジョンのいいところをたくさん聞いていたの。共通の知り合いが結構いるのよね。その皆が、人としても彼を誉めていた。だから、プロデューサーを誰かに頼むなら彼だとわかっていたの。

──参加ミュージシャンのなかで一番驚いたのは、Xiu XiuのJamie Stewartでした。彼はあなたがゲスト出演したドラマ『ツイン・ピークス』のサントラのカバー・アルバムもリリースしていますし、本作にも全体的にデヴィッド・リンチっぽいムードがあると思うのですが、『ツイン・ピークス』について話したりしましたか?

あのショーに出演した感想は聞かれたけど、それ以上『ツイン・ピークス』については話さなかった(笑)。Jamieは本当に特別な人で、特徴がある人。ワイルドなのよね(笑)。彼のパフォーマンスを見ているのは、すごく楽しかったわ。

──クレジットによると、彼はシンセやギターのほかに"bird call"や"duck call"、"clusters"なども担当しているようですが、これは一体どういうことなのでしょう?

ははは(笑)。文字通り、彼が鳥の鳴き真似や、そういうノイズを担当したのよ(笑)。彼はモジュラー・シンセサイザーを使いこなして、周りには360度のセットアップが出来上がっていた。彼は、何を叩いているかもわからないまま、ぐるぐるとそれらを叩き続けるの(笑)。私には何なのか見当もつかないようなギアもあって、彼は直感でそれを叩いていた。あれはもう、魔法だったわね。

──本作にはMidlakeのMcKenzie Smith、元Redd KrossのBrian Reitzell、セッション・ドラマーのJoey Waronker、WarpaintのStella Mozgawaという4人のドラマーが参加していますが、どのように彼らを振り分けたのでしょう? 

振り分けはジョンに任せた。その日に誰が空いているかでスケジュールを組んでもらったの。演奏してみるまで、どういう化学反応が起こるかわからないのよね。でも結果、みなそれぞれに個性があって、それが作品に活かされてよかったわ。

──特にアルバムのラスト曲、「Stay」にStella Mozgawaを起用した理由について教えてください。

あの曲は最後にレコーディングした曲のひとつなんだけど、さっきも話したとおり、Johnが組んだスケジュールで、その日はStellaがスタジオに入った。あれはすごく自然な流れだったわ。スタジオに入る直前にデモを一度だけ聴いて、そのあとすぐにライブ・ルームに入ったの。彼女、すっごくかっこよかった!いろいろなことを試すし、即興もやるのよ。彼女とは、また一緒に演奏したいわね。

──アルバムの1曲目「I Told You Everything」は、"Holy shit. You almost died."という歌詞が印象的です。あなたは女優として出演したドラマ『The OA』でも臨死体験から生き延びた女性を演じていましたが、このフレーズは比喩ではなくて、実際の経験について歌っているのでしょうか?

そう。実体験に基づいているわ。友達にある話をして、その話を聞いた友達の私の見方が変わったんだけど、ある意味すごく近くなって、より関係が深くなったの。この曲は、そういう状況を歌った曲なのよ。

──アルバムからのリード・トラック「Comeback Kid」は当初ピアノ・バラードだったそうですが、収録バージョンはかなりアッパーなロック・ナンバーになっていて驚きました。共作者としてSam Cohenのクレジットがありますが、彼はどのように貢献しているのでしょう?

Johnとスタジオに入る前に、他の視点から曲を見てみたくて、何人かにデモを渡して聴いてもらったの。で、一番最初に私に「この曲はもっと勢いがあっていい」と言ってくれたのがSamだった。あと、もともと「Come Back Here」と「Run Away」っていう2曲があったんだけど、その2曲が似ていたのよね。それがまとまったのがこの曲なんだけど、それを繋げたほうがいいというアイディアも彼のものだった。それもあって、彼をクレジットに乗せたのよ。



──「母親として自分を強く見せたい」という気持ちもあったそうですが、この曲のミュージック・ビデオでのあなたのヘアメイクも、かなりファンキーでした。ヘアメイクは日本人が担当していたようですが、どんなリクエストをしたのでしょう? 過去のあなたがプロジェクターで映し出されるのが印象的でしたが、この曲はブランクから復帰したあなた自身のことを歌っているのでしょうか?

あの撮影は楽しかった! これまでのイノセントな私の上に、もう少しダークな感じを足したかったの。家に帰ったら、何歳になっても同じ感じがするじゃない? 高校の同級生にも会うし、兄弟は何歳になっても兄弟だし、自分は大人になって成長していくんだけど、家に帰る時の、あのフィーリングわかるかしら? あの曲では、昔の思い出と、成長した自分と、これからも成長していく自分の混ざり合いが表現されているの。

──「Jupiter 4」のタイトルはローランドのシンセサイザーから来ていると思うのですが、実際に曲でも使っているのでしょうか? 

そうよ。ギターでずっと曲を書いていた時、ライターズブロックに陥った時があって、ギターを床に置いて頭をクリアにするためにそのシンセを使ってみたの。それまで弾いたこともなかったのに。実験的に色々と試してみたら、曲が出来ていった。誰も見ていなくて、使い方が正しいとか間違っているとか全く気にせずに作業が出来てすっごく楽しかったわ。いい意味でめちゃくちゃに音を鳴らしていったの。頭もスッキリしたし、試してみてよかった。



── 去年出たDonna Missalという女性シンガー・ソングライターのファースト・アルバムに、「Jupiter」というこの曲の別ヴァージョンが収録されていましたが、これはどういった経緯だったのでしょう?

Donnaとは、一緒にライティング・セッションをしたことがあったの。2015年のツアーの合間だったんだけど、自分自身の音楽を超えて、どうやったらもっとクリエイティヴになれるかということを学びたくて、他のアーティストと曲を書きたかったのよね。そのセッションが「Jupiter4」を書いた後で、時間が余ったから彼女にあの曲のデモを聴いてもらったんだけど、そしたら彼女がそれをすごく気に入ってくれて。それで彼女があのヴァージョンを作ったのよ。

──「Seventeen」はKate Davisというミュージシャンと共作されたということですが、彼女はどんな人ですか?

彼女はソングライターで、本当に素晴らしい。ベースも弾けて、歌えて、曲も書ける。サウンドはオルタナっぽいんだけど、メロディが素敵なのよね。さっき話したライティング・セッションは何人かのアーティストたちとやったんだけど、たぶん彼女はその中で一番最初にセッションをしたソングライターだったんじゃないかしら。最初だったから、すごく不安だったのを覚えてる(笑)。曲を書き終えて彼女にその上から歌ってもらったとき、それが素晴らしかったから、最初はあの曲を「Seveteen Kate」と呼んでいたくらいよ。あの曲を歌っていて、彼女は声が出なくなったの(笑)。叫びすぎちゃったのね(笑)。



── アルバムのラスト曲「Stay」はお子さんに宛てた曲なのかと思いましたが、実際はどうなのでしょう?

あの曲は、妊娠前、妊娠中、そして出産後という異なる状況を経て完成した作品。だから、最初は私のパートナーについての曲だったんだけど、出来上がってみると、それがそれ以上のよりビッグな世界をもった作品に仕上がっていることに気が付いたの。パートナー、私自身、息子、家族すべてが表現されているわ」

── アルバムのタイトルに込めた意味についても教えてください。

タイトルに関しては、ある日すっごく忙しい日があって、メール、テキスト、息子の世話に追われているときに、「アップデートしてください」っていうお知らせがパソコンの画面にポンと出てきたの。2年間アップデートしてなかったから。そしたらなんか笑い出しちゃって(笑)。2年間という長い期間、それさえも出来ないくらい忙しかったんだなという気づきもあったけど、2年間という時間があって、よりによって今日、このめちゃくちゃ忙しくてこれ以上なにも出来ないって日に、このタイミングでアップデートのお知らせ!? って思っちゃって(笑)。タイトルはそれで思いついたの(笑)。そんな小さなことにも時間をさくのが難しい忙しい毎日ってことよね。

── あなたは以前ワイン・ストアで働いていたそうで、50歳になったら臨床心理士になってワイン・ストアを経営するのが夢だそうですが、本作を聴きながら飲むのにオススメのワインがあったら、産地や銘柄を教えてください。

カリニャン(Carignan)っていう赤ワインかな。ミディアムで、ちょっとスモーキーで、セクシーなワインよ(笑)。重すぎず軽すぎず、エンジョイ出来ると思うわ。