ニューヨークのロック・バンド、Gang Gang Danceの7年ぶりの新作『Kazuashita』のタイトル曲では、彼らの友人であり、ビジュアル・アーティストでもあるOliver Payneが、色の名前を読み上げていく。ルビー、黄土色、白……そして彼が最後に読み上げる“Kazuashita”という言葉は、メンバーと親しい日本人の子供の名前でもあり、世界に生まれた、新しい色の名前でもあるのだという。

まもなく開催される4ADのレーベル40周年イベント、"4AD presents Revue"出演のため来日するGang Gang DanceのヴォーカルLizzy Bougatsosが、スタンディングロックやジェームズ・ボールドウィンといった、新作のインスピレーションについて教えてくれた。


子供みたいかもしれないけど
世界平和を望む私がいるんじゃないかしら


──ニュー・アルバムのタイトル『Kazuashita』ですが、“Peace & Tomorrow”を意味する日本語(和明日?)で、前作に参加していた日本人、タカ・イマムラさんのお子さんの名前でもあるそうですね。実は10年前に自分もNYでタカさんに会っているので感慨深いのですが、このアルバム名にはどんな想いが込められていますか?

彼に子供が生まれたと言うことが、すごく大きかったのよね。長くお腹の中で浮かんでいたものが、大きくなって一人の人間として出てきたわけで、それは私たちの音楽とも通じるものがあった。タイトルだけではなく、アルバムにはメタファーやメッセージはあるけれど、それは言葉というよりは、雰囲気的なものよ。自然との繋がり、自然からの影響がアルバム全体に反映されているの。想いやメッセージは、それを踏まえて皆がそれぞれに自分が思うままに受け取れるようになっているわ。”カズアシタ”という言葉の意味は、メンバーのBrianがタイトルをつけたから彼に聞いた方がいいかもしれないけど、”beginning=始まり”っていう意味みたいよ。

──1曲目のインスト、「(infirma terrae)」と9曲目の「(novae terrae)」は対になっているように思えるというか、「(novae terrae)」を逆再生したものが「(infirma terrae)」のようにも聴こえます。この2曲には、どんな関連があるのでしょう?

ワーオ。よく気づいたわね。あれは意識的にやったもので、Brianがリスナーに気づいてほしくてやったこと。編集の段階でそれをやったの。

──「(novae terrae)」で詩を朗読しているJack Wallsと、同じく「Kazuashita」で朗読しているOliver Payneはどんな人なのでしょう?

Oliverはビジュアル・アーティストで、Gavin Brown’s Enterpriseでも展示をしているんだけど、私たちの昔からの友人なの。彼とは何度も仕事をしたことがあるし、Gang Gang Danceのファースト・ビデオにも参加してくれている。ビジュアル・アルバムを作ったのも彼。Jackも長くGang Gang Danceと関わっていて、彼もアーティストなんだけど、JackはBrianのルームメイトだったの。Brianが引っ越してからも私の近所にずっと住んでいて、本当に昔からの付き合いでバンドとも近くて、私たちの中身まで色々知っていいるのがJackよ(笑)。

──2曲目の「J-TREE」のタイトルは前作をレコーディングしたカリフォルニア州のヨシュア・トゥリー(Joshua Tree)を意味していると思うのですが、この曲の途中に、ノース・ダコタ州の石油パイプライン建設に反対するネイティヴ・アメリカン、スー族による抗議デモでのインタビューが挿入されています。Lizzyもネイティヴ・アメリカンのルーツを持っているということですが、この曲にあのインタビューを挿入しようと思ったのは何故でしょう?

タイトルは、ヨシュア・トゥリーそのものというよりは、ああいうセッティングの中で感じるフィーリングを意味しているの。あのインタビューのクリップを見つけた時、すごく音楽的だなと思ったのよね。私にとって、インパクトがすごく大きかった。だから、スタジオにいる時だったし、衝動で曲に挿入したの(笑)。特にバッファローが出てきた時に心を打たれて。本当に感動したわ。動物が人の心をあれだけ動かせるというのが素晴らしいと思ったし、その瞬間を捉えたかったの。



──日本にはなかなか情報が伝わってこないのですが、あの抗議活動と、パイプライン建設計画はその後どうなったのでしょう?

未だに建設は続いているみたい。今はトランプ政権になってしまったし、水というのは人間が生きるために必要な要素で、人権とまでも言えるのに、それを汚染して奪おうとするなんてひどいわよね。私たちに出来ることは、情報を拡散して自分の意見を伝えていくことだと思う。ソーシャル・ネットワークがある今、メディアは私たち自身なわけだし、誰かが立ち上がることで何かが動くことは可能な時代だと思うわ。



──ちなみに「J-TREE」にはJoan of ArkのTim Kinsellaが参加しているということですが、彼はどこに参加しているのでしょう? この曲の一番最後で話している子供は誰ですか?

曲の終わりの方で叫んでいるのがTimよ(笑)。Brianが彼と仲がいいの。私たちも彼らの音楽が好きだし。若い頃から(笑)、一緒に成長してきたような存在。「Hello To People」っていう曲を歌っている子供は私の3歳の甥っ子のジョージ。もうひとりアルバムに参加している女の子は、私の友人の娘で、名前がラブ・サイケデリックっていうの(笑)。本名よ(笑)。

──本作にはAriel Pinkとのコラボレートで知られるJorge Elbrechtがプロダクションとミックスで参加しています。Gang Gang DanceとAriel Pinkも以前から交流が深いので納得ですが、彼を起用した決め手は何だったのでしょう? 実際に作業してみていかがでしたか?

前々から一緒に作業したいとは思っていたの。で、今回がいい機会だという話になって、彼に参加してもらったのよ。Brianとはプロダクションで一緒に作業して、私もヴォーカルではお世話になった。すごくよかったわ。彼には良いポップの感覚が備わっているし、私にとっては彼が参照する音楽がすごくエンターテインメントだった。ソング・プロダクションって、誰か他のプロデューサーと作業するといつも本当に面白いのよね。それぞれ独自の世界観をもたらしてくれるし、Jorgeはメロディを引き立たせるのにすごく貢献してくれたわ。

──本作ではRusty SantosのバンドのドラマーだったJesse Leeに代わって、Ryan Sawyerがドラムを叩いていますが、これはどういった経緯だったのでしょう?

Ryanとは前にもボアダムスとのプロジェクトで共演したことがあって、その時から彼とは知り合いなの。私の意見では、今彼はニューヨークで一番のパーカッショニストだと思う(笑)。だから彼に頼むことにしたのよ。



──「Young Boy (Marika in America)」の歌詞はジェームズ・ボールドウィン原作のドキュメンタリー映画『私はあなたのニグロではない』を観た後に書いたとのことですが、どの辺りに影響を受けているのでしょう? Marikaには誰かモデルがいるのでしょうか?

ジェームズ・ボールドウィンは私にとってアートなんだけれど、迷った時は常に彼のアートに戻るの。いつもどこかに導いてくれる存在っているじゃない? 彼は私にとって明らかにその一人。他にも何人かアーティストがいるけど、このレコードの時は、それがジェームズだったのよね。内容も、今の世の中が必要なことに感じたの。Marikaは私のゴッド・ドーター。多分ハンガリーの名前なんじゃないかしら。



──タイトルには”Boy”とありますが、女の子なんですね。

そう。私のソングライティングは、いつも数名異なる人物が出てくるんだけど、Marikaは彼女が子どもの頃からずっと見てきて、彼女は今ティーンエイジャーで、私はその両方を見てきた。この曲は、人間のイノセントな部分、子供の純粋さ、そして大人になっていく人間の成長の様々な側面を表現した作品なの。

──Stereogumのインタビューによると、「Too Much Too Soon」は昔の4ADを思わせるので“The 4AD song”と呼ばれていたとのことですが、どちらかというと「Salve on Tomorrow」のほうが昔の4ADっぽい気がしました。それはさておき、あなたたちにとって、4ADを代表するアーティストはどんな人たちですか?

たくさんいすぎて難しいけど…昔は、Cocteau Twinsとかかな。その曲は、80年代の4ADっぽかったのよね。Dead Can Danceとか。でもそれだけに限らず、The Cranberriesだったり、説明しにくいけど、私にとってはその曲からは色々なミュージシャンの音楽が感じられるのよね(笑)。

── 同じくStereogumのインタビューで語っていた、女性蔑視に対するリアクションとして書いた曲というのも「Too Much Too Soon」ではなく「Salve on Tomorrow」のような気がするのですが、この曲にしろ「Young Boy (Marika in America)」にしろ、書いた背景には怒りがあったはずなのに、完成した曲としては直接的ではなく、もっと普遍的で、タイトル通り傷ついた心を癒してくれるような曲になっている気がします。この辺りは意識したのでしょうか?

様々な影響が自然に出てきての結果だとは思うけれど、出来るだけ多くの人に伝わりやすいように書くことを意識しているというのはあるかもしれない。世界を癒したいという気持ちもあるし、子供みたいかもしれないけど、世界平和を望む私がいるんじゃないかしら(笑)。そのために、出来る限りのことをやってるの(笑)。

──「Salve on Tomorrow」の最後に、年配の女性が歌う声が聴こえてきますが、あれは誰なのでしょう?

あれは教会の音。あれは近所の教会でイースターのセレモニーをやっていた時のもので、それを録音したものよ。

──もうすぐ来日しますが、Jorge Elbrechtやタカ・イマムラさんも帯同するのでしょうか? 日本での思い出や、来日にかける意気込みを聞かせてください。

彼らが来てくれたらいいけど、まだ何も決まっていないの(笑)。日本には良い思い出しかない。私のお気に入りの場所で、人として大好きなボアダムスのみんなの国でもあるし、家族みたいな感じがするわ。来日したら、また長崎に行きたい。何か感じるものがあって、長崎がすごく気に入ったから戻りたいの。あとは鎌倉。「Kamakura」っていう作品を作ってしまうくらい好きだから(笑)。


4AD presents Revue

DEERHUNTER / GANG GANG DANCE / EX:RE
SPECIAL GUEST DJ: 4AD LABEL BOSS SIMON HALLIDAY

1月21日(月)大阪 BIGCAT
OPEN/START 18:00
前売¥7,000 (税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可
INFO: SMASH WEST(06-6536-5569)

1月22日(火)名古屋 ELECTRIC LADYLAND
OPEN/START 18:00
前売¥7,000 (税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可
INFO: JAIL HOUSE(052-936-6041)

1月23日(水)渋谷 TSUTAYA O-EAST
OPEN/START 18:00
前売¥7,000 (税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可
主催: シブヤテレビジョン INFO: BEATINK (03-5768-1277)