年間ベストを考えるのは楽しいけれど、いつも難しい。読者を裏切らず、自分の気持ちに正直に、流行からも目を背けず、埋もれた作品に光を当てる……そんな無いものねだりに応えるべく、モンチコンが悩んで選び抜いたのがこの10枚のアルバムです!

10. Pinegrove - Skylight
(Self Released)

このアルバムを初めて聴いたのは昨年の11月の終わり、サンクスギビングの少し前の日だった。その後バンドが告白した過ちと、彼らに向けられた誤解によってアルバムの発売は延期され、ようやくリリースされたものの、その存在はほとんど無かったことにされている。でも自分は無関係を装うよりは、彼らが感じた罪の意識を共有したいのだ。ペダル・スチールのノスタルジックな響きに彩られた収録曲はどれも短く、その不完全さゆえに美しく、同時に失ったものの大きさに気づかされる。“僕はもっと良くなりたい/君の手紙をもう一度読みたい/君のことをずっと学びたい”と歌うラストの「Light On」を聴きながら、このバンドの物語が続くことを願わずにはいられない。(清水祐也)


9. Natalie Prass - The Future And The Past
(ATO)

オーセンティックな趣のルーツ志向作品だったデビュー作から一転、Spacebomb出身の才媛が大化けした1枚。70年代からオーバーグラウンドで活躍している巨匠Bob LudwigやBlood OrangeやSolange仕事で知られるMikaelin Bluespruceらを要所に配し、ディスコ〜AORから90年代R&Bや近年のネオソウルにまで横断するサウンドを展開。それらバラエティ豊かな楽曲を難なく乗りこなすボーカルも含め、とにかくトータル・プロダクションとしての完成度に驚かされる。そしてここでも登場する指揮官Matthew E. Whiteの名。一部楽曲の共作やプロデュースを担った彼の隅々まで行き届いた采配にもはや頭が上がらない。恐るべし、マシュー。(山岡弘明)


8. Hailu Mergia - Lala Belu
(Awesome Tapes From Africa)

アフリカ音楽発掘レーベル、Awesome Tapes From Africaから再発された一連のカセット作品で話題になり、BeirutやFloating Pointsのサポートも務めたエチオピアの鍵盤奏者兼タクシー・ドライバーが、オーストラリアのリズム・セクションと完成させた奇跡の復活作。70年代にはDirty ProjectorsのDave Longstrethもフェイヴァリットに挙げるクラール奏者Asnakech Workuのプロデュースを手掛けており、そのWorkuも演奏したトラッド・ナンバーから、演歌チックなアコーディオンのメロディが耳に残るジャズ・ファンク、Tsegué-Maryam Guèbrouのような詩情溢れるピアノ・ソロまで、エチオピア音楽の喜怒哀楽、すべてが詰まった逸品だ。(清水祐也)


7. Snail Mail - Lush
(Matador)

ヴィヴィッドな赤と青のアルバム・アートワークが示すように、本作には大人への入り口に立つ、Snail MailことLindsey Jordanの青々しく剥き出しな感情が詰まっている。 名門Matador Recordsから満を持してリリースされたこのデビュー・アルバムには、彼女の名が早耳インディー・ファンに知られることとなった2016年リリースのEP『Habit』と同様に、甘く郷愁的な世界観は健在。90年代オルタナティヴ・ロックの影響が伺え知れるローファイなギター・サウンドに重ねて、リアルで切ないリリックを気怠く物憂げに歌い上げる。内省と成熟が主題だと本人が語るように、ティーンエイジャーが直面する成就しない愛や人生の悲しみ、孤独が描かれているのだ。彼女のエモーションに、誰しもが青春時代をフラッシュバックさせるだろう。(栗原葵)


6. Khruangbin - Con Todo El Mundo
(Night Time Stories / Dead Oceans)

2013年のBonobo監修のコンピ『Late Night Tales』に楽曲が収録された事でフックアップされたテキサスの3人組。メンバーのビジュアルよろしく、彼らの生み出す音楽は記名される事からするりと抜け出す。メロウでファンキーでエキゾで…と幾多にも形容し得るそのサウンドはまさに越境するグルーヴ・ミュージックだ。彼らは、その少ない(演奏の)手数=音数で、40年以上前の東南アジアのポップスやタイ・ファンク等から受けた影響を緩急剛柔なプレイで変換し、アジアのどこか、亜熱帯地域の島国の蒸し返す路傍の風景を聴き手に喚起させる。しかもそれが洗練性を伴って現代にもきちんと響くのだから面白い。(山岡弘明)


5. Lucy Dacus - Historian
(Matador)

Julien Baker、Phoebe Bridgersと結成したスーパーグループ、boygeniusが残した功績のひとつは、このシンガー・ソングライターに世間の目を向けさせたことだろう。グループでは他の2人のサポートに回っている印象もある彼女だが、その真価は1枚のアルバムでこそ発揮されており、ひとつの恋愛の終わりから始まって、クリスチャンである自身の宗教観や、家族の歴史にまで遡るような構成が素晴らしいの一言。その宗教や家族との決別を描いた、自伝的な「Nonbeliever」のラストで流れるラジオからの宣教師の声と、それを掻き消すようにディストーション・ギターとストリングス、コーラスがヴォリュームを上げていく瞬間は、いつ聴いても心が震える。(清水祐也)


4. Hop Along - Bark Your Head Off, Dog (Saddle Creek)

フロント・ウーマンFrances Quinlanのソロ・プロジェクトとしてスタートしたバンドが、Saddle Creekからリリースした最新作。エモ由来のソングライティングが土台にあるのは確かだが、特筆すべきは楽曲の構築力と多彩なエッセンスを感じ取れるアレンジ。絶妙に抜き差しされた各楽器のアンサンブルとクラシカルに響くストリングス、ドラマチックな展開と構成、そして何よりその独特の声質で歌われる変幻自在なヴォーカルに胸を打たれる。エモーショナルで抒情性に溢れる歌とそれを引き立てる慎ましい演奏のバランスの面白さ。インディー・ロックが本来持ち得る瑞々しさと「一つのモノに囚われない」自由を最大限に感じ取れる1枚だ。(山岡弘明)


3. Dirty Projectors - Lamp Lit Prose
(Domino)

商業的な成功や評価とは裏腹に、Dirty Projectorsのアルバムを聴くことは毎回驚きに満ちていて、Dave Longstrethとの会話はいつも刺激的だ。1年というインターバルでリリースされた多幸感溢れる本作を聴いて、前作に漂っていた悲壮感は何だったのかと思わずにはいられないが、実は同時に構想していたというこのアルバムが控えていたからこそ、前作を世に出すことができたのかもしれない。Amber MarkやEmpress Ofといった新しい友人たちと過去のDirty Projectorsを再現したような前半、反対にFleet FoxesのRobin PecknoldやDear Noraといった古い友人たちと新しいスタイルの楽曲に挑戦した後半、どちらにも次の季節への息吹が感じられる。(清水祐也)


2. Lonnie Holley - MITH
(Jagjaguwar)

俺はアメリカ合衆国の嫌疑者――アラバマ州生まれのアフリカ系アメリカ人である芸術家、Lonnie Holleyの新作はそんな一節で始まる。"Black Lives Matter"や"Standing Rock"問題など、現代のアメリカ社会が直面する課題に言及しながら、饒舌に時に嬉々として歌う様はフォークやブルース、ゴスペル以前の原始的な響きを孕んでいるようだ。即興的にピアノを弾き、ビブラートを用いた自身の声を重ね、トロンボーンやドラムを音響的にけたたましく鳴らす様はエクスペリメンタルな側面を感じさせながらも楽曲に不思議な求心力を与えている。神話(=Myth)には到底成り得なかった(≒Miss)今のアメリカを独自の描写で描いた一大叙事詩。(山岡弘明)


1. Richard Swift - The Hex
(Secretly Canadian)

闘病も空しく、今年の7月にこの世を去ったシンガー・ソングライターのRichard Swift。プロデューサーとしてもFoxygenやNathaniel Rateliffらを手掛けてきた彼が生前に完成させていた9年ぶりのニュー・アルバムは、妻との21回目の結婚記念日になるはずだった9月20日にアナウンスされ、その翌日にサプライズ・リリースされた。“For Family and Friends”と添えられたこのアルバムには、先立って亡くなった母と妹、そして姉妹を亡くした叔母に捧げたサイケデリック・ソウル風味の楽曲が並んでいるが、その美しいメロディは解像度の粗いコピー機にかけたように汚され、輪郭がぼやけてしまっている。“計画を立てた/ 更生して飲まないように/毒された意志で/静かに消え、車で眠る/全ての天使たちが歌う、ケセラセラ(なるようになる)”と、死因になったアルコール中毒を仄めかすラストの「Sept20」(9月20日)は涙なくしては聴けないが、同じくRichardがプロデュースしたアルバムをリリースしているKevin Morbyは、こんな風に語る。「彼が今はママや妹と一緒にいると考えると、少しだけ楽になるんだ」。その歌声は、どこか遠い空の上から聴こえてくるようだ。(清水祐也)