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[FEATURE] 寛容と共存〜Pinegroveと新作『Skylight』について


重なり合う、2つの四角形。ニュージャージーのロック・バンド、Pinegroveが2016年にリリースしたアルバム『Cardinal』のジャケットを飾るそのシンボルは、“寛容と共存”を意味しているという。

彼らが紡ぎ出すオルタナティヴ・カントリー風のサウンドに乗せた優しいメロディと、エモーショナルな歌声はすぐに熱狂的なフォロワーを生み出し、SNS上にはアルバムと同じデザインのタトゥーを入れた写真や、彼らの曲をカバーした動画をアップするファンが溢れ返っていた。
Pinegroveとエモといえば、すごく可笑しい話があるの

そう話すのは、昨年Dead Oceansからファースト・アルバムをリリースしたシンガー・ソングライターのPhoebe Bridgersだ。Conor Oberstと一緒にLAでレコーディングしていた彼女は、人から聴かされたPinegroveの曲に感動し、その場に居合わせたプロデューサーのJonathan Wilsonにその曲を聴かせると、彼は興奮しながらこう語ったという。

何だこれは? これは凄い! ほとんどエモ・カントリーじゃないか!

それを聞いたConor Oberstの呟いた愚痴がまた最高だ。

君の前には僕がいるけど…これって新しいの? 僕はこういう音楽を何年もやってたのに

そんなPinegroveは昨年、Phoebe Bridgersも所属するDead Oceansとの契約を発表し、11月2日にはニュー・アルバムからのリード・シングルとなる「Intrepid」をリリース。年明けにはPhoebeとのツアーも予定されるなど、成功への階段を着実に上がっているように思えたが、そんな矢先の11月21日、フロントマンのEvan Stephens HallがFacebookにこんな投稿をして、波紋が拡がることになる。



これから真剣な話をしますが、まずは僕の行動が、大切にしている人の心に、深い傷を与えてしまったことを謝罪したいと思います。

僕は強制わいせつで訴えられています。訴えているのは、短い間ですが、僕が濃密な関係を持った人です。僕はその人のプライバシーを尊重したいし、これを読んでいる人にも同じようにしてほしいので、その人についてこれ以上のことを言うのは控えます。

僕たちが一緒に過ごした時間は複雑なものでした。僕たちはお互いに愛していると思っていましたし、そう口にすることもよくありました。でも彼女は時々ためらいも見せました。彼女には付き合っている誰かがいて、その関係を解消することは、個人にも仕事にも、辛い結果をもたらしたことでしょう。僕たちは徹底的に、何度も話し合いました。それは複雑で、重苦しく、感情的なものでした。すべての時間が不可能で、正しい答えなどないように感じられましたが、それでも僕たちは一緒に努力しました。最終的に、彼女は恋人と別れました。僕たちはその後すぐにまた一緒になり、二週間ほどの間、できる限り一緒に過ごしました。彼女は僕の両親とも会い、一緒に引っ越すことさえ話し合いました。決して単純な関係ではなかったにしろ、それは慎ましく続き、僕は心から、それがお互いのものだと信じていました。彼女を脅したことは決してないし、支配しようとしたこともありません。僕らが決めることはすべて、愛に基づいていると信じていました。

それでも、僕は自分がその状況をひどく誤解していたのだという事実を受け入れることにします。僕のすべての行動に、もっと良いやり方があったはずということを顧みるために、できるだけ深くこのことを掘り下げてみようと思います。

僕は公人として、そして男性としての力や地位を、もっとしっかり自覚するべきでした。僕はいつでも公平さを持って人付き合いしようとしてきましたが、僕の性別が本来持っている特権や、認知された演奏者として積み上げられた特権が、こうした関係に間違いなく影響を与えていたのだということが、今ではもっとはっきりとわかります。

音楽を通して出会った人たちとの関係を顧みるにあたっても、もっと良くなれたはずだということもわかります。僕はファンに対して浮ついていて、ツアーで会った人たちと、親密になることもありました。たとえ向こうから切り出したのだとしても、それは決して適切ではなかったのだという結論に達しました。こうした状況においては、いつでも不公平な力が働いていて、僕はそれを無視することを良しとはできないのです。

こうした全てにまつわることで、とても後悔している自分の発言にも行き着きました。僕は「観客の中で自分と寝たがっているのは誰か、演奏を見る目つきでわかる」と発言したことがあります。この発言は、演奏後のファンとの交流に、とても暗い影を落とすことになります。コンサートに来る誰も、性的な魅力に基づいて演奏者に評価されるべきではありません。僕はその発言と行動で、間違いなく一線を越えてしまったことを申し訳なく思っています。

僕はさらに、これまでの人付き合いにおける自分の振るまいを顧みるに至りました。僕はとてもお喋りで興奮しがちで、途方もない計画や夢を語っては、すべてを共有してほしがります。そしてこうした自信の一端は、僕の男性としての特権意識から来ていたのだと実感しています。こうした向き合い方は、パートナーに深く考えたり、感情に自信を持つに至る時間や、余地を与えていなかったのだということも実感しています。僕の情熱は、彼女の側に曖昧さや一切の余地を与えず、個人が考える過程を残していなかったのです。僕の情熱が、我慢強く耳を傾けることを妨げていたのだということを恥じていますし、それと同じことが、ここでも起きたのだと信じています。

これは自分の反省の長い過程の、始まりだと思っています。自分の人生をより良く変えるための時間を取るために、そして彼女が経験してきたことへの敬意から、僕たちはこれからのUSツアーをキャンセルします。少しだけ時間をおきたいと思います。僕は11月15日から始めたセラピーを無期限で続け、自分の精神状態と、人との付き合い方を向上させることに専念します。

僕は自分に親しい人たちから説明するように求められていますが、この投稿の要点は僕についてではなく、僕が傷つけてしまった人と、僕が落胆させてしまった人たちへの謝罪です。僕のバンドメイト、友だち、家族、ファンの人たち。本当に申し訳なく思っています。こんなに自責の念にかられたことは今までありませんでした。生きている限り、こうした状況で、僕はどうしたら良かったのかを考えていくつもりです。

Evan


PWR BTTM、Brand Newといったインディー・ロック・バンドの男性メンバーによるセクシャル・ハラスメント問題や、#MeToo運動の高まりの最中に起きたこの一件は、多くの人々に「またか」という落胆と、「なぜ?」という疑問を残すことになる。というのも、そのスキャンダルはPinegroveの音楽そのものはもちろん、ライヴ・アルバムの売り上げの全額を慈善団体に寄附し、ファンとのオープンなコミュニティを築き上げてきたバンドのイメージと、あまりにもかけ離れていたからだ。

被害者からのコメントは出されず、詳細が明らかにされないこともファンが消化不良を引き起こす原因となっていたが、そんな事件に光を当てたのは、Anna Gacaという女性ライターが今年の4月に『SPIN』に寄稿した、“Punk Talks Controversy: Pinegrove, a Mishandled Allegation, and Finding a Path Forward(Punk Talks問題:Pinegrove、誤った疑惑と、前に進む道を探すこと)”と題された記事だった。

記事によれば、今回の事態が発覚したのは、被害者の女性がPunk Talksという、ミュージシャンを対象とした非営利のカウンセリング団体に相談したことがきっかけだったという。Punk Talksの創設者の女性はこの相談を受け、Pinegroveが出演予定のフェスティバルや所属レーベルのRun For Coverにバンドとの契約破棄を求めるメールを送り、Evanにも自分たちのもとでカウンセリングを受けるように薦めている。しかし問題は、これらの行動がすべて被害者の女性の承諾なく行われており、Punk Talksの女性が、“今一番ビッグなインディー・バンドを引きずり下ろす”と発言していたことだった。しかも彼女が実際にはカウンセラーの資格を持たないアマチュアであったことも判明し、これを受けて被害者の女性は、匿名でこんな発言を残している。

私が彼女にこの件から完全に手を引いてほしいと伝えた後も、彼女が私の許可やサポートなく、知らないところでたくさんのことをしていたと気づいたのは、つい最近のことでした。私が表に出たくないことや、公に発言したくないということは、彼女に何度も伝えました。私が彼女に、PinegroveやRun For Coverからの声明を要求させたことはありません。私から彼女に、Pinegroveを“引きずり下ろして”ほしいと言ったり、仄めかしたこともありません

もちろん、Punk Talksの不手際と、そもそもの発端となったEvanの行動は全く別物だ。けれども、本来であれば当事者同士で解決されるべきだった問題が、(善意とはいえ)一個人の先走った行動によって公になり、被害者の女性を含む多くの人たちに計り知れないダメージを与えたことは事実であり、すべてが正しい順序を踏んでいたらと、思わずにはいられない。

そんな中、先月26日、突如としてバンドが新作『Skylight』を自主リリースすることが発表され、Evan Stephens Hall自身が今回の顛末を語るインタビューが、Pitchforkに掲載されている。インタビューを担当したのは、女性ライターのJenn Pelly。彼女がバンドと近しい関係にあったことや、記事が掲載されたのがアルバムのリリース前日だったことから、結局はプロモーションではないかとの批判も多かったが、客観的な事実だけでは伝わってこない、当事者や周囲の人たちの複雑な心境を代弁するという点では、適役だったのではないだろうか。Jenn PellyはPitchforkでSleater-KinneyやBikini Killといったバンドのレビューを担当しているリベラルなライターで、彼女自身にも葛藤があったことが、文章からも窺える。

記事によれば、Evanが被害者の女性と関係を持った際、彼女には交際相手がいたにも関わらず、別れるようにEvanから無理強いさせられたのだという。問題となっていた“強制わいせつ”という言葉については、被害者の女性の表現をそのまま使ったために多くの誤解を招くことになったが、肉体的にではなく、言葉によって彼女が精神的に追いつめられたというのが実態のようだ。女性はEvanがセラピーに通うこと、一年間ツアー活動を休止することを求め、バンドもそれに応じたが、この度女性からの許可が下りたため、アルバムをリリースすることになったのだという。

みんなが僕のことを自信を持ってレイプ魔と呼んで、twitterで死ねと言っている

と涙ながらに語るEvanには胸が締めつけられそうになるが、一方で彼は、こんな風にも発言している。

僕たちは“こんなことは気にしない”というリスナーは欲しくない。僕たちはこんなことを気にしているんだ。僕は“このバンドが好きだから、この状況は理解できない”という人たちよりも、“この状況は理解できないし、このバンドはクソだ”という人たちにずっと共感できる。僕たちは虐待の被害者を支えて、男性支配的な構造を解体することに完全に賛成するし、そういうことを気にしないリスナーとの関係には興味がないんだ

そして予告通り、Pinegroveのアルバム『Skylight』は9月28日にbandcampでリリースされた。作品自体は昨年既に完成しており、内容には一切手が加えられていないという。それでも曲を聴きながら、歌詞の節々に、一連の出来事を連想してしまうことは避けられないだろう。果たしてこのアルバムはリリースされるべきだったのか、一年という休止期間は妥当だったのだろうか。そもそもここ日本では、こうした経緯自体が正しく伝わっていないようにも思えるが、アルバムのリリースを歓迎している人から、複雑な思いで聴いている人まで、反応は様々だ。でもきっと、そのどれもが正解なのだろう。アルバムのタイトル曲の「Skylight」でEvanが歌っているように、“Whatever you're feeling is natural(なんであれ、君が感じていることが自然)”なのだ。
Posted by Monchicon
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