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[REVIEW] Father John Misty - God's Favorite Customer
評価:
OCTAVE/SUB POP
(2018-06-01)

失われた週末

神とは、僕らの苦痛を測るための概念に過ぎない──そんな風に歌うJohn Lennonの「God」という曲を、Father John MistyことJosh Tillmanは2015年のクリスマスに、ライヴでカバーしていた。ただし、Johnが“信じない”と歌った“ヒトラー”や“ジーザス”、“ケネディ”といったフレーズを、“オバマ”や“フェイスブック”、“スター・ウォーズ”に変えながら。

そしてFoxygenのJonathan Radoを共同プロデューサーに迎えた彼の新作もまた、妻であるヨーコと離れて“失われた週末”を過ごしていた、John Lennonのソロ時代の作品に通じるものだ。
全米10位を記録した昨年のアルバム『Pure Comedy』がリリースされる少し前、Josh Tillmanは彼が言うところの“misadventure(災難)”を理由に、二ヶ月間のホテル暮らしを送っていた。その詳しい経緯はわからないが、2015年のアルバム『I Love You, Honeybear』のモチーフにもなった最愛の妻、Emmaとの関係が芳しくなかったことは、その頃に書かれたという本作の曲を聴けば明らかだろう。

ポップなカートゥーンがあしらわれた過去3作とは対照的に、沈痛な面持ちのJosh本人の写真がジャケットを飾る本作は、間違いなく“Father John Misty”ではなくJosh Tillmanの視点で歌われており、イギリスのダーク・アンビエント・ミュージシャン、The Haxan Cloakが参加した「Hangout at the Gallows」では、絞首台や転覆する方舟といったイメージを織り込みながら、彼の私生活が今や危機に瀕していることが仄めかされている。



不安定な精神状態にあった彼がホテル滞在中に起こした数々の奇行(パスポートを冷蔵庫に忘れる、マットレスを雨曝しにする、顔にタトゥーが入った客を連れてくる)は先行曲となった「Mr. Tillman」でもコミカルに語られているが、それが決して冗談ではないことは、アルバムが進むにつれて徐々に明らかになっていく。続く「Just Dumb Enough to Try」や「Date Night」でも歌われているように、社交界でのステータスやミュージシャンとしての才能とは裏腹に、愛する人の前では彼も無力だったのだ。





「Please Don't Die」は過剰なまでに自分を追いつめるJoshの身を案じる妻Emmaの視点で歌われているが、そんな心配をよそに彼は「The Palace(宮殿)」と呼ばれるホテルでの別居生活を続け、神経を細らせていく。しかし誰もが最高の物語の主人公にならなくても良い、 永遠に続く愛なんてありふれている、むしろ「失望するようなダイアモンドこそが最も貴重(Disappointing diamonds are the rarest of them all)」なのだという結論に至った彼は、すがるような気持ちで救いを求める。キリスト教徒の両親の元に生まれ、ペンテコステ派の学校に通わされていたジョシュはかつて神のお得意様(God's Favorite Customer)だったが、信仰を捨てた彼に、神はもう語りかけてはこないのだった。



3月にリリースされたMount Eerieのアルバム『Now Only』のタイトル曲では、彼がFather John MistyやWeyes Bloodと深夜までソングライティングについて語り合った出来事が歌われていたが、本作のタイトル曲にそのWeyes BloodことNatalie Meringがコーラスで参加しているのは、単なる偶然ではないだろう。というのも、続く「The Songwriter」では、妻との私生活を曲にして切り売りすることの苦悩や、彼女への愛こそが自分の知られざる最高傑作なのだという想いが、再び主語を入れ替える形で歌われているからだ。

アルバムのラストを飾る「We're Only People」で、”僕たちは自分のことを少ししか知らない/それでも他の誰かになりたいと望むには充分だ”と歌うJosh。ここにはオーケストラをバックに、人類の行く末を憂いていた預言者Father John Mistyの姿はない。本作はJosh Tillmanの“人間宣言”であり、前作の半分程度の演奏時間でありながら、前作以上に多くの共感と、人生についての見解を聴き手にもたらしてくれるのだ。
Posted by Monchicon
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