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[REVIEW] Lucy Dacus - Historian
評価:
Matador
(2018-03-02)

羽ばたけ、自分

ノア・バームバック監督の映画『フランシス・ハ』で知られる女優、グレタ・ガーウィグ。カリフォルニアにあるカトリック系の高校を卒業し、単身ニューヨークの大学に通うことになった彼女の自伝的な初監督作『レディ・バード』を観ながら思い出したのは、先日リリースされた女性シンガー・ソングライター、Lucy Dacusの『Historian』に収録されている「Nonbeliever」という曲だ。
 あなたは本を川に投げ捨てて
 自分は無神論者だとママに言った
 彼女は驚かなかったと言ったけど
 だからってそれでいいわけでもなかった
 (「Nonbeliever」)

そう歌うLucy Dacusは、ヴァージニア州のクリスチャンの家庭で育った22歳。しかし親の望む道へは進まずミュージシャンになった彼女は、2016年に地元のレーベルからリリースしたファースト・アルバム『No Burden』がMatadorから再発されると、一躍注目を集めることになる。そんなエピソードからはレーベル・メイトのJulien Bakerを連想せずにはいられないが、ディストーション・ギターを効果的に使い、同郷のミュージシャンであるJacob Blizardがアレンジを手掛けたホーンやストリングスを配したサウンドは、ずっとドラマティックだ。



彼女のセカンド・アルバムとなる『Historian』は、“はじめて他人の唾を味わった時、わたしは咳き込んだ”という、赤裸々な歌詞で幕を開ける。9時5時で働く元恋人に会わないように夜間のシフトを入れ、“5年経ったら、この曲が新しい恋人に捧げたカバー曲みたいに感じられたらいいのに”と歌うこの「Night Shift」や、その元恋人を真夜中に呼び出して車の助手席に乗り、“あなたも中毒になってる”と歌う「Addiction」で描かれるのは奔放な女性像だが、ピアノの先生だったという亡くなった祖母に捧げられ、聖書を引用した「Pillar of Truth」など、アルバムの後半に進むにつれて、彼女自身の死生観や宗教観が色濃くなっていく。

そんなアルバムの最後を飾るのが、タイトル曲でもある「Historians」だ。愛し合う二人がお互いの人生の歴史家(Historian)になることを誓うが、やがて片方に死が訪れ、もう片方には自分について書かれた、膨大な量の文章が残される――そんなストーリーは胸を打つが、この曲が「Historians」と複数形なのに対して、アルバムのタイトルが『Historian』と単数形なのも、そんなことに由来しているようだ。

Lucy自身は本作を失恋のアルバムではないと語っているが、宗教との決別や死といった、様々な“別れ”を描いたアルバムだとは言えるかもしれない。家族を捨てて生まれ故郷を飛び出す「Nobeliever」には、シカゴの実家を出てミシシッピへ向かったLucyの父親の経験も反映されているそうだが、そこで彼女は自分に言い聞かせるように、こんな風に歌っている。

 もしもあなたが探しているものを見つけたら
 きっと新しい住所を送ってほしい
 もしもあなたが探しているものを見つけたら
 手紙を書いて、それが何だったのか教えてほしい

「わたしはアルバムを作って、日記を書いている。そしてそれは私を超えて残っていく。そう考えるとクレイジーよね」と語るLucy。彼女がそうであるように、誰もが自分自身の歴史家なのかもしれない。

Posted by Monchicon
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