モンチコンが選ぶ2017年のベスト・アルバム、続きまして10位から6位までの発表です!



10. (Sandy) Alex G - Rocket (Domino)


時の人Frank Oceanからの召喚も頷ける、遂にその才能が大化けした「おったまげ〜」な最新作は前作に引き続きDominoからのリリース。これまでのベッドルーム的な感触を残しつつ、風通しの良いカントリー/フォークから気狂い気味のハードコア(!)までも横断。よく聴くとズレ気味の定形外な事を色々やっていながら、それをいとも簡単に纏め上げてしまうのはその圧倒的センスの成せる業。元々高かったソングライティングの能力もまた更新され、「曲滅茶苦茶イイんだけどなんか異物感もあるなあ」と思わせるのはミックスで参加したUnknown Motal OrchestraのJake Portraitの果たした役割かと。そして歌詞は中学生レベルの英語力でも分かるシンプルさで迫ってきて何故だか無性に切ない。語弊を恐れながら言えば、これも2017年の最新型ミクスチャーだと思います。(山岡弘明)







9. Richard Dawson - Peasant (Weird World)


古くはLindisfarne、Prefab Sproutなどで知られるイギリス北部のニューキャッスル・アポン・タインから突如出現した(ように思える)この男はしかし、10年以上に渡って奇妙なオブジェのような音楽を作り続けてきた。本作は人気レーベルDomino傘下のWeird Worldからの2作目で、全4曲44分という前作に比べれば商業音楽に近づいてはいるが、依然としてシーンにおいてグロテスクで、異様な存在感を放っている。Neutral Milk Hotelや、その源流でもあるLal & Mike Watersonにも通じるパストラルなフォーク・ロックと、中世趣味をこじらせた御伽噺のような詩世界。時折見せるComusや初期のAnimal Collective、はたまた『The Wicker Man』のサウンドトラックのようなフリーキーな展開もたまらない。収穫を祝う村人たちが火の周りを輪になって踊るような、7分にも及ぶ「Ogre」の高揚感。そして何よりも、長い歴史と伝統を持ちながら、ここ数年アメリカの借り物のような音楽ばかりだったイギリスにも、このような古き良き時代の語り部がいたのだということが素直に喜ばしい。(清水祐也)






8. Alvvays - Antisocialites (Polyvinyl)


デビュー・アルバムから3年を経てリリースされたカナダのドリーム・ポップ・バンドの新譜で、その輝きは色褪せるどころか、さらに増しているようだ。80年代のネオアコを彷彿させるリヴァーブのかかったギター・サウンドに、美しきヴォーカリストMory Lankinの瑞々しく儚げな歌声が溶け込んでいく。そのロマンチックなメロディーにプロムのダンス・シーンや、くるくる回る夜のメリーゴーラウンドみたいな青春映画のワンシーンが思い浮かぶ。しかしMory自身は怒りや絶望、諦め、独立を描いた本作を“fantasy breakup arc(空想の失恋の物語)”と称し、「In Undertow」では逆流に向かう精神を歌う。 Television Personalitiesの「Part-Time Punks」からインスパイアされたという「Plimsoll Punks」でも辛辣な物言いをしているが、それでもAlvvaysの音楽はいつだって、私たちにセンチメンタルで青臭い想い出を鮮やかにフラッシュバックさせてくれる。“Would I have you in my dreams tonite?(今夜はあなたの夢を見てもいいかしら?)”──このアルバムを聴きながら、今夜はどんな夢を見よう。(栗原葵)






7.Hurray For The Riff Raff - The Navigator (ATO)


David Bowieの『Ziggy Stardust』と、ブロードウェイ版『ウェスト・サイド・ストーリー』をマッシュ・アップしたかのようなカバー・フォトが全てを物語る。ニューヨークに暮らすポーランド系アメリカ人と、プエルトリコ系アメリカ人の不良少年グループの対立を描いたあの名作ミュージカルのように、本作はナヴィータ・ミラグロス・ネグロンというニューヨリカンの家出少女の視点で描かれた、二部構成のコンセプト・アルバムになっているのだ。しかしながら、Lou Reedにオマージュを捧げたという「Living in the City」で歌われるのは、同じくプエルトリコ系アメリカ人で、ニューヨークのブロンクスで育ったというフロントウーマン、Alynda Lee Segarra自身の姿でもある。第二部の冒頭、魔女の呪いから40年ぶりに目を覚ましたナヴィータは、自分の知っている町や文化がすべて失われてしまったことを知って愕然とするが、それは本作の制作に先駆けてAlyndaが訪れたというプエルトリコの、財政破綻にあえぐ窮状そのものだ。そんな同胞たちの背中を押すように「Pa'lante(前へ)」と歌う彼女なら、この苦境を乗り越える航海士(Navigator)になれるかもしれない。(清水祐也)






6. Bedouine - Bedouine (Spacebomb)


今年も大忙しのアーティスト、Robert Beattyによるジャケットも印象的な、シリア出身の女性SSW、Bedouineのデビュー作はMatthew E. Whiteオジサン主宰のSpacebombから。両親と共にアメリカに移住、国内を転々とした後、同氏のスタジオを訪ねた事が制作のきっかけとなった彼女の作品は、レーベルのカラーともいえるレイドバックしたフォークサウンドを基調としながら、自らの出自であるアルメニアや中東の風景が浮かんできそうなアーシーで乾いた独特の質感と、活動の拠点としている西海岸の風通しの良さが同居している。また、サンフランシスコのデュオ、Foxygenの新作『Hang』内でもオーケストラを指揮したTrey Pollardによる、彼女のスモーキーな歌にそっと寄り添うな控えめなストリングスアレンジも素晴らしい。どこかノスタルジアも感じてしまうエキゾチック・フォーク集。(山岡弘明)