「あんな取材は初めてでしたよ」

そう語るのは、音楽ブログ「Monchicon!」のSさんだ。8月某日、イベント“Hostess Club All-Nighter”に出演するため来日したSt. VincentことAnnie Clarkに取材を申し込んだSさんは、都内某所の料亭に呼び出されることになる。恭しく奥の間に通されたSさんが襖を開けると、そこにはAnnieと弟のJack、そしてツアー・バンドのメンバーのトーコ・ヤスダさん(元Enon)が座っていたのだ。

「さあ、始めましょうか」

脅えるSさんをよそにAnnieが部屋のモニターで再生したのは、彼女の友人でもあるSleater-KinneyのCarrie Brownsteinが台本を担当した(翻訳・吹替えはトーコさん)という、“彼女の新作『MASSEDUCTION』について、インタビュアーに聞かれそうなベタな質問とその回答”をまとめた7分間の映像。この先制攻撃によってSさんが用意してきた質問の半分近くがボツになってしまったそうだが、その映像と同じものが現在St. VincentのInstagramで公開されているので、ここに紹介することにしよう。



(軽い冗談を挿入する)

またお会いできて嬉しいわ。うん、もちろん覚えてます。よかったまた会えて。お子さん元気?



(『MASSEDUCTION』というタイトルについての質問を挿入する)

“MASSEDUCTION”って実際のところは“ASS EDUCATION”だったんだけど、スペル間違えちゃって。気づくの遅くて、ちょっと手遅れみたいな。



(Annie ClarkとSt. Vincentは同一人物なのかという質問を挿入する)

Annie ClarkとSt. Vincentが同一人物か…それは彼女に聞いてくれる?



(このレコードを作るにあたっての彼女のアプローチについての質問を挿入する)

この作品での私のアプローチは年を重ねることだったんですけど、私はそうでよかったなって。



(彼女にとって誘惑とは何を意味するのかという質問を挿入する)

誘惑とは、招待状のほうがパーティーより優れていること。



(このレコードのインスピレーションについての質問を挿入する)

女の人がね、ひとりで車の中で「Great Balls of the Fire」を歌ってるのを見て、それで、このようなことが二度とないように、いいアルバムを作らなくてはと。



(このレコードにおける彼女のソングライティングのプロセスについての質問を挿入する)

曲自体に空間を与えたかったし、自然とこう、そうあるべきものになっていってほしかった。一時的な限界にこう縛られないところに行ってほしくて、それだけはわたしが曲たちに思っていてほしかったこと。まあ裏ではね、実際のところ私が操ってたんだけど、それはあの子たち、たぶん気づいてなかったと思う。

ALLWORKANDNOPLAYMAKESANNIEADULLGIRL
(仕事ばかりで遊ばないとアニーは馬鹿になる)




(Jack Antonoffとの作業はどうだったかという質問を挿入する)

Jack Antonoffは、こう抑制されないすごい情熱的な気持ちを音楽に対して持ってて、ちょっとイッちゃってるんじゃないってぐらい。とてもいい時間を過ごせたわ。あと彼からは結構フェミニズムについても学んだわ。



(音楽業界で女性であることについての質問を挿入する)

女性として、音楽業界でやっていくのはどんなって? いい質問ね…(FUCK OFF)。



(このレコードのインスピレーションについての質問を挿入する)

政治演説、GPS、ラグタイム、ジョン・フィリップ・スーザの「Marches」、あとは『Time Life』のベスト盤の第2集、70年代のね。その第2集がいいの。



(前作から彼女がどう変化したかについての質問を挿入する)

わたしがどんな風に変わったかって? たぶん周りの人たちから私の耳に入ってくると思う。どんな風に私の顔が拡がってたり、縮まってたり。わたしの目が賢くなってたり、ちょっと疲れてるとか。体重が減ったり、増えたり。でもまあ、増えて、減ったから。ありがとう。



(今の若いミュージシャンたちへのアドバイスについての質問を挿入する)

今の若いミュージシャンたちへのアドバイス? ちょっと上に上げてくれる? で、こっちちょっと向けて、そんな感じ。ちょっと下。ううん、ありがとう。ちょっと触っていい? そんな感じ、はい、ありがとう。まあ今の若いミュージシャンたちに言っておきたいってこととしたら、映画の業界に進みなさいって。



(彼女はニューヨークとLA、どちらが好きかという質問を挿入する)

ニューヨークかLA、どっちがいいか? あなたのユニークな質問に一票って感じね。とりあえず。



(カリフォルニアにまつわる彼女の好きな曲についての質問を挿入する)

わたしの好きなカリフォルニアにまつわる曲といったら、Led Zeppelinの「Going To California」。ニューヨークだったらDread Zeppelinの「Going to New York」かな。



(彼女は未来と現在、どちらが怖いかという質問を挿入する)

未来か現在か、どっちが怖いかな。私は贈り物も好きだし、プレゼンテーションもしてるから、まあ未来かな。



(彼女は最近何を読んでいるかという質問を挿入する)

昔の『Playboy』が好きで結構読んでるけど。写真が目的で。あとは、レベッカ・ソルニットを結構読んでる。



(自撮りについて彼女はどう考えているかという質問を挿入する)

自撮りというもので、誰がナルシスト症候群にかかってるかわかりやすくなったわよね。



(一緒に自撮りをしてもいいかという質問を挿入する)

「自撮りを撮ってもいいですか?」って? 私はもう、文化的に合っていれば何にでも「ハイ」って言いますから。まあほとんど私は「ノー」としか言わないんだけど。



(彼女自身をGoogle検索するかという質問を挿入する)

Google検索はしないの。それって私が一番つまんないと思ってるマスターベーションの仕方だから。




(ヒールを履いてショウをするのはどんな感じかという質問を挿入する)

ヒール履いてショウする? うん、まあとりあえず練習して、でも、なんかこう姿勢を良くしてくれるでしょ? それもいいし、あとなんかこう動けなくなっちゃったり、そこがまたいいの。



(現代において政治的であることの重要性についての質問を挿入する)

思うに、関わりを持つのって政治的に流暢な行為だし、わたしの目標は常にこう、アーティストとして関わりを持つこと。まあ、すべての政治的アートが素晴らしいとは思わないし、素晴らしいアートってすべてが政治的なものではないし。あと芸術って常に、それが作られた時と場所で判断されるでしょ? だから、もしアーティスト自身が自分たちを“政治的アーティスト”って言ってしまったら、その時点でそのバトルには負けてしまう。まあオーディエンスからしたら中身そのものより、空っぽなものにダメージを受けて、裏切られちゃってるんじゃないかしら。

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(仕事ばかりで遊ばないとアニーは馬鹿になる)



(グラスは半分満たされているのか、それとも半分空っぽなのかという質問を挿入する)

半分入ってるわ。半分は満たされてる。うーん、まあ、空っぽのね。



(彼女が無人島に1枚持っていくアルバムについての質問を挿入する)

無人島に持っていけるアルバムをひとつピックするとしたら? 照明弾、応急処置キット、携帯、あとはボート。



St. Vincent - Masseduction (Loma Vista)