The MillenniumのCurt Boettcherがプロデュースした1967年のアルバム『Color Him In』で知られるカルト・シンガー・ソングライター、Bobby Jameson。Rolling StonesのJagger/RichardsやFrank Zappaがプロデュースしたシングルを残すもヒットに恵まれず、やがて音楽業界から姿を消した彼は、2007年に自身の半生を綴ったブログを立ち上げる。

そのブログを読んで心を打たれたというAriel Pinkのニュー・アルバム『Dedicated to Bobby Jameson』は、2015年にこの世を去ったJamesonに捧げられた作品だ。Animal Collectiveのレーベルから作品をリリースするようになった2004年までは、Jamesonと同じように他人に認められたいという気持ちが曲作りの動機になっていたというAriel。その後4ADからリリースした作品でブレイクを果たした彼がMexican Summerに移籍し、原点でもあるホーム・レコーディングに回帰したという新作について、本人にメールで聞いてみた。


“僕は絶対に死なない”


──このアルバムは2015年に亡くなったミュージシャンのBobby Jamesonに捧げられていますが、あなたと親しいバンドのBrian Jonestown Massacreも、2011年に彼の曲をカバーしていましたよね? あなたはどうやって彼のことを知ったんですか?

友達のGiddle Partridgeが、僕の目を彼に向けさせてくれたんだ。彼の話は驚くべきものだと思ったよ。特に彼のブログを読んでからはね。

──どんなところに共感したんですか?

とにかく、ただただ驚くような話なんだ。

──アルバムの裏ジャケには、“世界はたくさんのTony Alamoで溢れている”と刻まれた墓石の横に立つ、あなたの写真があしらわれています。Tony AlamoはBobby Jamesonの元マネージャーでしたが、のちに宗教団体を設立して、未成年への性的虐待の罪で逮捕されて、つい先日獄中死を遂げたそうですね。あれはBobby Jameson本人の墓なんでしょうか? あなたが宅録時代のアルバム、『FF>>』と同じ服装をしているのは、何か意味があるんですか?

『FF>>』との関連性に気づいてくれて良かったよ。いや、あれはBobbyの墓じゃないんだ。彼の墓にはサイコなマネージャーの発言が刻まれていないことを祈ってるよ(笑)。あれはただ、僕らが適当にでっち上げたんだ。



──アルバムのアートワークはOneohtrix Point NeverやTame Impalaのアルバムで知られるRobert Beattyとあなたの共作ですが、個人的にはBlack Sabbathのファースト・アルバムと、Kim Fowleyがプロデュースしたフィンランドのバンド、Wigwamの『Tombstone Valentine』というアルバムを連想しました。Robertとはアートワークについて何か話しましたか?

彼にはただ、写真とイメージを使ってもらって、彼の特徴的なペインティングのスタイルにはするべきじゃないと伝えたんだ。もっと写真を使うべきだってね。



 


──あなたは以前にもMexican Summerからシングルをリリースしていますが、今回のアルバムを4ADではなくてMexican Summerからリリースすることにしたのはなぜですか?

4ADを去ったのは、僕のアルバム3枚分の契約が終わったからなんだ。Mexican Summerに決めたのは、もう少し個別の注意を払ってくれるちいさいレーベルのほうが、僕らにとって得だと思ったから。

──リード・シングルだった「Another Weekend」は、Charli XCXのアルバム『Sucker』に参加していたスウェーデンのプロデューサーPatrick Bergerとの共作ですが、あなたもソングライターとしてあのアルバムに参加していましたよね? 彼とはあのアルバムを通して知り合ったのでしょうか? 実際に作業してみていかがでしたか?

Patrickと作業するのは、いつだって楽しいよ。彼と会ったのはEl Rey TheatreでのCharliのライヴで、Sky Ferreiraの『Night Time, My Time』を共同プロデュースしたJustin Raisenからの紹介だったと思う。



──「Feels Like Heaven」は、あなたのキャリアでもベスト・ソングのひとつだと思いますが、この曲はどうやって生まれたのでしょう? 一緒に歌っている女性は誰ですか?

その女性ヴォーカルは僕のガールフレンドのCharlotte Ercoliだよ。彼女は「Kitchen Witch」でも歌ってるんだ。



──「Time To Live」は“アンチ自殺ソング”だそうですが、自分も“ミュージシャンは若くして死んだほうが偉い”という風潮には断固として反対します。それはさておき、この曲ではBugglesでおなじみの「Video Killed Radio Star」のメロディを引用していますが、どういった意図があったのでしょう?

でもあれって、実際にはメロディじゃないよね? 正確には抑揚というか、起伏のない単音だし。自分が何を考えてたのかはよくわかんないんだ。



──「I Wanna Be Young」は宅録時代の曲のリメイクですが、どうしてこの曲を再録しようと思ったんですか?

ちょうど良い頃だと思ったから。

──「L'Estat」とか「Dazed In Dreams」とか、宅録時代のコンピレーション・アルバム『Oddities Sodomies Vol.1』に入っていた曲をよくリメイクしていますが、何か理由があるんですか?

過去と現在の隙間に架ける橋、みたいな? 理由はよくわかんないんだよね。昔いっぱい曲を書いたし、ちょっと変えたところで誰も傷つけないから。

──そういえば、『Oddities Sodomies Vol.1』に入っていた「Before Today」という曲は、アルバム『Before Today』には入っていませんでしたよね? あの曲って、アルバムと何か関係あるんでしょうか?

関係はないよ。ただのタイトルってだけで、それだけ。

──今回のアルバムにもDrugdealerことMichael Collinsや、Mild Hiigh ClubのAlexander Brettinなど、前作『pom pom』から引き続き参加しているミュージシャンが多いですが、彼らはほとんどあなたの住むエコー・パーク周辺に住んでいますよね? やっぱり近所に住んでいるというのが大事なんでしょうか?

このアルバムは自然な流れで自宅でレコーディングすることになったから、そうだね、近所に住んでるっていうのが大事かもしれない。

──その中でも、LilysのKurt Heasley、MGMTのAndrew VanWyngarden、Theophilus Londonといった名前が目を惹いたのですが、彼らはアルバムで何をしているんですか?

Theophilusは「Death Patrol」でちょっとだけ歌ってるんだ。他の2人は実際にはアルバムに参加してないんだけど、レコーディングした時すぐ側にいたから、魂が込められてる。

──アルバムの最後の曲「Acting」は、あなたが参加していたDaM-Funkのアルバム収録曲のリメイクですが、どうして再演することにしたんですか? サウンドもアルバムの他の曲と少し違いますし、『Mature Thems』における「Baby」のような、ボーナス・トラック的な位置づけなんでしょうか?

ボーナス・トラックは他にあるから、この曲はボーナス・トラックというわけではないんだ。どうしてだろうね。僕はただ、物事を決めた後で質問に答えるようにしてるんだ(笑)。

──では最後の質問です。もしもあなたが死ぬとしたら、墓碑には何と刻みますか?

“僕は絶対に死なない”


"アリエル・ピンク、気取り屋で、魂を売り、
自分をアーティストだと思い込んだ男
安らかに眠れ"
(本人のInstagramより)