「僕のママは19歳でイランを出て、オクラホマの大学に行ったんだ。彼女は姉妹とはまったく別の道を進むことになった。僕は彼女の頑固で強情なところを受け継いでいて、“Gwan”という曲の歌詞でも、誰よりも自分自身を信じなくちゃいけないってことについて歌ってるんだ。悪い面を言えば、それは孤独になることでもあるんだけどね」
そう語るのは、昨年1月にVampire Weekendからの脱退を表明したRostam Batmanglij。The WalkmenのHamilton Leithautherとのコラボレート作をリリースするかたわら、Charli XCXやCarly Rae Jepsen、Solangeといったポップスターのソングライター/プロデューサーとして活躍してきた彼の、はじめてのソロ・アルバムが本作だ。
『Half-Light』というタイトルは、「“ハーフ”よりも、“ダブル”という言葉が一般的になってきている」という日本の友人の言葉に由来しているそうだが、まだRostamがVampire Weekend在籍中の2011年に発表された2曲、「Wood」と(Paul Simonの「Obvious Child」をサンプリングした)「Don't Let It Get To You」を含む本作でも、彼はアメリカ人としての自分と、イラン人としてのルーツ、その両方を模索している。
アルバムのオープニングを飾るのは、中世イギリスのカノン「夏は来たりぬ(Sumer is icumen in)」を下敷きにしたという「Sumer」。「Gwan」ではウェールズの子守唄や清教徒の賛美歌が引用されており、のちにアメリカに渡って広く知られることになったこうしたフォーク・ソングは、彼にアメリカを感じさせてくれるのだという。一方、「Wood」では“タール”というイランの弦楽器を模したチューニングの12弦ギターとタブラが鳴り響き、再びタブラが登場する終盤の「When」では、“僕たちはただアメリカで暮らしたいだけなんだ”という、移民の息子としての彼の切実な思いが歌われている。
「僕にはVampire Weekendとして語るには意味を成さない、僕の物語があるんだ」
と話すRostamにとって、このアルバムは自身のアイデンティティでもあるのだそうだが、彼がRa Ra RiotのWes Milesと結成したエレポップ・デュオ、Discoveryが2009年にリリースした唯一のアルバム『LP』に、元Dirty ProjectorsのAngel Deradoorianが歌う「I Wanna Be Your Boyfriend」という曲が収録されている。
当時は「どうして“彼氏になりたい”という歌詞を女性が歌っているのだろう?」と不思議に思っていたのだが、翌年彼は雑誌のインタビューで、ゲイであることをカミングアウトしたのだった。
「僕自身がオープンであることで、ただラヴソングを書くことが、本質的にポリティカルな要素を含むことになるんだ」
ロスタムはそう語り、自分のセクシャリティを必要以上に前面に押し出そうとはしないが、本作でも一部の曲をDeradoorianやWetのKelly Zutrauといった女性シンガーに歌わせることで歌詞に二面性を持たせており、The Specialsもカバーした「A Message To You, Rudy」を思わせるロックステディ風の「Rudy」では、Rudyというひとりの青年の、同性愛への目覚めが仄めかされている。
2013年にニューヨークを去り、残りの人生のほとんどをスタジオで過ごす覚悟を決めて、ロサンゼルスに引っ越したRostam。そんな彼が住み慣れたニューヨークの街を歩くビデオが先立って公開された「Gwan」で、彼はこんな風に歌っている。
don't listen to me
僕に耳を貸さないで
I only believe myself
自分のことしか信じないから
so I'm going somewhere
だから僕はどこかへ行くよ
to do that alone
ひとりでやっていくために
すべてを曝け出し、自分の足で歩き始めたRostamの晴れやかな表情が印象的だ。
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