評価:
Sub Pop
(2017-08-25)

ホームカミング

「人間の感情と動機をもった動物たちが登場する寓話を描いた」という本作『Beast Epic』のジャケットには、〈サルっぽい人間〉、もしくは〈人間っぽいサル〉がギターを弾き語っている姿があしらわれている。そして顔には目隠し…。

Iron & WineことSam Beamの(西海岸を中心に活動する女性SSW、Jesca Hoopとの昨年の共演作を除くと)4年ぶり、通算6作目となる今作は彼のこれまでのキャリアを一度総括するような、まさに原点回帰的な1枚だ。

フォークを基調としながらもチェンバーやジャズ、アフリカンなどのフォームを纏わせていた前作・前々作の作風から一転し、基本のバンド編成に、わずかなストリングスやシンセを加えたのみという最小限の楽器編成で臨んだオーセンティックな音になっている。メロディーの起伏は抑えられ、仰々しいコーラスも用意されず、ともすれば肩透かしを食らったように唐突に終わってしまう楽曲もある。キャリア初期のような囁くようなヴォーカルにこそ戻っていないが、しかし、その語り口はこの上なく饒舌で、言葉はとめどなく溢れている。

some kids get a handful of rain
手のひら一杯に雨をすくう子供達
our hope is the desperate die wise
僕らの希望は分別ある死を選ぶ絶望
our killers let go
死ぬほど辛い問題よ、僕らを解き放ってくれ
killers let go
死ぬほど辛い問題よ、諦めて去ってくれ

「Claim Your Ghost」


when all those trees lay down
あの木々がすべて倒れてしまい
if you were a bird and fell into my arms
君が鳥で、僕の腕に飛び込んで来たら
if i wore your wings back home
僕が君の翼を付けて、家に帰ったら
would the dreams in the backwater drown us far from harm
淀みに溜まっていた夢に苦しむことなく溺れるのだろうか
「Song In Stone」


動物そのものや、彼らの本来の生息域である自然を思わせるイメージが随所に登場し、曲調と歌詞の内容を相反させる(サムお得意の)手法が今作でも採られているのと同時に、隠喩を多く用いた詞は全体を通して暗くもの悲しいトーンを纏っているのも確かだ。鳴っている音は限りなく温かいのに反して。

そんな中、中盤に置かれている今作屈指の名曲である『Call It Dreaming』では、自身の人生を肯定し、音楽や周りの人たちへの愛情や感謝を包み隠していない。それまでがどこか塞いでいた分、それはカタルシスを得る程ストレートな描写だ。

where the sun isn’t only sinking fast
そこでは太陽が速く沈むだけでなく
every night knows how long its supposed to last
夜は自らの長さを毎晩把握してる
where the time of our lives is all we have
そこでは人生を楽しく過ごすことだけがすべて
and we get a chance to say before we ease away
ゆっくり離れて行く前に、口にして伝える機会がある
for all the love you’ve left behind, you can have mine
君が残していった愛の代わりに、僕の愛を君にあげよう


音楽で生活をするようになって15年が経ち、サムは今改めて周りの環境やそれを築き上げてくれた人々、同志のミュージシャン達に感謝しているという(奇しくも今作のリリース元は自身の処女作のリリースを手ほどきをしたSub Popだ)。また、今作のイントロダクションでサムは、時が人に及ぼす影響について言及し、それを大観覧車に例えている。それは常に回り続け、(地面と)近づいたり離れたりを繰り返す―。人は何らかの形で常に変化の過程にいるのだと。そして自分は成長しきった、と思った後でも喜びや悲しみは続いていくのだと。

動物たちと共に語られるこの寓話は、サム自身のすこしだけ悲しい人生、そして彼自身が愛して止まない音楽を讃えている物語のような気がしてならない。