まもなく4年ぶりの新作『Sleep Well Beast』をリリースするThe National

映画『レヴェナント: 蘇えりし者』のサウンドトラックや、Grateful Deadのトリビュート盤『Day of the Dead』のプロデュース、Sufjan Stevensとのコラボレートなど、各メンバーのソロ活動と充電期間を経て届けられた2017年の最重要作とも言えるこのアルバムについて、注目ポイントを整理しつつ紹介したいと思います。
1. アルバムのテーマは“破綻した結婚”?

バンドのフロントマンMatt Berningerによれば、アルバムの歌詞は彼と、文芸誌『The New Yorker』の編集者でもあった夫人のCarinの共作によるもので、“破綻した結婚(Failed Marriage)”がテーマになっているそうです。実際にはMattの夫婦仲は円満だそうですが、いくつかの曲には自伝的な要素も含まれており、彼女の名前を冠した「Carin at the Liquar Store」という曲には、『The New Yorker』を代表する作家ジョン・チーヴァーの名前も登場します。



2. Mouse On Mars、Justin Vernonが参加!

毎回豪華なゲストが話題となるThe Nationalのアルバムですが、今回もメンバーが主宰するBrasslandのレーベル・メイトでもあるBuke & GaseのArone DyerやDovemanことThomas Bartlettに加えて、アイルランド人女性シンガーのLisa HanniganBon IverのJustin Vernonらが参加。アルバム後半にはエレクトロ・ビートを大胆に導入した曲が並んでいますが、これらの曲にはドイツの電子音楽デュオMouse On Marsによるオーディオ・プロセスが施されており、サウンド面でも大幅に強化されているようです。



3. 出世作『Alligator』との共通点?

アルバムからのリード・トラックとなった「The System Only Dreams in Total Darkness」や、既にライヴで披露されている「Day I Die」、「Turtleneck」といった曲で聴ける性急なポスト・パンク・サウンドは、2005年にBeggars Banquetからリリースされ、バンドの出世作となった『Alligator』にも通じると言えるでしょう。





実際、「Day I Die」には『Alligator』収録の「Val Jester」のタイトルにもなったキャラクター“Valentine Jester”が再び登場。『Alligator』収録の「Mr. November」はブッシュの対立候補だった民主党のジョン・ケリーについて歌った曲でしたが、新作収録の「Walk It Back」では、ブッシュ政権の参謀だったカール・ローヴがジャーナリストに語った、以下の発言が朗読されています。

"People like you are still living in what we call the reality-based community. You believe that solutions emerge from your judicious study of discernible reality. That's not the way the world really works anymore. We're an empire now, and when we act, we create our own reality. And while you are studying that reality - judiciously, as you will - we'll act again, creating other new realities, which you can study too, and that's how things will sort out. We're history's actors, and you, all of you, will be left to just study what we do."

君たちのような人間は、いまだに我々が言うところの“現実に根ざしたコミュニティ”に住んでいるんだよ。認識可能な現実を熱心に研究することから、解決が得られると信じている。だがそれはもう時代遅れなんだ。我々は今や帝国なんだから、我々が何か行動を起こせば、現実が作りだされる。そうした現実を君たちが熱心に研究しているうちに、我々はまた行動を起こし、新しい現実を作り出し、それを君たちはまた研究するだろう。そういうものさ。我々が歴史の主役であり、君たちは、ただ我々の行動を研究するしかないんだ。


ジャーナリズムを敵に回したこの発言は2004年の大統領選前に『New York Times』に掲載され、大きな波紋を呼びました。そうしたスキャンダルの数々にも関わらずブッシュの再選に終わった大統領選後にリリースされた『Alligator』同様、トランプ就任後にリリースされる『Sleep Well Beast』にも、政治的なメッセージが込められているのでしょうか? そして現在のアメリカと“破綻した結婚”との関係とは?

Then Nationalの新作『Sleep Well Beast』は9月8日リリースです!



The National - Sleep Well Beast

1. Nobody Else Will Be There
2. Day I Die
3. Walk It Back
4. The System Only Dreams In Total Darkness
5. Born To Beg
6. Turtleneck
7. Empire Line
8, I'll Still Destroy You
9. Guilty Party
10. Carin At The Liquor Store
11. Dark Side of the Gym
12. Sleep Well Beast