間違ってなかった

今から5年前、当時生活していたアラバマ州中部を流れる小川にちなんで自身の活動名を名付けた少女は、かつてPitchforkのインタビューで自身の創作について以下のように答えている。

「私にとって歌詞を書く唯一の方法は、他人の事を全く考えないことなの。自分自身の事だけを書いて、他人がそれをどう受け止めるかなんて気にしない。全てが本当の事だから、必然的に人に伝えるべきものになるわ」


WaxahatcheeことKatie Crutchfieldの通算4作目(Mergeからは前作に続き2作目)となる新作は、これまでの作品同様、自叙的な色合いが非常に強く出ていると共に、間違いなく彼女のキャリアにおける一つの到達点になりうる作品だ。故郷バーミンガムで自身の双子の姉Allison Crutchfieldと組んだ最初のバンドThe Ackleysを経てP.S. Eliotのメンバーとして活動、既に自分(たち)で音楽を作るようになって10年が経過し、これまでの人生を振り返っても良い歳になった彼女の、あけすけで時に比喩的かつラディカルな言葉が綴られていく。

私はあなたの批判や疑い、自己嫌悪に耐えてきた
それを乗り越えるためにあなたの事を繋ぎとめていた
(中略)
私の言う事は全て取るに足らない大げさなものだとみなされた
ここからは太陽は見えず、その陽光しか感じられない
そう、ここでは太陽は昇らない
ここから出て行くしかなかった

「Brass Beam」

それらはしかし、負のイメージで覆われており、一聴(一見)すると大きな怒りに満ちているのが分かるが、同時にそれらが彼女自身が語っているように創作の大きな動機にもなっているのも事実だ。近年のガール・ポップに見られるドリーミーな意匠と90年代オルタナ復興サウンドの中庸を見事に貫いたサウンドや、Sonic YouthやDinosour.Jrを手掛けてきた重鎮ジョン・アグネロによる大きく飛躍したプロダクションも素晴らしいが、何より彼女のソングライターとしての表現力に圧倒されまくる(同じ女子SSWで言えば、年始にリリースされたJay Somの『Everybody Works』に比肩する楽曲のバラエティとクオリティだろう)。

私は慎重に行動し、ゆっくりと言葉を選ぶ
そして自分の存在が感じられた時に、鳥のように飛んでいくだろう
いびつな真実は無視されたまま

私は少しだけ生きている
私は少しだけ生きている

私は少しだけ死んでいる
私は少しだけ死んでいる

「A Little More」

日常を過ごしていく中で、自らが抱える葛藤や悲しみ、怒りは本来、人に見せたくないものだが、自身でそれを受容し、自分の「弱さ」として受け入れる事ができるようになる事は、その人の「成長」でもある。今作は、アメリカの片田舎でパンク・ミュージックに夢中になっていた一人の少女が大人になり、決して順風満帆ではなかった自分の人生を少しだけ肯定している作品である。そしてもしかしたら、あなたはこれらの歌に自分の人生の物語を重ね合わせる事ができるかもしれない。