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[REVIEW] Dirty Projectors - Dirty Projectors

勝者には何もやるな

すべての悲劇には、美しい始まりがある──というのは昨年リリースされたLittle Screamのアルバム収録曲「The Kissing」の歌い出しの一節だが、Dirty ProjectorsのDave Longstrethが、バンドのメンバーであり、恋人でもあったAmber Coffmanとの別れを綴った本作もまた、恋愛の美しい始まりと悲しい終わりを対比させながら、自分自身の体を検死台に乗せて解剖し、観察している。彼ら2人もコーラスという形でエンディング曲に参加していたデレク・シアンフランス監督の映画、『ブルーバレンタイン』のように。
誤解を恐れずに言えば、本作は決して聴きやすい作品ではない。それどころか、苦痛を伴うかもしれない。友人である元BattlesのTyondai Braxtonや、Atoms For Peaceのメンバーでもあるブラジル人パーカッション奏者Mauro Refoscoとの共同作業によって生み出された本作の楽曲もまた、Dave本人の心境を反映するかのように押し潰され、歪められ、切り刻まれているからだ。

臨床心理学によれば、人が失恋を乗り越えるまでには、いくつかのステージがあるという。そのために人はまず答えを求めるそうだが、アルバムの1曲目の「Keep Your Name」は、まさにそんな曲だ。ピッチダウンしたDaveの歌声と交差するのは、前作『Swing Lo Magellan』収録の「Impregnable Question」からサンプリングされた、Amberの歌声。“僕らは目を合わせないけど、僕には君が必要で、いつも心のなかにいる”というフレーズの後半部分は切り落とされ、“僕らは目を合わせない”という部分だけが、うわ言のように繰り返される。表向きはきれいごとを並べてみても、心の中では“関心もなかったし、本気じゃなかった”と、矢継ぎ早に相手を罵ることしかできない。

自問自答の後にやってくるのは、行き場のない怒りだ。“僕らは敵同士で、友達じゃない”と歌う「Death Spiral」では、バーナード・ハーマンが書いたヒッチコックの映画『めまい』のサントラをサンプリングした官能的なストリングスのイントロから一転、Death Gripsのようなインダストリアル・ヒップホップ風のトラックとジャジーなピアノが絡み合い、愛する女性に騙されたジェームズ・スチュワートのように、螺旋を描きながら真っ逆さまに落ちていく。

地面に叩き付けられて目が覚めると、そこは全ての物語の始まりだ。7分にも及ぶ大作「Up In Hudson」では、DaveとAmberが出会ってから別れるまでの一部始終が、赤裸々に語られていく。この曲の一番と二番の歌い出しは、フォーク・シンガーのEwan McCallが後に妻となるPeggy Seegerに送った名曲「First Time Ever I Saw Your Face(愛は面影の中に)」を踏襲しているのだが、皮肉にもその結末は全く逆になっている。原曲では“この悦びは世界が終わるまで続く”と結ばれていたのに対して、この曲では自暴自棄になった男が独りで車を飛ばし、“何も続かない”ことを知って嘆くのだ。先立って公開された際にサンプリングされていた、原曲を歌うPeggyの声がアルバムではカットされているが、思い通りにならなかった楽曲も、思い通りにいかなかった恋愛のようで虚しさを募らせる。

「Up In Hudson」の歌詞にはKanye Westの名前も登場するが、前作のリリース後にKanyeの自宅に招かれ、彼とPaul McCartney、Rihannaの連名で発表された「FourFiveSeconds」の曲作りに参加した経験はDaveにとっても大きかったようで、その影響は続く「Work Together」や、Kanyeのアルバム『808s & Heartbreak』のタイトルを歌詞に折り込んだ「Winner Take Nothing」といった曲にも表れている。ローズ・ピアノの響きが優しい「Little Bubble」は、すべてがはじけ飛んでしまった後で、ちいさなシャボンの泡に包まれていた、幸福な日々を振り返っているような名曲だ。

『Bitte Orca』でAngel Deradoorianが歌った「Two Doves」を連想させるギターのアルペジオに導かれて始まる「Ascend Through Clouds」では、タイトル通り曲が進むにつれてメロディも上昇していくが、雲を突き抜けそうになったその瞬間に視界は遮られ、計器を狂わせるようなノイズの嵐に巻き込まれてしまう。そして粉々になった破片を拾い上げるかのように、自分自身に起きたことや、これからやるべきことが、ひとつずつリストアップされて読み上げられていく。

熱くなった頭と心を冷ましてくれるのは、DaveがSolangeと共作し、R&BシンガーのDawn Richardとデュエットしたレゲエ風の「Cool Your Heart」だ。間奏ではDawnがAmberのあの特徴的なヴォーカル回しを真似してみせるが、“誰か他の人を頼るのは間違ってるって気づいたんだ”とDaveが歌っているように、結局は誰もAmberの代わりにはならないのだということを、かえって思い知らされてしまうのだ。

そんなアルバムのラストを飾るのは、イントロのオルガンがProcol Harumの名曲「A Whiter Shade of Pale(青い影)」を思わせる「I See You」。時間が痛みを洗い流してくれたのだろうか、近年のKanyeのコラボレーターとして知られるElon Rutbergと共作したこの曲で、“君が僕の人生にいたことを誇りに思う”と歌い、“いつか別の恋人と共に進むのだろう/僕らが2人とも想像しなかった未来へ”と歌うDaveからは、もう迷いや怒りは感じられない。すべてを受け入れ、“芸術こそが、僕らの作った愛だったんだ”と言い放つ姿には、心を動かされる。

思えば、Amber Coffmanがバンドに加入して初めてのアルバム『Rise Above』の1曲目が、「What I See」というタイトルだった。続く『Bitte Orca』の「Useful Chamber」で、Daveは“She sees what no one sees(彼女は他の誰も見ないものを見てる)”と歌い、『Swing Lo Magellan』では“I can see what she seeing(彼女の見ているものが見える)”と歌った。彼は彼女と同じものを見ていたけれど、彼女のことを見ようとはしていなかったのかもしれない。けれどもそのことに気づいた時には、きっともう遅いのだ。

and now it's getting late
もう遅くなってしまったね
it's time to say
そろそろ言わなくちゃ
the projection has faded away
そのプロジェクションは消えてしまった
and in its place, I see you
そしてその場所で、僕は君を見る
I can see you
君が見える

Daveはプロデューサーとして、年内にもリリースされるAmberのソロ・アルバムを手掛けているという。同じ景色を見ることはできなくなってしまったけれど、そうすることによって初めて、彼は彼女のことを本当に見て、理解することができたのかもしれない。何かが始まって、終わったその場所で。
Posted by Monchicon
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