新作『b'lieve i'm goin down』を携えて、ついに待望の初来日を果たしたフィラデルフィアのロッカーKurt Vile。

先日の朝霧JAMに続いて、集まった観客をFreak Trainに乗せて連れ去った東京公演の直前に、LIQUIDROOMで話を聞いてきました。
「Neil Youngのマネージャーから連絡が来たぞ!」

──弟のPaulはあなたのツアー先でゼリーを売って生活をしているそうですが、今日は来てないんですか?

いないよ。アイツには日本にはるばる来るほどの価値はないからね(笑)。

──(笑)今回のツアー・バンドのメンバーを紹介してもらえますか?

ここ最近はずっと固定されてるね。Kyle Spenceが一番新しいドラマーだけど、もう2年以上一緒にやってるから。彼はHarvey Milkっていうバンドのメンバーで、Dinosaur Jr.とか、J Mascis+Fogで叩いてたこともある。エンジニアでもあって、僕の新しいアルバムでも何曲か録音してくれたんだ。Rob Laaksoはマルチ・インストゥルメンタリストで、ずっと昔にSwirliesでプレイしてたこともあるけど、電子楽器の魔術師だね。彼もエンジニアで、新作ではKyleよりたくさんの曲を録音してくれたんだ。最後がJesse Trbovichなんだけど、他のメンバーと違って彼は僕と同じフィラデルフィア出身で、僕のバンド、Violatorsのオリジナル・メンバーの一人だね。彼とは2006年頃からやってるけど、当時は僕と彼と、War on DrugsのAdam Granducielがメンバーだったんだ。

──Dinosaur Jr.のJ Mascisの名前が出たので聞きたいんですけど、あなたは先日リリースされたGrateful Deadのトリビュート・アルバム『Day of the Dead』で「Box of Rain」をカバーしてましたよね? そこにJ Mascisもギターで参加していましたが、あれはどういった経緯で実現したんでしょう?

あれは実際に、今のドラマーのKyle Spenceと初めて一緒に録音した曲だったんだ。かなり前、『Smoke Ring For My Halo』のツアーをしてた頃にThe Nationalから参加しないかって頼まれて、「Box of Rain」をやりたいって言ったんだけど、The Nationalもあの曲をやりたかったみたいで、曲を譲ってもらうことを条件に、コンピに参加することになったんだ(笑)。「Box of Rain」は『American Beauty』の1曲目だし、名曲だから、参加できて良かったよ。ニューヨークで録音したんだけど、たまたまTV出演する予定があってJ Mascisもニューヨークに来てたから、一緒にやることになったんだ。

──そういえばDinosaur Jr.の新作のプロモーション映像にあなたが出演してましたけど、確かテーブルの上にDean Martinの『Dino』っていう伝記が置いてあって…。

『Dino』? そうそう、あれは僕の好きな作家が書いた本で、これから読もうと思ってたんだ。ニック・トーシュっていうんだけど、音楽と南部ゴシックをミックスさせていて、音楽ライター界のコーマック・マッカーシーって感じだね。最初に読んだ『Hellfire』っていうJerry Lee Lewisの伝記が素晴らしかった。次に読んだ『Country: The Twisted Roots of Rock 'n' Roll』っていうアメリカのルーツ・ミュージックについての本が、僕のお気に入りだね。今は『Unsung Heroes of Rock n' Roll』っていう本を読んでいて、これが終わったら次は『Dino』を読もうと思ってるんだ。



──あれはDinosaur Jr.の“Dino”とかけてたんですか?

そうそう、いろいろ小道具を仕込んでおいたんだ(笑)。娘のDelphineにトランペットを吹いてもらったりね。

──子育てはどうですか?

楽しいよ。娘が2人いて、ビデオに出てたのは下の子なんだけど、3歳になったばかりで、上の子は6歳。いやゴメン、6歳と4歳だった(笑)。下の子は癇癪持ちで、父親がこういう生活をしてるから落ち着かないところもあるけど、彼女のほうが僕に似てるかな。音楽が好きなところもね。

──変わった名前ですけど、由来はあるんですか?

どっちも僕の奥さんのSusanneが考えたんだ。上の子は“Awilda”って言って、名前の両側に“A”がある変わった名前なんだけど、奥さんの友達のミドル・ネームで、プエルトルコ系の由来があるみたい。




──最近Wilcoと一緒にライヴしてましたが、彼らも『Day of the Dead』に参加してましたよね? 他の参加アーティストの曲で、気に入ったカバーはありましたか?

……実はまだ聴いてないんだ(笑)。今言われたから、Wilcoの曲だけは聴いてみようと思うけど(笑)。すごく大勢のアーティストが参加した、意義のある企画だったと思うし、そこに自分が参加できたことは光栄なんだけど、The Nationalが全体をミックスしたことによって、結果的にインディー・ロックのボックス・セットみたいになっちゃったんじゃないかって気がしていて。それはそれでクールなんだけど、僕はあまりモダンな音楽は聴かないから(笑)。もちろんWilcoの『Schmilco』は買って聴いてるし、あの辺のバンドのことはチェックしてるんだけどね。

──あのコンピの中で1曲だけ聴くなら、Bela Fleckというバンジョー奏者の「Help on the Way」をオススメします。

ああ!絶対チェックするよ。彼はモダンなブルーグラス…“ニュー・グラス”なんて呼ばれてるけど、僕も父親の影響でブルーグラスは聴いていたからね。そうやって名前が挙がっただけでも聴いてみたいと思うから、別に聴くのを拒んでるわけじゃないんだ(笑)。

──なぜこの曲をオススメするかというと、以前The Nationalにインタビューした時に、彼らがカバーしたいと言っていたGrateful Deadの曲が2曲あって、それが「Box of Rain」と「Help on the Way」だったからなんです(笑)。

なるほど(笑)。でもあのコンピに参加させてもらえたのは本当にありがたかったんだ。Grateful Deadは好きだったけど、全曲知ってるわけではなかったから、自分にとって思い入れのある曲ができて嬉しかったよ。

──Wilcoの新作についてはどう思いました?

ライヴを一緒にやったのはアルバムが出る前だったんだけど、前作の『Star Wars』がすごく短いアルバムだったから、新作がリリースされるって知った時も、「次のアルバムは長いの?」って聞いたんだ。そうしたら「次も短いよ」って(笑)。だから、短い間隔でアルバムを出していくっていうのが、最近の彼らのスタンスなのかなって思ったんだ。僕の場合はのめりこんで行くうちに大作になってしまうから、想像できないけどね。『Yankee Hotel Foxtrot』なんかは大作だったけど、彼らって世の中の流れにハマっている時とそうでない時があって、今はハマっているような気がする。単に僕の好みに合うことをやってるから、耳に入ってきやすいだけかもしれないけど(笑)。

──あなたも2年ごとにアルバムをリリースしてますが、そろそろ新作も作っていたりするんですか?

少し録音したんだけど、思った通りこの夏はタイトなスケジュールだったからあまり進まなかったし、旅先で何かするよりは、スタジオに入って落ちついて制作したいと思ってるんだ。アルバムが来年になるか、次の年の頭になるかわからないけど、その間にEPを2枚ぐらい出したりするかもしれないね。これだけ何枚もアルバムをリリースしていると、2年間が普通の人の1年ぐらいに感じられるんだ。しかもアルバムって、完成してからリリースされるまで半年ぐらいかかったりするしね。ソロのツアーもやりたいし…録音したけど棚の上に置きっぱなしの曲も結構あるから、そういうのをEPで出したりしたいかな。

──その棚の上の曲の中から、1曲だけでもタイトルを教えてくれませんか?(笑)

「East Coast Blues」って曲があって、それは次のEPに入るかもしれないね。次のアルバム用の曲もあるけど…それはまだ教えられない(笑)。

──わかりました(笑)。そういえば、Mazzy StarのHope Sandovalの新作にも参加してるんですよね? 

単純に素晴らしかった。有名なElliot Robertsではないんだけど、Neil YoungのマネージャーのFrankっていう人がいて、彼が僕のマネージャーのRennieに連絡を取ってきたんだ。僕らはずっとNeil Youngを追っかけてたから、「Neil Youngのマネージャーから連絡が来たぞ!」「マジで?」って感じだったんだけど、話を聞いたら「僕はHope Sandovalのマネージャーでもあるんだけど、彼女の曲を歌ってほしいんだ」って(笑)。だけど僕はMazzy Starを聴いて育ったからHope Sandovalは好きだったし、My Bloody ValentineのColmがドラムを叩いているからね。去年の10月にアルバムの最初のツアーでサンフランシスコに行った時に、バークレーにあるFantasy Recordsで録音したんだけど、随分前のことに感じるね。僕の声は彼女の声ほど良くないけど、コール&レスポンスみたいな感じで、面白いサウンドになってると思うよ。



──最後にひとつだけ、質問というかリクエストなんですが、「Peeping Tomboy」という曲が好きなので、ライヴでやってくれませんか?

今夜? わかった、覚えておくよ!(※結局やってくれました)