死者は語る

Bon IverことJustin Vernonが影響を公言し、新作『22, a Million』を捧げているシンガー・ソングライター、Richard Buckner。そんな彼がエドガー・リー・マスターズの『スプーン・リバー詩集』に曲をつけた2000年のアルバム『The Hill』が、詩集の刊行100周年を記念して、昨年Mergeから再発された。
1996年、Calexicoのメンバーとアルバム『Devotion + Doubt』を録音するため、アリゾナ州のトゥーソンへ向かう途中だったRichard Bucknerは、モハヴェ砂漠のそばのモーテルにギターと4トラック・レコーダー、そして『スプーン・リバー詩集』だけを持ち込んで泊まり込んでいる。その際、詩集の数篇に曲をつけて吹き込んだまま忘れられていたカセットが4年後に発見され、Thrill Jockey傘下のOvercoatからリリースされたのが本作というわけだ。

1915年に刊行され、詩集としてはアメリカで初めてのベストセラーを記録した『スプーン・リバー詩集』は、スプーン・リバーというイリノイ州の架空の町を舞台に、「丘(The Hill)」と呼ばれる共同墓地に眠る、244人の死者たちの回想録という形式を取っている。Richard Bucknerの『The Hill』はその中から9篇を抜粋したものだが、妻の不倫相手のエルマー・カーに殺されたトム・メリットの告白に始まり、“死には愛そのものと似たところがある”と歌われる「ウィリアムとエミリー」に至るまで、様々な人間関係が赤裸々に語られ、文字通り“墓が暴かれていく”過程がスリリングだ。

一時はメジャーと契約し、1998年にリリースされた『Since』では、John McEntireDavid GrubbsYo La TengoのDave Schrammらをバックに、リッチなサウンドを奏でていたBuckner。しかしここで聴ける剥き出しの演奏こそが、彼の真骨頂ではないだろうか。全18曲がワントラックで収録されており、時間にして34分という短さにも関わらず、Joey Burnsの弓弾きベースとJohn Convertinoのドラム、そしてBucknerのギターだけをバックに歌われるスプーン・リバーの愛憎劇は、鬼気迫るものがある。そして本作で原点を見つめ直したことが、Justin Vernonもフェイヴァリットに挙げる2002年の『Impasse』や、Merge移籍後の作品へと繋がっていくのだ。

本作のアートワークはRichardの当時の妻だったPenny Jo Bucknerによるものだが、そんな2人の関係も、ほどなくして終わりを迎えている。彼らの束の間の幸せな日々もまた、244人の死者たちと共に、スプーン・リバーで眠っているのだろうか。

 エラ、ケイト、マッグ、リッジー、イーディス
 心のやさしい女、実直な女、声高に話す女、気位の高い女、幸せな女
 あの女たちは今どこにいるのか?
 みんな、みんな、この丘で眠っている(「丘」)

あなたもぜひ一度、この「丘」を訪れてみてほしい。



Me and Richard Buckner ! #grampage

@blobtowerが投稿した写真 -