Bon IverことJustin Vernonが影響を公言し、新作『22, a Million』を捧げているシンガー・ソングライター、Richard Buckner。そんな彼がエドガー・リー・マスターズの『スプーン・リバー詩集』に曲をつけた2000年のアルバム『The Hill』が、詩集の刊行100周年を記念して、昨年Mergeから再発された。
1915年に刊行され、詩集としてはアメリカで初めてのベストセラーを記録した『スプーン・リバー詩集』は、スプーン・リバーというイリノイ州の架空の町を舞台に、「丘(The Hill)」と呼ばれる共同墓地に眠る、244人の死者たちの回想録という形式を取っている。Richard Bucknerの『The Hill』はその中から9篇を抜粋したものだが、妻の不倫相手のエルマー・カーに殺されたトム・メリットの告白に始まり、“死には愛そのものと似たところがある”と歌われる「ウィリアムとエミリー」に至るまで、様々な人間関係が赤裸々に語られ、文字通り“墓が暴かれていく”過程がスリリングだ。
一時はメジャーと契約し、1998年にリリースされた『Since』では、John McEntireやDavid Grubbs、Yo La TengoのDave Schrammらをバックに、リッチなサウンドを奏でていたBuckner。しかしここで聴ける剥き出しの演奏こそが、彼の真骨頂ではないだろうか。全18曲がワントラックで収録されており、時間にして34分という短さにも関わらず、Joey Burnsの弓弾きベースとJohn Convertinoのドラム、そしてBucknerのギターだけをバックに歌われるスプーン・リバーの愛憎劇は、鬼気迫るものがある。そして本作で原点を見つめ直したことが、Justin Vernonもフェイヴァリットに挙げる2002年の『Impasse』や、Merge移籍後の作品へと繋がっていくのだ。
本作のアートワークはRichardの当時の妻だったPenny Jo Bucknerによるものだが、そんな2人の関係も、ほどなくして終わりを迎えている。彼らの束の間の幸せな日々もまた、244人の死者たちと共に、スプーン・リバーで眠っているのだろうか。
エラ、ケイト、マッグ、リッジー、イーディス
心のやさしい女、実直な女、声高に話す女、気位の高い女、幸せな女
あの女たちは今どこにいるのか?
みんな、みんな、この丘で眠っている(「丘」)
あなたもぜひ一度、この「丘」を訪れてみてほしい。
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