評価:
Anti
(2016-05-20)

パーティーには早過ぎる

ジェレミーはその晩、ひどく酔っていた。

彼がシェリーの瞳に浮かぶ涙を見たら、驚いたことだろう。
彼女は部屋の隅に佇んで、床を見つめていた。
あいつ一体、今度は何をしたっていうんだ?
普段の僕はそんなに大胆じゃないけど、
今夜は彼女に、何があったのか尋ねようと思った。
少し気まずそうな彼女を見て理解して、僕は言った。
「君らがうまくいってることを祈ってるよ」

すると彼女は言った。
「あなたみたいな人ってはじめてよ」

僕は言いたいことを言う人間じゃないけど、
少し酔っていたから、ジェレミーをぶった切ったんだ。
それで僕は言った。
「君が彼をどう見てるか知らないけど、
 彼は君を落ち込ませてばかりみたいだね」

僕は飲み物をこぼしながら、
親友の仲を本気で裂こうとしていた。
彼女は落ちつかなくなり、酔っぱらいの演説が終わると、
僕は彼女の手を取っていた。

そして僕は言った。
「君みたいな人ってはじめてだ」

するとジェレミーが歩み寄ってきて、
驚いたことにシェリーは、
彼のほうに腕を回したんだ。

- Andy Shauf 「Quite Like You」


複数の登場人物のストーリーが同時に進行する群像劇を、同名の映画にあやかって“グランド・ホテル形式”と呼ぶそうだが、カナダのシンガー・ソングライター、Andy Shaufのサード・アルバムであり、Devendra BanhartやJoanna Newsomの作品で知られるNoah Georgesonがミックスを手掛けた本作『The Party』もまた、ある晩のパーティーに集まった人たちを描いた、グランド・ホテル形式の作品だと言えるだろう。

アルバムに登場するのは、パーティーにやってきたマジシャンや、妻を残して死ぬも成仏できずに嘆く幽霊のアレクサンダーといった、風変わりなキャラクターたち。しかし物語の軸となっているのは、主人公である“僕”とその親友のジェレミー、そして彼の恋人で、“僕”が秘かに想いを寄せるシェリーの三角関係だ。

パーティーの最中、酔っぱらったジェレミーと泣いているシェリーを見かけた主人公は、シェリーを励まそうと声をかける。シェリーに「あなたみたいな人ってはじめてよ」と言われてその気になった主人公は、勢い余ってジェレミーを罵り、シェリーの手を握るのだが、怖がった彼女は、ジェレミーと去ってしまうのだ。諦め切れない主人公は、「話がある」と言ってジェレミーを外に連れ出すが、「俺たちって親友だよな?」と言うことしかできず、気持ち悪がられる始末。

パーティーも終わりに近づき、ひとり残された主人公は、マーサという女の子と出会う。寄り添って踊りながら、マーサをシェリーの代わりにしようとしていることに気づいた彼はためらうが、「全部気のせいよ」という彼女の言葉にほだされ、彼女の瞳の中で踊る光を見つめながら、ようやく自分の居場所を見つけるのだった。

誰もが経験したことのある気まずいパーティーを、NilssonやTony Kosinecといった70年代のシンガー・ソングライターを思わせる、繊細な筆致で描き出した本作。Andy自身は「これはコンセプト・アルバムってわけじゃない」と語っているし、すべての曲が関連しているわけではないのかもしれない。それでも、アルバムというフォーマットには単なる曲の集まりを超えた何かが表現できるはずだと信じている人たちに、そして何よりも音楽を愛する人たちに、本作は希望を与えてくれるはずだ。