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Jim O'Rourke - Simple Songs
評価:
Drag City
(2015-05-19)

グッド・タイミング

前作『The Visitor』の余韻がきらびやかに舞うステレオ空間に、新しく聴こえてくる音とともに何者かの影が近づいてくる。陰影法でミラー・ボールが消えてゆく。これは西部劇の決闘の描写? なんて思っているうちに突然、馬に乗ったBuckingham Nicksに不意打ちされる。砂混じりの視界のなか、「Nice to see you once again (また会えて嬉しいよ)」の言葉が耳元をかすめる。

新譜『Simple Songs』はそんな風に始まる。ごく基本的な快楽への欲求に根ざしたと思われる、非常に複雑にアレンジされた曲の数々。蛍光深緑色のカーディガンを着ているのは誰? ピーター・フォーク? これは一体どんな音楽なんだろうか。陰影法ロック?
噂によると、オルークは過去6年にわたり東京で暮らしながら本作を断続的に制作していたらしい。今回はドアに鍵をかけなかったが、彼はまだリスナーを招き入れたわけじゃない。でもちょっと盗み聴きしていくのは自由だ。もう少し近くで聴いてみよう。くれぐれも彼を驚かさないように。一度引っ込んだら次は10年くらい姿を見せないかもしれない。

何時間も続くドローン・アルバム、フリーの即興、あるいは“シンプル”な曲であれ、オルークの作品には同じ美学が貫かれている。洗練されているが、冷たく無感情というほどではない。細部へのこだわりを追求している。彼によれば “シンプルであるかのように聴かせる”ということらしいが、どういうことなんだろうか。オルークからの唯一のヒントはツェッペリンの『Presence』だ。え?(笑)

従来のジャンルの枠組みに収まらないことで知られるオルークのプロデューサー、アレンジャー、ソングライターとしての批評的な立ち位置は他に類を見ない。彼の経歴をまとめたら本が1冊書けるだろう。まだ予習をしてない人は彼の名前をググればすぐに見つかる。どこまでも続く関連作品のリストが。

アルバムにはGenesis等の70年代プログレ・バンド(『The Lamb Lies down on Broadway』はオルークお気に入りの一枚)や多くの孤独なSSW(Lewis Furey、David Ackles、Rupert Holmes等)への傾倒、その時代のギター・スタイルの影響が色濃く顕れている。アレンジは見事ながら、詰め込みすぎていない。そして、このアルバムには歌が入っている。オルークの歌声は1973年頃のJack Nitzscheをたびたび彷彿とさせ、『Insignificance』で披露したSparksやSmog風とでも言うべきダークな語り調よりも胸に迫るものがある。

Jack Nitzsche - Lower California


オープニングの「Friends with Benefits」(ほとんどセフレという意味)は、寺山修司映画のサーカス・セットで彼のバンド“もう死んだ人たち”が、Sealの「Kiss from a Rose」をFleetwood Mac流と言えてしまいそうなアレンジでカバーしているみたいだ。ストリングスに乗せた、豪華でありながら透き通るかのように軽やかなアレンジは、ポップ・ソングというよりむしろ組曲のようでもある。

「That Weekend」のイントロはモンドリアンの絵画みたいにリズミカルに鼓動する。ひとつひとつの音、コード、楽曲を高みへと導くすべてが完全に機能している。遊び心に満ち複雑でありながら飾り気のないアレンジはまるで、Darius Milhaudの指揮のもとGentle Giantを従えて演奏するArnold Dreyblattと、Andy Prattの「Avenging Annie」の間で行ったり来たりする綱渡りのようだ。

「All Your Love」、「Half Life Crisis」や「End of the Road」(Aram Avakian監督映画のタイトルより)の曲名に表れているように、愛や死への恐怖と言ったテーマがアルバム全体を覆っている。「All Your Love」ではストリングスがツェッペリンの曲のアウトロのごとく最高潮に達し、Bill Fayの「Release is in the Eye」風の紙吹雪があまりにも陽気な葬列を祝う。

誰もが気にいるアルバムじゃない。無理に聴いてもらう必要もない。でもファンは夢中になると同時に心地よさを感じるだろう。『Eureka』好きの人より、石橋英子や『The Visitor』好き向けかもしれない。そしてChristian Muthspiel and Steve Swallowが昨年リリースしたアルバムよりずっと魅力に溢れている(笑)。これは保証する。でも、それよりもまずオルークを信じてみてはどうだろうか。伊達に長い時間をかけたわけではないことを。

オルークたち、グッド・タイミングだね!

by ダニエル・クオン

翻訳:千勝薪人
Posted by Daniel Kwon
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