時々は座って、時々はぼんやり考える――女版Stephen Malkmus、いや女版奥田民生とでもいった風情で歌うオーストラリアのシンガー・ソングライター、Courtney Barnett。

“スラッカー(怠け者)”呼ばわりされることも多い彼女だが、別にサボっているわけではない。むしろその逆で、世界中のメディアから絶賛されたファースト・アルバム『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』をリリースした後は、ヨーロッパをツアーで忙しなく飛び回っていたのだ。

というわけで、本国オーストラリアへの凱旋帰国を前に一息ついた彼女から、2ヶ月前に出したメール・インタビューの回答がようやく到着。とぼけてる顔で実は頑張っているコートニーが、鋭い社会風刺も込められたアルバムについて語ってくれた。
エレベーターはどこにも行けなくて
みんなポケットにお金を入れたまま死んでいく


――アルバムの1曲目は「Elevator Operator」というタイトルですが、ByrdsのメンバーだったGene Clarkのファースト・アルバムにも、同じタイトルの曲が入っていましたよね。実際あなたの音楽はサイケデリック期のByrdsに通じるものがあると思うのですが、彼らの音楽やポルカ・ドット・シャツの、どんなところに惹かれるのでしょう?

いえ、そこまで意識していたわけじゃないの。わたしはただ自分が聴いたいろんな音楽の、すぐに忘れてしまうような瞬間にインスパイアされてるだけで。Byrdsのジャングリーなギターは好きよ。ポルカ・ドット柄のシャツは、Paul Kellyが昔のインタビューで着ていたのを見てから買ったの。時々手垢がついているように感じたり、“新しいものなんて何もない”と思うこともあるけど、音楽には選択肢が無限にある。だからわたしはたぶん自分で気づくこともなく、ぼんやりと聴いた音楽からインスピレーションを拾い上げてるんだと思う。試してみたいことが多すぎて、自分自身をひとつのアイデアやサウンドに閉じ込めておけないの。


(L) Courtney Barnett (R) Paul Kelly

――その「Elevator Operator」ですが、労働者階級の青年と上流階級の中年女性が1台のエレベーターの中で出会うという歌詞が、とても象徴的です。階級間の格差というのも、あなたの関心事のひとつなのでしょうか?

ええ、それは常に意識せざるを得ないものね。わたしたちはみんなお金に縛られている。エレベーターはどこにも行けなくて、みんなポケットにお金を入れたまま死んでいくの。

――「Dead Fox」や「Kim's Caravan」といった曲に、あなたはオーストラリアという国についてのポリティカルなメッセージを込めているのでしょうか? それとも「Kim's Caravan」の歌詞に出てくるように“あなたの欲しいものをわたしから取ればいい”のでしょうか?

ある意味ではオーストラリアのことだし、ある意味では世界全体について。わたしは時々自分たちの身勝手さにうんざりして、自分の無力感を物語の中に織り込もうとしているの。その果てしなさには気が遠くなるぐらいよ。“あなたが欲しいものをわたしから取ればいい”っていうフレーズにはたくさんの意味が込められていて…文字通り“この文章は自由に解釈して”って意味でもあるし、芸術は鑑賞する人自身を反映したもので、わたしたちは他人が提供したものの上に、自分の感情を投影しているってことかもしれないわね。

Courtney Barnett - Kim's Caravan


――社会の格差だけでなく、あなたの曲には恋人同士のすれ違いもよく描かれています。恋愛の楽しさよりも、難しさを歌うことが多いのは何故ですか?

わたしは幸せ、悲しみ、不満、怒り、喜びとか、自分の経験について歌っているの。時として困難な瞬間のほうが曲の題材になりやすいのは、その背後にある強い感情のせいでもあるし、わたしが問題に向き合ったり、理解したりするために曲作りをしているからだと思う。そこで歌われている関係は恋人だけじゃなくて、友人、仲間たち、そして知らない人たちにも及んでいるのよ。

――アルバムの曲やキャラクターで、あなたの実生活に基づいている部分はどのぐらいありますか?

曲のほとんどは実生活に基づいているわ。「Elevator Operator」はある友人についての曲だけど、キャラクターや場所に、自分自身の経験も重ねているの。あのみすぼらしい、将来の希望もない若者が高飛車な中年の慈善活動家に見下されている状況は、わたしにとっても無関係じゃない。ほかの曲はわたしのやってきたことを歌っているから、わたしの友達や会った人々、わたしが通った道の名前が出てくるのよ。

わたしの曲は、高校2年の時に
全然やらなかった社会学の課題の延長ね


――ピザの宅配やバーテンダーといったバイトの経験が、あなたの洞察力を深めた部分もあるのでしょうか?

間違いないわね。わたしがやってきたどんな仕事も、自分の周りの奇妙な世界に対する洞察力を与えてくれたと思う。わたしは販売とか接客みたいにありふれた仕事をたくさんしてきたし、それは人々がどんな風に働くか、人によってどれだけ行動が違うかを常に学ぶ経験でもあったの。わたしの曲は、高校2年の時にわたしが全然やらなかった社会学の課題の延長みたいなものね。毎日道をぶらついてるだけだって、人生について洞察することができるわ。

――アルバムのユニークなギター・サウンドはどのように生み出されたのですか?

アルバムのクレイジーなギターのほとんどはDanが弾いているのよ。レスリー・スピーカーや変なエフェクト・ペダルを通したり、音をめちゃくちゃにできるものなら何でも使ったわ。水の中にいるみたいなジョージ・ハリスン風の逆回転ギターも隠されている。鋭いギター・パートもたくさんあるわ。わたしはテクニカルな面についてはよく知らないから、他のものにあまり頼らずに、ただ上手く弾こうって思ったの。C.W. Stonekingがギターをアンプに直接繋いで弾き倒すみたいにね。

C.W. Stoneking - Jungle Lullaby



Courtney Barnett - The Double EP: A Sea of Split Peas


――「Dead Fox」には“ネズミのジャクソン・ポロック”というフレーズも出てきますが、あなたはタスマニアのアート・スクールに通っていたそうですね。『The Double EP』のカバー・アートから察するに葛飾北斎もお好きだと思いますが、他に好きな画家はいますか?

もちろん。「Great Wave(神奈川沖浪裏)」は、わたしがアート・スクールで最初に見た作品のひとつよ。ゴッホの書簡集を何ヶ月か前に読んで、絵の背後にある彼の思考について洞察できたのは良かったわ。最近David Shrigleyの展覧会に行ったんだけど、彼って可笑しいわね。


『ゴッホの手紙』(岩波文庫)


――アルバムに参加しているミュージシャンについても教えてください。他にあなたの好きなオーストラリアのバンドやミュージシャンはいますか?

アルバムに参加しているのはベースのBones Sloaneと、ドラムのDave Mudie。わたしたちはここ数年一緒に演奏しているけど、その前はImmigrant Unionっていうカントリー・バンドをやっていたの。4人目の参加ミュージシャンはギターのDan Luscombeで、彼はThe Dronesっていうバンドもやっていて、ここ数年ツアーやレコーディングに参加したり、しなかったりしてるわ。わたしの好きなオーストラリアのバンドは、Dick Diver、King Gizzard and the Lizard Wizard、Teeth and Tongue、Darren Halon、Fraser A Gormanとかね…。

The Drones - Jezebel


――ミュージック・ビデオもいつもユニークですが、あなたもアイデアを出しているのですか?

ビデオのアイデアを考えるのは大好きよ。わたしが「Pedestrian at Best」や「Avant Gardener」のアイデアを思いついて、それを監督のCharlie Fordと一緒に作り上げたの。そのプロセスはすごく楽しくて、脳味噌の違う部分を使う感じね。

Courtney Barnett - Pedestrian at Best




Courtney Barnett - Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit