2013年の前作『Once I Was An Eagle』で、20代前半にして3度目のマーキュリー・プライズにノミネートされたイギリスの女性シンガー・ソングライター、Laura Marling。アルバムのリリース後にアメリカのロサンゼルスに移住した彼女は、そこで新作をレコーディングしたものの、内容に納得いかず破棄してしまう。

しばらく音楽を離れ、アメリカ中をひとりで旅することになった彼女がその経験を綴ったのが、最新作となる『Short Movie』だ。「たまたま手元にあったから使った」というエレクトリック・ギターが活躍するこのアルバムの背景について、現在はイギリスに戻っているというLauraに聞いてみた。
“毎日晴れだとそれに感謝しなくなってしまう”

――最近髪の毛を短くしましたね。

そうなの。かなり短いのよ。

――以前も髪の色をブルネットにしたりしていましたよね? 

してたわ。一度ブルネットにして、今また本来の髪の色のブロンドに戻したんだけど、今度は短く切っちゃった(笑)。

――あなたは新作をリリースするにあたって、「この8年間、2週間以上同じ場所にいたことがないことに気づいた」と話していましたが、髪型をよく変えるのも、そういう移り気な性格の現れなのでしょうか?

あれはツアーに出てたからよ。当時住んでたのはロンドンだったけど、常にツアーに出てたから、2週間以上ロンドンにいたことがなかったの。そういう意味で言ったのよ。

――なるほど。そうだったんですね。じゃあそれは、あなたの選択ではなくて状況がそうだったと。

そうそう。

――それ以外はどうですか? 髪型も含め、よく何かを変えてみたりはするのでしょうか?

髪型とかファッションはいろいろ変えたり試したりするわね。結構行動に勢いがある方だと思う。新しい髪型も気に入ってくれるといいんだけど。

――前作のレコーディングの後でLAに引っ越したそうですが、最近またイギリスに戻ってきたと聞きました。そもそもどうしてLAに行って、またすぐ戻ってくる ことになったのでしょう? あなたの好きなNeil YoungやJoni Mitchellともゆかりの深いLAでの生活は、あまり肌に合わなかったのでしょうか?

LAには2年半住んでた。大好きな場所ではあったのよ。でも、ロンドンがすっごく恋しかったの。だから戻った。迷ったけど、やっぱりLAに住むよりロンドンに住む方が楽だわね。こっちに戻ってくるっていうほうがより簡単な選択肢だったの。

――特にロンドンの何が恋しかったですか?

歩いて生活すること(笑)。LAって車ばかりの生活でしょ? あとは…やっぱり家族や友達ね。LAには楽しいことがいっぱいあるけど、家族や友達に置き換えられるものはなかったから。

――またいつかLAに戻りたいとは?

ノーね。

――ノーなんですね(笑)。

また行きたいとは思うわよ。でも、住みはしないかな。天気もすごくいいけど、毎日が晴れだとそれに感謝しなくなってしまうし。



“ホドロフスキーの本に影響を受けたの”

――アメリカではアレハンドロ・ホドロフスキーの映画や心霊スポット巡り、タロット占いといったスピリチュアルなものにハマっていたそうですが、そういったカルチャーのどんなところに惹かれますか?

ただ、その幻想的なところが好きなのよ。そういう空想に満ちたものに誰かが人生を捧げてるっていうアイディアが好きなの。カリフォルニアにはそういうスピリチュアルな場所が沢山ある。そういった場所やものに人間が身を預けてるっていうのが素晴らしいと思う。すごく面白いと思うわ。

――本作はここ数作のプロデューサーだったEthan Johnsではなく、あなたとツアー・ドラマーのMatt Ingramとの共同プロデュースとのことですが、これはどういった理由だったのでしょう? 

Mattは長く私と活動してるから、私の音楽をすごくよく理解してるっていうのが一つ。今回はもっと自分でプロダクションをやりたくて…っていうのは、すごくシンプルな作品を作りたかったのよね。だからプロダクションもシンプルにしたかったの。だから今回は一人で出来るかなって。Ethanは、もちろん常に素晴らしい仕事をしてくれる。けど今回は自分で出来ると思ったの。

――実際の作業はどのように分担したのですか?

私がレコードのアレンジ全般を担当して、Mattはエンジニアでもあるからベストなサウンドを作り出すのが彼の作業だった。私が人の監督をして、彼はサウンドの監督をするって感じかな。すごく上手くいったの。私はサウンド・エンジニアリングに関してはさっぱりだから。彼はその知識が豊富だから、私に足りない部分を埋めてくれたの。すごく助けになったわ。

――前作のタイトルは『Once I Was An Eagle』でしたが、本作の1曲目であなたは馬になっていますよね。あなた自身は、自分がどんな動物に近いと思いますか? また、それはなぜですか?

ははは(笑)。それは常に変わると思う。確かにこのアルバムには馬が沢山出てくるわね。カリフォルニアには沢山野生の馬がいるし、前回のレコーディングの時はイギリスにいて、イギリスには鷲が沢山いるの。だから今のところ馬だけど…(笑)。自分が何に近いかはいつも変わると思うわ(笑)。

――じゃあ、今日の自分はどの動物に近いと思います?(笑)

今日?(笑)まだわからない(笑)。

――ははは(笑)。では、一番好きな動物は?

それもわかんない(笑)。言われるまで考えたことなかったわ(笑)。今のところ、やっぱり野生の馬かな(笑)。



――ありがとうございます(笑)。では次の質問に。あなたの書く曲は自伝的とまでは言わないまでも、自身の経験に基づいていることが多いと思います。「Easy」で歌われているカリフォルニアのジョシュア・ツリーや、「How Can I」で歌われているコロラドのテルユライドでの出来事について教えてください。ではまず「Easy」に関してから。

あの曲は、私が妹と一緒にカリフォルニアを回ったロード・トリップ(車の長旅)についての曲なの。ジョシュア・ツリーって、まるでエイリアンがいるんじゃないかってくらい本当に奇想天外な場所で、丘にある家に泊まってたんだけど、周りには本当に何もない。そこで、人生で感じたことのないちょっと変わったフィーリングを感じて…すごく美しい所よ。息を飲むような美しさなの。

――「How Can I」はどうですか?

またそれとは違う時期にコロラドへ行ったんだけど、コロラドはすごくワイルドな場所。それをすごく感じたわ。山もすごいし、かんかん照りなのにものすごく寒い。あの渓谷もすごく非現実的で綺麗だった。辿り着くのも大変なのよね。

――カリフォルニアで、他にそういった刺激を受けた場所はありましたか?

私のお気に入りの場所は、マウント・シャスタっていう街。カリフォルニアの北部にあって、オレゴンの境界線にある街なんだけど、すっごく綺麗なの。二つの山の間にあるんだけど、あの街は美しかったわ。

――前作の「Master Hunter」にはBob Dylanの「It Ain't Me Babe」という曲の名前が出てきましたが、本作の「Warrior」にはAmericaというバンドの「A Horse With No Name」という曲名が出てきます。これらは意図的な引用なのでしょうか? 「Don't Let Me Bring You Down」もNeil Youngの「Don't Let It Bring You Down」という曲名を連想させますが、そういった曲のフレーズを引用することで、曲にどのような効果が生まれると思いますか?

その曲の内容を曲に取り入れようとしているわけではないの。私の人生や経験の中でそういった曲や本が出てくるから、それが文字として曲に出てくるの。他の人の曲や本を通じて何かを感じたり、経験したりするから。そういうのを曲の途中に挟み込むのって好きなの。現実離れしたフィーリングが生まれるというか。だからやるのよ。

――そういった引用は、歌詞を書くときに自然と出てくるんですか?

そうね。私の頭の貯蔵庫の中にあって、参照として出て来るの。



――「Gurdjueff's Daughter」はアルバムの中でも好きな曲のひとつなのですが、これは思想家のゲオルギイ・グルジエフに影響を受けたものなのでしょうか?

それはゲオルギイ・グルジエフじゃなくて、アレハンドロ・ホドロフスキーの本(『リアリティのダンス』)に影響を受けたものよ。彼が色々な面白い人たちについて書いている本があって、そのなかにゲオルギイ・グルジエフが出てくるから。ゲオルギイ・グルジエフの本はまだ読んだことないの。

――で、この曲の中ではその本に登場しているグルジエフの娘について歌っているんですよね?

そう。創造力とか倫理観とかそういったアイディアについてよ。


アレハンドロ・ホドロフスキー『リアリティのダンス』(文遊社)

“一人と孤独って違うのよ”

――この曲や「Strange」のようなハードなストロークの曲と、「Easy」のようなフィンガー・ピッキング・スタイルの曲、あなたはどちらが得意ですか? ギタリストとして影響を受けた人がいれば教えてください。

どっちかな…多分フィンガー・ピッキング・スタイルの方だと思う。本当はハードな方が上手くなりたいんだけど(笑)。

――ロックな感じの方が好きですか?(笑)

演奏していて楽しいのはヘヴィーな方ね。確実にそうだわ。

――一番影響を受けているギタリストは?

Neil YoungやJoni Mitchellを沢山聴いて育ったけど、60年代のファンクやLed Zeppelin、オールド・スクールなロックンロール・バンドも沢山聴いてきたの。

――最近はどんな音楽を聴いてます?

コンテンポラリー・ミュージックはよく聴くけど、Tame Impalaはお気に入りでよく聴いてるわ。あとはMarika Hackman。



――今回のアルバムはそういった音楽からも影響を?

ライティングの時は、なるだけ音楽を聴かないようにしているの。聴いちゃうと、簡単に自分の曲の中に入ってきてしまうから。でも影響は意識はしてなくても受けてると思う。

――なるほど。では音楽に限らず、このアルバムに関しては特に何にインスパイアされていると思いますか?

やっぱり、LAでの“外国人”としての経験ね。あの感覚は私にとって新しいものだった。あのフィーリングがこのアルバムの原動力になったと思うわ。

――日本語を話すのは日本人だけなので、私たちはどこへ行っても“外国人”なのですが、同じ言語を話す外国に行くのってどういう感じなのか、私たちには経験できないことなので、どんな感じなのか気になります(笑)。

そうよね。やっぱ文化が違うの。似ているようで、全然違う。イギリスとアメリカの一番の違いは物質的なものだと思うわ。この、小さい中に沢山のものが詰まっているイギリスと、果てしなく広がるアメリカ。それは当然感じるものも違うわよね。

――そういった文化の違いも、その国の音楽に影響すると思いますか?

絶対に影響していると思う。実際にアメリカの色々な場所にいってみて、こんな広い場所で生まれたらインスパイアのされかたも違うかもと思ったわ。

――先日『Turn』というTVドラマのために、「Bonny Portmore」というアイリッシュ・トラッドの曲をカバーしていましたよね。あなたの中では英国のトラッド・フォークとアメリカのシンガー・ソング ライター、どちらに強く影響を受けているのでしょう?

アメリカのシンガー・ソングライターに限ってはいないけど、私は確実にアメリカの音楽に影響を受けていると思う。私はイギリスよりもアメリカの音楽を主に聴いて育ったから。

――それはなぜ?

私の父親がギタリストなんだけど、彼が聴いてたギター・ミュージックがそうだったから。私も一緒にそれを聴いて育ったの。



――本作には“alone”というフレーズがよく出てくるのですが、あなた自身は今孤独ですか? 

今のところ、この部屋には私以外に人がいるから”alone”じゃないわ(笑)。

――このアルバムを書いていた時は”alone”でした?

”alone”だった。旅をしてたから。そうね。ずーっと色々な場所を回ってたもの。

――あなたにとって孤独とはどんなものなのでしょう?

面白い質問ね(笑)。”alone”の意味は、今は私にとって違うものになってると思う。アメリカに行く前と行く後で変わったの。アメリカで半年間ずっと一人で旅をしていたんだけど、もちろんalone=一人ではあったけど、lonely=孤独と感じたことは一度もなかった。でも逆にlonely=孤独を感じたのは街に帰ってきてからだったの。もちろん友達はいたけど、繋がりを感じることが出来なかった。街って、人と本当の繋がりを感じるのがすごく難しい場所なんだなと気づいたわ。一人と孤独って違うのよ。

“Jim Keltnerと一緒に作品を作ったんだけど
 すっごくつまらなかったから破棄したの”


――本作を録音する前に、アメリカで豪華ゲストを招いたアルバム1枚分の曲をレコーディングしていたそうですが、どんな人たちが参加していたのでしょう? また、どうしてそれを破棄したのですか?

すっごいつまらないアルバムを書いちゃって(笑)。LAで作ったんだけど、すっごく内容がつまらなかったの。びっくりするくらいつまらなかったのよ。だから破棄したの。

――そうだったんですか(笑)。アルバムとしてリリースするための作品を作ろうとはしてたんですよね?

ドラマーのレジェンド、Jim Keltnerと一緒に作品を作ったんだけど…彼は素晴らしかったのよ。でも曲自体が最悪だったの。せっかく作りはしたんだけどね…でも結果的に捨ててよかったわ。じゃないと、最悪のアルバムをリリースすることになってたわけだから(笑)。

――そのレコーディングからの曲は今後一切、どういう形でも聴くことはできないんですね?(笑)

ノーよ(笑)。ぜーんぶ消しちゃったから(笑)。

――本作のタイトルは『Short Movie』ですが、あなた自身が最近『Woman Driver』という短編映画に出演したことと何か関係あるのでしょうか? 

偶然そうなったの。『Short Movie』っていうアルバムを書いてる時に、ちょうどLAの友達の何人かがコンテストのために短編映画を作ってて。たまたま私が近くにいたから、協力することになっただけ。アルバムとは関係ないの。でも良い偶然だったわ。



――テキサスでの撮影はいかがでしたか?

すっごく楽しかった! 3日間だけだったんだけど、自分でもあそこまでエンジョイ出来るとは思ってなかったわね。

――また出演したいとは思います?

自ら出ようとはしないかも。演技の経験があるわけじゃないしね。

――わかりました。では、最後の質問です。もしもあなた自身が短編映画を監督するとしたら、主演は誰で、誰の曲を使いたいですか?

すっごく難しい質問ね(笑)。誰だろう…わかんない(笑)。多分…いや、やっぱり出てこないわ(笑)。こんなこと考えもしなかったから(笑)。

――(笑)では曲はどうでしょう? 誰の曲を使いたいですか?

うーん…最近聴いてた音楽があったのよ。誰だっけ…Bill Callahan! 彼の音楽は好き。すごくシネマティックだから映画にはいいと思うわ。



――なるほど。では、どんなストーリーにしたいですか?

超現実的な話かな。SFみたいな。


Laura Marling - Short Movie (Ribbon Music / Hostess)