昨年発売されたイギリスの音楽雑誌『WIRE』の8月号で、日本のミュージシャンによる15枚のアルバムを紹介して話題になったイギリスの12弦ギター奏者、James Blackshaw

SwansのMichael Giraのレーベル、Young Godからのリリースでも知られる彼の新作『Summoning Suns』は、そこで名前を挙げていた日本人シンガー・ソングライターの野田薫森は生きているに加えて、SlowdiveのドラマーのSimon Scott、Harry Nilssonの実娘であるAnnie Nilssonらが参加した、はじめてのヴォーカル・アルバムになっている。

そんなJamesが日本の音楽に詳しくなったきっかけや、ポップ・ミュージックの定義について話してくれた。
池袋のタワー・レコードをぶらついていたら
森は生きているのファースト・アルバムに出会った


――2006年に初来日していますが、日本の音楽に興味を持ったきっかけは?

はっきりと覚えてないな。2000年代の初期に、ロンドンのReckless Recordsというレコード屋で働いていた時、たくさんの実験音楽に興味を持ったんだ(今でもそうだけど)。それと、自分で小さなメール・オーダーのレコード屋をやって、非常に限られたレコードとCD-Rとテープの限定版を売っていたこともあって、その時にいろんな音楽を聴くようになったんだ。PSFレコードの灰野敬二や平野剛から、非常階段やもっと無名の大阪を拠点にしたAlchemyレコードのバンドとか、テニスコーツやマヘル・シャラル・ハシュ・バズとかね。

――今ではあらゆる日本の音楽に精通していますが、その中で野田薫さんと森は生きているを新作のレコーディングに誘ったのはなぜですか?

妻のアイが、薫さんの音楽を紹介してくれて、僕はすぐに気に入ったんだ。とてもきれいでキャッチーだし、音楽的に完成されていたからね。彼女たちは友達で、ロンドンのアングラ音楽の会場だったCafé Otoで一緒にボランティアをしていたんだ。「Towa No Yume」を作曲した時、僕は薫のことを考えた。彼女がこの曲を歌っている姿が想像出来たから、彼女に歌詞を書いて、僕と一緒に歌ってくれないかって訊いたら、ありがたいことにOKしてくれたんだよ。日本にいる時は、レコード屋に行って、試聴機で僕が知らない曲をランダムに聴くのが好きなんだ。特にJ-POPやアニメのテーマ曲以外の日本の音楽はイギリスで情報を得るのが大変だし、この方法で素晴らしい音楽を発見したよ。で、ある日、池袋のタワー・レコードをぶらついて、いろんな音楽を聴いていたら、森は生きているのファースト・アルバムに出会ったんだ。彼らのサウンドと複雑なアレンジメントに僕は完全に圧倒されたよ。僕が自分で作りたかった音楽とそっくりで、本当にビックリした。その後、僕が奥さんと一緒に薫のショーを観に行った時、ショーの後で、その日に僕が買ったCDを薫に見せたんだ。そしたら、「あら、森は生きているじゃない!彼らは最高よね。私、彼らを知ってるわよ!」って言ったんだ。考えてもみなかったよ(笑)。で、薫さんが僕のアルバムに貢献してくれることになったから、森は生きているのメンバーも、一緒に参加してくれるかどうか尋ねたのさ。

――本作に参加しているCharlotte GlassonやSlowdiveのドラマーのSimon Scott、Harry Nilssonの娘のAnnie Nilssonといったコラボレーターとはどのように知り合ったのですか?

Charlotteとは、数年前に会ったんだ。アルバム『The Glass Bead Game』の頃で、ライブで僕と演奏してくれるヴァイオリニストを探していた時、僕の友達が彼女を推薦してくれて、それ以来何度も彼女と演奏しているよ。彼女はいろんな楽器を信じられないくらい上手に演奏できる、素晴らしい直観力をもったミュージシャンで、羨ましくなっちゃうよ(笑)。Simonと僕は、そもそもお互いの音楽が好きで、最初はオンラインでチャットしていたんだ。しばらくの間、一緒に何かをやろうって話をしていて、ついに2013年の10月、パリで行った『Fantomas: Le Faux Magistrat』という僕のライブで実現したんだ。僕はHarry Nilssonの大ファンで、オンライン上でよく彼の音楽について書いたり、彼の曲や彼が演奏しているビデオにリンクを載せたりしているんだ。もし僕の記憶が正しければ、Harryの娘のAnnieが、僕が書いた事に対して何かを投稿してきて、僕はそれに驚いて彼女に連絡したんだけど、Annieと彼女の夫が僕の音楽の大ファンだと知って、もっと驚いたよ。もう昔の事だけど、それ以来連絡を取り合っていたんだ。アニーが(Nilssonのトリビュート・アルバムで)「Gotta Get Up」を歌っているのを聴いて、「Confetti」で歌ってくれないかって訊いたんだ。彼女の声は素晴らしいし、もっと歌ってほしいよ。



――ベーシック・トラックはSimonやCharlotteと一緒にレコーディングしたのですか? それともひとりで?

初日に全部のギターを録音して、2日目に全部のヴォーカル・トラックを録音して、3日目にSimonがスタジオに来て、4日目にCharlotteが参加したんだ。

――森は生きているが楽器を加えたことで、曲はどのように変化しましたか? 彼らに何かリクエストはしましたか?

森は生きているのメンバーには、彼らがやりたい曲でやりたいようにしてもらったんだ。ギター、ヴォーカル、ベース、ドラム、そして全てのストリングのパートは、その時点で全て録音してあったし、彼らにはすでに出来上がっていた部分に可能な限り自由に演奏してもらいたかったんだ。僕は彼らの演奏が大好きだし、彼らの感性を非常に信用しているからね。曲がそれほど進化したとは思わないけど、森は生きているが音を重ねてくれたおかげで、サウンドが色鮮やかになったよ。(「Confetti」でのピアノやシェイカーやペダル・スチールと、「Failure’s Flame」の最後にあるちょっとしたピアノ・パートとか)彼らが録音したパートは、アルバム全体の中で、僕が一番気に入っている所なんだ。アルバムはもう何度も聴いているけど、彼らのパートが入ったおかげで、今でも新鮮で面白く聴けるからね。

僕は浅川マキの大ファンで
彼女にはものすごいガッツと個性があると思う


――本作はあなたがはじめてヴォーカルを取ったアルバムですが、曲作りのプロセスは以前とどのように変わりましたか? たとえば、昔のインスト曲にヴォーカルを乗せることも可能なんでしょうか?

このアルバムは、頭の中でヴォーカルを考えながら書き始めたんだ。他にもっといい言葉が見つからないけど、ポップ・アルバムにするつもりだった。ギター・パートを書いてから、やっと歌詞を書き始めたけど、全体のプロセスを通じて、ヴォーカル・メロディーを想像していたんだ。通常、僕が作曲する方法とは、明らかに違っていたよ。
技術的には、昔のインストゥルメンタルの曲にヴォーカルを入れるのは可能だけど、そうすべきだとは思わないな(笑)。そういう曲は、全然違った角度から聴いてもらうために書いたんだし、純粋に‘サウンド’に重点を置いているからね。もし理にかなっているなら、僕が考えたいオーバートーンと繰り返しのパターンには、移動性があるんだ。そういった曲に歌詞を入れると、普通は気が散っちゃうんだよ。

――あなたの歌詞は幻想小説のようですし、「Averoigne」という曲のタイトルも、クラーク・アシュトン・スミスの小説に登場する架空の地方の名前でもあります。歌詞に影響を与えたものや、好きな作家はいますか?

僕の歌詞は、自分の考えと経験、いろんな事への興味、ファンタジー小説とその世界、そこに登場するキャラクターなどが、私的に入り混じっているんだと思う。全てが入り乱れて抽象的だから、大勢の人に歌詞の意味を理解してもらえるのかわからないけど、僕はそうやって作詞をするのが好きなんだ。非常に直接的で暗い文章がいくつかあるけど、僕にとっては面白い。僕のひねくれたユーモアのセンスだよ。僕は物心ついた頃から、ずっとファンタジー小説のファンなんだ。最初はホラーとSF小説にもっと興味があったけどね。クラーク・アシュトン・スミスや、H. P. ラヴクラフトや、ロバート・E・ハワードとか、ジャック・ヴァンス、フリッツ・リーバー、ハーラン・エリスン、ジェイムズ・ティプトリー・Jr.、ジーン・ウルフ、ジョージ・R・R・マーティンといった作家も大好きだよ。それから、『デモンズソウル』と『ダークソウル』というビデオゲームの大ファンでもある。僕の作詞に影響を与えたのは、ファンタジーだけじゃないんだ。

――好きなヴォーカリストはいますか?

Harry NilssonとElliott Smithの声には、儚さと人を感動させる資質があったし、(特にNilssonの声は)かなり広範囲に渡っていて、素晴らしい複合的パートのヴォーカル・ハーモニーを書く能力があった。あとは、Margo Guryanというシンガー・ソングライターの声が大好きなんだ。彼女が技術的に素晴らしいシンガーなのかどうかさえ僕にはわからないけど、彼女の曲は素晴らしいし、非常にピュアでハスキーな甘いサウンドの声なんだ。それから、僕は浅川マキの大ファンで、彼女にはものすごいガッツと個性があると思う。


Margo Guryan - Take A Picture

――あなたは以前ポップ・ミュージックを作りたいと話していましたし、本作は過去の作品と比べて聴きやすく、ソング・オリエンテッドな作品になっていますが、あなた自身は本作をポップ・ミュージックだと思いますか? あなたは“ポップ・ミュージック”をどのように定義しますか?

ほとんどの人が、『Summoning Suns』をポップ音楽として捉えるとは思わないね。“ポップ音楽”って、文字通りポピュラー音楽だし、そもそも変な言葉だよね。僕は、60年代のオーケストラ的でバロック様式のポップ音楽と、“よりポップな”音楽を作ったJackson BrowneやJudee Sillみたいな70年代のシンガー・ソングライターのことを思い描いていたんだと思う。それ以外に何と言っていいのかわからないな。

――アルバム・タイトルと、ジャケットのイラストにまつわるエピソードがあれば教えてください。

アルバム・タイトルとアートワークに関してはみんなで解釈してほしいんだけど、カバー・アートは、妻のアイ・ブラックショウが描いたんだ。ある日の朝、朝食をとっていた時、一緒に思い付いたコンセプトを元にね。そう、あれはパグ犬だよ!


James Blackshaw - Summoning Suns (Important / P-Vine)