評価:
Bella Union
(2011-06-28)

Flaming Roses

昔々、90年代初め頃のマッドチェスター全盛期にThe Charlatansが「Inspiral Roses」と形容されていたという話をどこかで読んだ記憶がある。単にInspiral Carpets同様にオルガン奏者がいて、マンチェの代表格とされるThe Stone Rosesと共通する音楽性を持っていた、という理由からなのだけど、その方法論を踏襲するなら、さしずめこのバンドは「Flaming Roses」といったところだろうか。

Stone Roses - Elephant Stone


The Flaming Lips - Race for the Prize



北アイルランド出身のこの新人5人組Cashier No.9のDavid Holmesプロデュースによるデビュー・アルバムは、The Stone Rosesがデビュー作で提示していた60年代サイケに80年代末のレイヴ・カルチャーのグルーヴを注入したような楽曲に、『Soft Bulletin』の頃のFlaming Lipsのシネマティックで浮遊感の強いDave Fridmann印のサイケデリアが混入したようなユニークなサウンドを奏でている。


Cashier No. 9 - Goldstar

*この曲に登場するお爺さんの正体を明かしてくれてる記事


いわば「英米サイケデリアの美味しいとこどり」ともいえるし、「The Lighthouse Led You Out」などモロにマンチェなビートを(おそらく意識的に)取り入れた曲もあるのだけれど、歌メロ作りの巧さや(Davidの功績大と思われる)プロダクションの安定感などによって、アイデアやインパクトだけに終わらない新人らしからぬクオリティを持った作品に仕上がっている。


Cashier No.9 - The Lighthouse Will Lead You Out (Rough Trade East, 6th July 2011)



ただ、逆に言えば新人ならではの勢いや破天荒さといった感覚はなく、デビュー作の時点で早くも綺麗にまとまりすぎているのでは、というやや欲張りな疑問も掲げたくなってしまう。例えば、さっきから勝手に引き合いに出しているThe Stone RosesもThe Flaming Lipsも、代表作とされるアルバムそのものは決して「完璧」な作品ではない。プロダクションの詰めの甘さや、個々の楽曲のバラつきなど、欠点のようなものを挙げていけばいくらでも指摘できる気がする。ただ、その“完璧ではない部分”をも補って余りある、言葉で形容しにくいタイプの「エネルギー」が全体に充満していて、そこに有無をいわせない説得力が生まれていたし、さらに当時の時代の空気感、流れ、タイミングみたいなものがガッチリと合致して、その結果、多くの人々を魅了したのだろう。


The Stone Roses (Documentary)



そういう観点からいうと、このバンドは(デビュー作を聴く限りでは)強引に人の魂を鷲掴みにしてかっさらっていくようなタイプではないのかもしれない(タイミング的にマンチェのブームが復活しているという兆しも特に感じられない)。どちらかといえば、良質なソングライティングに支えられた、折り目正しいサウンドを丁寧に編み上げていくタイプの人たちという印象だ。もちろん、それはそれでキチンと評価されるべきだし、Fleet Foxes, Beach Houseを英国に紹介したレーベルBella Unionからのリリースというのも一見意外なようで、誠実さという点で他のレーベル・メイトに通じるものがあり、納得がいく。

“AdoredされたがらないRoses”や“Prizeを求めないLips”がいたっていいじゃないか。そういう外に向かって無理矢理エネルギーを放出するよりも、職人気質ともいうべき丁寧な仕事人たちによって堅実に設計された架空の楽園の居心地の良さ、住み心地の良さに身を委ねてみるのも決して悪くないし、対等に評価されるべきだろう。The Charlatansが紆余曲折ありながらもいまだ現役で頑張っているのが何よりの証拠だ。


Cashier No. 9 - Lost At Sea



Cashier No.9 - Oh Pity (Rough Trade East, 6th July 2011)



The Charlatans - Sproston Green