Too Pureからデビューし、93年のファースト・アルバム『Quique』で後のエレクトロ・シューゲイズを予言するサウンドを鳴らした後に、Warpに移籍して95年にセカンド『Succour』をリリース。さらにAphex TwinことRichard D. JamesのレーベルRephlexから96年に『Ch-Vox』をリリースした後に活動停止してしまった伝説のバンド、Seefeel

そのまま歴史の影の中にひっそりと消えてしまったかと思いきや、2010年にオリジナル・メンバーのMark CliffordとSarah Peacockが、元BoredomsのドラマーE-daとShigeru Ishihara(DJ Scotch Egg)の日本人2人を迎えて突如再結成! そして、4曲入りの「Faults」EPに続いて、この度15年ぶりとなるまっさらな新作アルバム、その名も『Seefeel』が再びWarpからリリースされます(日本盤はBeatから2/5に)。かつてのアトモスフィアはそのままに、強力なリズム隊を得たことで具象性と抽象性とが拮抗する、不思議な熱を感じさせる力作となりました。

今年の4月初めに開催される「SonarSound Tokyo」にも出演する(初来日!)という彼ら。そんなわけで、バンドの中枢的存在であるMarkさんに、新作からデビュー当時の頃に至るまで、いろいろと話を聞いてみました。




“これがもともと俺が思い描いていた
Seefeelの姿のように思うんだ”



――まず、今回の再結成はどのような経緯だったのでしょうか? Sarahとはバンドの解散後もコンタクトを取っていたのですか?

Mark Clifford 再始動の計画がもともとあったというわけじゃないんだ。2007年に『Quique』がリイシューされて、サラと俺でインタビューをいくつか受ける機会があったんだけど、その時にまた音楽を作ろうかって話をしてね。でもその時点ではまだアイディアを交換したくらいで、そこまで本気でもなかった。その後「Warp20」(*Warpの20周年を記念するイベント)の時に、パリとロンドンでライヴをしてほしいって依頼されたんだ。それで「じゃあやろう」ってことになった。新しいメンバーと一緒にね。実は俺たちは解散したと正式に発表したことはないんだ。ただ音楽を作ることをストップさせただけ。俺たちは常に「何か新しいアイディアが見つかれば新作を出す」って言い続けてきた。それにだいぶ時間がかかってしまったというだけだよ(笑)。

――E-daとShigeru Ishiharaの二人の日本人が加入したのはどのようないきさつだったのでしょう?

M 彼らは二人とも、俺と同じくブライトンに住んでいるんだ。E-daとは数年前に知り合って、遊びでジャムしたり、レコーディングしたりするようになった。だから「Warp20」出演のオファーをもらったとき、E-daに参加してもらおうと考えたのはすごく自然なことだったんだ。ShigeはE-daを通して知り合ったんだよ。ShigeのことはDJ Scotch Eggとしてしか知らなかったから、ベースを演奏できるって思ってなくて、彼が「参加したい」ってやってきたときは、正直どうなるかわからなかったんだけど、リハーサルを見て「素晴らしい」って思ったんだ。だからわりとスムーズにすべてが進んでいったね。彼らの音楽はもちろんもともと知っていたよ。E-daがBoredomsにいたことは最初は知らなかったけどね。DJ Scotch Eggのライヴは2度見たことがあって、家で好んで聴くタイプの音楽ではないけど、見ていてすごく楽しめるライヴだと感じた。Boredomsは、数枚アルバムを持っている程度だけど、もちろん知っていたよ。

――今回の新作、生演奏によるドラムとベースといった新しい要素が加わっていることで、Seefeelのこれまでのどのアルバムとも違うサウンドになっていることに驚き、興奮しました。あなた自身は今回のアルバムについてどう思いますか?

M これまでで最高の作品だと感じている。これがもともと俺が思い描いていたSeefeelの姿のように思うんだ。スタジオでのレコーディング作業も重要だけど、俺たちは常にライヴ・バンドでありたいって思ってきた。そして今は、これまでで一番ライヴ・バンドとしての要素が強いと感じているんだ。より自由と言うか。これまでのライヴでは、すべてのトラックを同じように演奏していた。バックトラックの存在があったから、どうしてもそうせざるを得なかったんだ。だけど今はより即興の要素を入れられるし、ライヴの中により自由なスペースを残せるんだ。

――レコーディングはどのようなプロセスで行われたのですか? かつてのSeefeelでは「ソングライティングとレコーディングは同時におこなっていた」という発言を読んだのですが、それは今回も同じだったのでしょうか?

M 今回は以前より即興の要素を入れることができたと思う。いろんなアイディアを試しながらね。そういう違いはあった。だけどこれまでもそうだったように、俺はギターやピアノを引きながら家で作曲するようなタイプじゃないんだ。あくまでもベースはサウンドにある。きっかけは何だっていいんだ。リズム、ベース、ヴォーカル、なんだっていい。確かに典型的な作曲方法ではないね。今回はメンバーが加わったことである意味、より実験的になったと言えるかもしれない。特にエクスペリメンタルなバンドを目指しているわけではないよ。ただ毎回何かフレッシュで新しいことに挑戦したいっていうだけなんだ。その姿勢が実験的な要素をサウンドに持ち込んでいるのかと言われれば、その通りだろうね。新しいものを取り込むこと、それが「実験」の定義そのものだと思うから。

――また、かつてのインタビューであなたは「セカンド・アルバム『Succour』はミックスにとても時間がかかった」と言ってましたが、今回のアルバムに関してはどうでしたか? 音がとても生々しく聞こえました。

M なんで『Succour』のときにあれだけ時間がかかったのか、今になって考えてみるとわからないな。レイヤーもそんなに多くなくてシンプルな作品だしね。それに比べたら今回はすごく簡単だった。生々しく聴こえたのもそのせいかもしれない。今回はドラムやリズムがもう少し前に出てくるようにしたかったんだ。最初の曲のミックスを終えたら、残りの楽曲はすごくスムーズに進んでいったよ。





――アルバム内の「dead guitars」や「step down」、「aug30」といった曲では、まるでHip Hopのスクラッチのようなストレンジなノイズがフィーチャーされていますが、これはギターによるものなのでしょうか?

M 全部ギターだね。今作はほぼすべてギター、ベース、ドラム、ヴォーカルだけで作っているから。「faults」とか、リズム・サンプルを使った曲が数曲あるくらいだよ。シンセサイザーも使ってない。「aug30」にいたってはギターとベースだけなんだ。

――「faults」や「sway」などにはダブの影響が強く現れているように聞こえます。あなたにとってダブとは重要なインスピレーションのひとつなのでしょうか?

M ずっとあったと思う。1stアルバムはすごく大きな影響をダブから受けているんだ。俺は今もダブをよく聴くし、ダブから生まれたダブステップも聴く。「ダブの曲を作ろう」と意識しているわけではないけどね。たぶんヘヴィなベースと、スペースを残した曲の構成がそう感じさせるんじゃないかな。

――他に今回のアルバムを作る上でインスピレーションを受けた音楽や出来事などはありますか?

M 生活そのものかな。当然二人の新しいメンバーが加わった事も大きな影響になっている。以前の作品はすべてロンドンに暮らしていたときに作られているんだ。ブライトンに移り住んで、ロンドンから離れたことが大きいと思う。ここはもっとリラックスしているからね。ここでのアルバム制作は、よりスムーズでよりハッピーなものだったと思う。それは聴き手にも伝わると思うんだ。そしてこれこそ、俺がSeefeelに求めていたサウンドだったんだよ。実際にはこれで4枚目のアルバムになるけど、俺にとっては真のアルバムと呼べる最初の作品のように感じる。多くの人が過去のアルバムを好きなのも知っているし、俺自身も誇りを持っている。だから自分たちのバンド名をこの作品のタイトルにつけることにしたんだ。


“Aphex TwinのRichardとはたまに連絡を取ってるよ
子供の話ばかりだけどね(笑)”



――過去のことを少しお聞きします。そもそものバンド結成のきっかけは何だったのでしょう? バンド結成したときはどのようなヴィジョンを持っていましたか?

M よくある感じだと思うけど、大学生の時にドラマーを募集する告知を見たんだ。それはJustin Fletcherが書いたもので、そうやって俺とJustinがまず知り合った。Mak Van Hoen(*のちにLocustというユニットを結成)は俺の知り合いだったことがきっかけで参加した。Sarahは最初はベースとして加わったんだけど、決して上手ではなくて、でも彼女は歌うことができた。実際のところ、最初の時点ではみんな楽器ができたわけではなかったよ。ただ情熱を持っていた。そうやってスタートしたんだけど、マークが抜けてベースが必要になったときは、新しいベースを探すのに苦労したよ。時間をかけてやっとDaren Seymourを見つけたんだ。当時はそういうふうにバンドを結成するのが普通だったと思う。俺自身がバンドをやろうと思ったきっかけは、Cocteau Twinsかな。13歳とか14歳の頃に彼らを聴いて、生まれて初めて「こんな音楽聴いたことない、自分でもやってみたい」って思ったんだ。音楽はもともと好きだったけど、音楽を作り始めるインスピレーションを与えてくれたのはCocteau Twinsだね。自分達の最初のEPがリリースされたときに、コクトーズのメンバーRobin Guthrieに一枚送ったんだ。「ありがとう」ってメッセージをつけてね。全然期待してなかったけど、返事をもらって驚いたよ(*後に彼らはコクトーズのリミックスを手がけることに)。バンドを始めるに当たって何らかのヴィジョンというものは特になかったと思う。ただ「音楽を作りたかった」という以外にはね。結成した当初は、ノーマルなものとは違ったとはいえ、それでも“歌”が中心だった。それがまったく異なる方向性に進むきっかけとなった瞬間があるんだ。Too Pureと契約する前にすべてを一変して新しいことに挑戦することにしたんだよ。それまではただ音楽を作っているだけに過ぎなかった。

――2007年にファースト・アルバム『Quique』がリイシューされましたが、あのアルバムを改めて聴いてどう思いましたか?

M すごく良く聴こえて驚いたのを覚えているよ。レコーディングが終わったら、ライヴ以外にあまり自分で作品を聴くことはないからね。たぶん10年くらい聴いてなかったんじゃないかな。だから今聴いて良いと思えたことに驚いたんだ。じゃなかったらリイシューのアイディアにもOKを出さなかったと思う。

――初期のEPではAphex Twinが曲をリミックスしていましたね。そして96年には彼のレーベルRephlexからサード・アルバムをリリースしていますが、Richard D. Jamesとはどのような仲なのですか?

M 彼とは出版社が同じで、その会社が持っていたレコーディング・スタジオでミキシングか何かをしていたときにお互いを紹介されて、彼が俺たちのサウンドを気に入って、親しくなったんだ。今じゃもうだいぶ前のことに感じるな。とにかくそこから連絡を取るようになって、もともとはリミックスをし合おうって話だったんだけど、結局彼にやってもらったリミックスがあまりに素晴らしかったから、Rephlexから作品を出すことになったんだ。あの作品も本当はEPのつもりだった。そこから発展してアルバムという形になったんだ。彼とは今も連絡を取り合ってるよ。メールでたまにだけどね。彼は今コーンウォールに住んでいて、二人の子供の父親だからさ。メールも子供の話ばかりだよ(笑)。



from "Starethrough EP" (1994)


――セカンド・アルバム『Succour』でToo PureからWarpに移籍したとき、サウンドが大きく変化したことに驚かされたことを覚えているのですが、この音の変化はどのように起きたのでしょう?

M 多くの人が、Warpに移籍したことによってよりエレクトロニック・サウンドの要素が強まったって考えているようだけど、それは真実ではないよ。当時はツアーで忙しくて、バンド内に緊張感が漂っていたんだ。正直みんなハッピーではなかったと思う。あのアルバムのムードは、当時のバンドの雰囲気を反映している。Too Pureと契約したときは「ミュージシャンになれる!」ってすごく興奮していたけど、現実はそう簡単じゃなかった。だからああいった内省的なサウンドのアルバムになったんだ。『Quique』のときはすごくポジティヴで前向きだったと思う。

――近年School Of Seven Bellsなど、Seefeelがかつて鳴らしていたサウンドを想起させるバンドが登場しているように思います。こういった近年の音楽で刺激を受けることなどはありますか?

M School Of Seven Bellsはリミックスをしたし、よく知っているよ。全部ではないけど、好きな曲もある。彼らのように、シューゲイズの影響から生まれてきたバンドの中にも、際立って優れたバンドというのが存在していると思う。でも・・・簡単には説明できないんだけど、彼らは俺にとって何か謎めいたことをやっているわけではないんだよね。個人的にはどうやって作られたか想像もつかない音楽にすごく惹かれる。Healthとかのやっていることはすごく好きだね。どうやって作っているのかはわからないけど、すごく刺激的だと思う。Shellacもそうだけど、俺が作れない音楽をやっているからね。そういう部分にチャレンジ精神を感じるんだよ。素晴らしい音楽が溢れてるから、どれが好きでどれが嫌いかって言うのはすごく難しい。みんな本気で音楽を作っているわけだしね。

――今後の活動予定を教えてください。ライヴ活動やレコーディングは今後も続けていく予定なのでしょうか?

M 実はもう新曲のレコーディングのデモ制作に取りかかってるんだ。でもまず来年はツアーやライヴをたくさんやると思う。今後はできるだけコンスタントに作品を出していければって思っているよ。既に自分たちの中に、いい作品の存在を感じるんだ。だからすごくエキサイティングだよ。ライヴもどんどんいいものになっていっているし、以前より全然楽しめている。次のアルバムも楽しみだよ。

――最後に抽象的な質問ですが、あなたにとって「音楽」とは何でしょう?

M 多くの人にとって、音楽はエンターテインメントのひとつだと思うんだけど、音楽って俺だけじゃなく、人間にとってもっと重要なものだと思うんだよ。どこへ行っても音楽はカルチャーの中心にある。音楽が政治を動かすこともある。それだけパワフルな存在だってことさ。政府を脅かすミュージシャンがいるくらいだからね。


Seefeel『Seefeel』(Warp / Beat)


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