No Chill Wave

ファースト・アルバムのジャケをサンドペーパーにしたのはDurutti Column。ファースト・アルバムでメロディをサンドペーパーみたいなノイズでゴシゴシこすりまくったのはJesus & Mary Chain。で、そんな「サンドペーパー・テクスチャー」を応用して「ポップの新しい基準を確立した」(by Brian Eno)のがMy Bloody Valentineだとすれば、そのテクスチャーを2010年に異なる角度から再び応用しているのがこの「女性たち」。
2008年発表のデビュー作では、かつてのNo Waveを思い起こさせる刺々しくヒリヒリとしたノイズをフィーチャーした不穏な曲と、60年代サイケ・ポップを追想させる甘いメロを持った曲とが割とはっきり分かれていたのだけど、今作ではその境目が徐々に取り除かれてきている。そのため、かなりいびつだったアルバムの流れ(ある程度意図的なものだったにせよ)がより滑らかになった。個々の曲の音の質感はサンドペーパーの表面のように粗くなってきているのに対して。

これは逆に考えると、いくらノイズで乱しても美しさが感じられるような曲(初期Pink Floydの霊が漂う「Eyesore」参照)が書けるようになったというバンドの成長に対する自信の表れなのかもしれない。ただ、かつてMBVやそのフォロワーたちがメロディをノイズの中に包み込むようにして、お互いを融合させることで「ノイジーなのに何故か耳に優しい」というサウンドを創造していたのに対して、今作におけるWomenのアプローチ(特に「Drag Open」や「Narrow With The Hall」、「China Steps」といった曲)では、メロディとノイズはあくまで融合しない。

ノイズは吹雪のように寒々しい「ノイズ」であり、一方でメロディは耳に暖かい「メロディ」のままだ。ただ、J&MCのデビュー作のようにこのふたつが終始並列されているというわけではなく、そこから生じる「違和感」をエコーを触媒にしてじんわり滲ませながらある種の「効果」として提示することで、一般的に呼ばれるシューゲイズとはまた別の、頭の奥が徐々に麻痺していくような陶酔と覚醒の入り混じった感覚を呼び覚まそうとする試み・・・MBV以前のバンドがサンドペーパーを擦ることで鳴らし、生じさせていたものを再び意識的に磨きあげようとする試み・・・または低温火傷の正確な音像化・・・それがこのアルバムなのだと思う。


吹雪の白い残像が、ザラザラしたもので写真を引っ掻いたのと同じ効果を持っていることが、本作のジャケ写でほのめかされているように。

★★★★☆

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