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Ariel Pink's Haunted Graffiti - Before Today
評価:
4ad / Ada
(2010-06-08)

これは革命ではない

Ariel Pinkは怪獣である。すまし顔をした人間の、プライドという名の芝生を蹂躙し、価値観という名の建物を破壊するためにやってきた怪獣である。その点において、彼はパゾリーニの『テオレマ』におけるテレンス・スタンプであり、カラックスの『メルド』におけるドニ・ラヴァンでもあり、本多猪四郎の『ゴジラ』なのかもしれない。
怪獣は嫌われる。なぜなら普通の人たちや、普通のポップ・ミュージックと同じ外見をしていないからだ。そのせいか、8トラックのホーム・レコーディングによる劣悪な音質で量産され、Animal Collectiveのメンバーが主宰するPaw Tracksから立て続けにリリースされてきたAriel Pinkの音楽は、長らく正当な評価を受けてこなかった。「こんなケダモノに、わたしたちの好きなバンドと同じポップ・ミュージックを作れるはずがない」云々。

ところが人間とは身勝手なもので、ある時期を境に、怪獣が“珍獣”としてもてはやされるようになったのである。きっかけは、Real EstateやKurt Vile、Toro Y MoiやNeon Indianといった若い世代のアーティストたちが、口々にその影響を公言し始めたことだった。その結果、当の本人が一向に新作をリリースする気配の無いまま再評価の気運は高まり、“ファザー・オブ・チルウェイヴ”なる本末転倒な称号まで頂いてしまった彼は、ついにUKの名門インディー・レーベル、4ADと契約するに至ったのである。

舞台は整った。もしここで以前のような宅録のローファイ・ポップ・アルバムをリリースしていたなら、それはきっと新しいファンにも、すんなりと受け入れられたことだろう。

しかし、Ariel Pinkは怪獣である。人の喜ぶことをしないのが、怪獣の怪獣たる所以である。こともあろうに、腕利きのミュージシャンたちをバックに従えて初のスタジオ録音に挑戦した彼は、エンジニアにベテランのRic Pekkonenを起用。その経歴はT-RexからIggy Popまで多岐に渡るが、一般的には、Crusadersの作品を手掛けたことで知られる人物だ。Crusaders! レコード屋でクズ同然の値段で投げ売られていても誰も見向きもしない、しかし素晴らしい技術を持った、フュージョン界のスーパー・バンドである。かくして最高のアマチュアリズムは最高のプロフェッショナリズムと出会い、結果として生まれたのが、パンク・ロックとAORの愛の無いセックスによって出来た私生児とも言える、世にも奇妙なアルバムだったのだ。

初めて本作を聴いた人たちは、きっと戸惑うことだろう。あなたが聴いてきたどんな音楽とも違うし、それはむしろ、あなたが嫌っていたはずの音楽に似ているからだ。けれども、もう流れを止めることはできない。Ariel Pinkは今やヒップな存在であり、4ADというヒップなレーベルからリリースされた本作は、Pitchforkというヒップなメディアに、Best New Musicに選出されてしまったからである。かくして、復讐は遂行された。あなたの愛したAriel Pinkは、あなたがかつて殺した音楽の子供であり、私たちの街は、私たちが生み出したAriel Pinkというヘドロ怪獣によって、粉々に破壊されるのである。

けれども人間の欲望というのは恐ろしいもので、それはきっとこの怪獣さえも飼い馴らし、ファッションとして消費しようとするだろう。ダークスーツに身を包み、メンバーと並んでお行儀良くジャケットに収まった本作は、一見そんな意向に従ったかのように映るかもしれない。

しかし、聴き逃してはならない。本作に収録された「L'estat」における「チョアー!」という叫び声こそが、現代社会に現れた最後の怪獣Ariel Pinkの、「そうはさせない」という必死の抵抗なのだ。

MySpace - Ariel Pink's Haunted Graffiti
Posted by 清水祐也
REVIEWS / 05:15 / comments(1) / trackbacks(0)
COMMENT
カリフォルニアの悪夢


「エンドレス・ハーモニー」という言葉がある。これは一見ポジティヴな言葉に聞こえるけれど、ある意味では「半永続的な耳鳴り」とも捉えられる。すなわち悪夢だ。

カリフォルニアといえば爽やかなイメージが一般的だけれども、例えばBB5の裏事情などを知ってしまうと、いったんその爽やかな海岸から街の裏通りを入ったところには思わず目を覆いたくなるような、大きくて深い闇が眠っているはず、なんて行ったこともないのに思わず確信してしまう。

Ariel PinkがこれまでLAの自室で宅録でシコシコと作り続けてきた音源は、その宅録ならではのAM的質感が、何だか夢の中で歌っているかのように朦朧とした非現実的で享楽的な響きを含んでいた。しかし、80年代には暗黒/耽美レーベルとして名を馳せた老舗インディ4ADからリリースされたこの「スタジオ」・アルバムは、そんなモワっとした空気感がクリアになったことで、奇しくも(高校時代にバウハウスやシスターズ・オブ・マーシーをよく聞いていたという)彼の暗黒部分がクローズアップされている。まるで、これこそが本当のカリフォルニアだといわんばかりに。

言い換えると、音の輪郭は若干くっきりした(それでも通常の感覚からすると有り得ない録音レヴェルなのだが)けれども、かえってその悪夢の「悪」の部分・・・・・・すなわち、ぬめっとした質感、奇妙な曲の構造、唐突なファルセット(もしくは奇声)、ブツブツいう呟き、全体を覆うダウナーさ加減といった諸要素(=アリエル・ピンク)のもつ異端性が以前よりもリアルに浮かび上がってきていて、よく灯りをつけっぱなしにしてそのまま眠ってしまったときに見る、現実の出来事と非現実とがミックス/マッシュアップされてしまう浅い眠り特有の夢世界の不条理さにも通じる感覚をもった世界観が非常に気持ち悪(良)い。

ここで嫌というほどわかるのは、Ariel Pinkはどんなに周りの環境が変わろうとも「Ariel Pink」だ、ということ。「俺は俺でしかない」。それはせっかくAaron Sparskeという名プレイヤーが叩いているのに依怙地なまでにドラムの録音レベルが低いことからも明らかだ。ただ、宅録ならではの自由奔放さや我侭をつらぬくことが若干困難であるが故に、そのような状況に対するステートメントが「Round and Round」でのテープがゆるんだかのようなグルーヴによるふてくされ気味のソウル/AOR色に表れているようにも思えるし、あと、アルバムを締め括る「Revolution's A Lie」が、以前は「Evolution's A Lie」というタイトルだったことからは、思わず以下のような深読みを誘発させる。

「進化」による「革命」は嘘で、たしかに個々の生活は非常に便利になってきているのだけれど、街からは数多くのレコード屋が消滅し、ミュージシャンやそれに携わる人々はのっぴきならない状況に陥っていて、多くの人々が実際には不幸になっているという現実。かつては「これは夢なんだ」で済んでいたことがもはや「夢では済まされない」ものになっているという悪夢。

ここに提示されているのは、ひどく不器用で正直なひとりの小男による、そんな悪夢の明確な聴覚化だ。

★★★★★
| 佐藤一道 | 2010/06/08 12:37 PM |









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