[FEATURE] MONCHICON'S BEST ALBUMS OF 2023



コロナによる規制が緩和されて来日公演が活発になる一方で、レコードのセールスは伸び悩み、海外作品の国内リリースもままならないことが増えた2023年。配信サービスの普及で多くの作品に気軽にアクセスできるようになった分、その作品の背景や意図をきちんと伝える役割が、ますます重要になってくるような気がします。

と言いつつ、打診していたインタビューが実現しなかったり、忙しさにかまけて更新が滞ってしまったのが心残りですが、今年はより一層充実できることを祈りながら、モンチコンが選んだ2023年のベスト・アルバム15枚の発表です!


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[FEATURE] Cat Power Talks Dylan〜キャット・パワー、ディランを語る


photo by Inez & Vinoodh

実際にはマンチェスターのフリー・トレード・ホールで録音されたにもかかわらず、誤って表記された海賊盤が出回っていたため、長らく“ロイヤル・アルバート・ホール”として親しまれてきた、1966年5月17日のBob Dylanのコンサート。途中でDylanがギターをアコースティックからエレクトリックに持ち替え、のちのThe Bandのメンバーをバックにしたセットを披露したことから、保守的な観客のひとりから「ユダ!」と野次を飛ばされたことは、今でも語り草になっている。

そんな伝説の一夜をCat Powerがロイヤル・アルバート・ホールで全曲再現した昨年のコンサートが、この度Dominoからアルバム化される運びとなった。これまでに何度もDylanの曲をカバーしてきた彼女だけに感慨深かったに違いないが、実現に至るまでの経緯を聞いたところ、図らずもキャリアを総括するようなインタビューとなったので、Cat Powerの音楽を聴いたことがないという人も、ぜひ読んでみてほしい。


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[TRACK BY TRACK] Water From Your Eyes


photo: Eleanor Petry

PavementやSpoon、Interpolのフロント・アクトを経て、Matador移籍第1弾となるアルバム『Everyone's Crushed』をリリースしたNate AmosとRachel Brownによるブルックリンのデュオ、Water From Your Eyes。可哀想な動物の視点から書かれたアルバムをリリースしたかと思えば、EMINEMの「Lose Yourself」を大真面目にカバーしたりと聴き手を常に混乱させてきた彼らだが、本作でも人を食ったようなその姿勢は貫かれている。

電子音がアラームのように鳴り響くリード・トラックの「Barley」はStingの「Fields of Gold」から歌詞を拝借したものだし、タイトル曲では“わたしは愛する人たちみんなと、傷つけるものすべてと一緒にいる”という一文が少しずつ形を変えながら繰り返され、ストリングスがしめやかに鳴り響く「14」で聴き手を感傷的にさせたかと思えば、“ハッピーエンドなんてない/あるのは出来事だけ/わたしの製品を買って”と歌う「Buy My Product」で、突き放すようにアルバムは締めくくられるのだ。

しかしながら、社会的、個人的混乱の中で産み落とされたというこの『Everyone's Crushed』は、そんな彼らがノイズやシュールな言葉遊びの下に隠してきた核心が、意図せず表れた作品だと言えるかもしれない。全曲の歌詞とヴォーカルを担当し、以前は映画の編集の仕事をしていたというRachelならではのエディット感覚とユーモアが横溢するアルバムについて、演奏とプロデュースを手掛けるサウンド面での首謀者Nateが、その背景を1曲ずつ解説してくれた。



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[FEATURE] MONCHICON'S BEST ALBUMS OF 2021



あらゆることがドローのまま終わった2020年の、延長戦のようだった2021年。結局海外アーティストの来日公演やフェスティバルも完全な形では再開せず、ジャンルやリスナーの細分化が進み、たくさんの人たちが同時に熱狂するような作品も、生まれにくかったのかもしれません。

かくいう自分も以前に増して過去のレア盤や古典映画ばかりを掘り漁るようになり、twitterを見て「ここはインディー・ロックのアカウントじゃなかったのか?」と戸惑った人も多かったかもしれませんが、「そもそもモンチコンってそういうサイトだったよね」という気もするし、世界中の動きが停滞している状況で、あまり周りを気にせず好きなことに没頭できるこの時間も、ある意味では貴重なのではないでしょうか。

というわけで、油断すると趣味に走ってしまいそうになる自分に最近のトレンドを教えてくれるライターさんや周りの方々に感謝しつつ、2021年のベスト・アルバム10枚と、惜しくもそこからは漏れたものの、ぜひ聴いてほしいアルバム5枚の発表です!

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[FEATURE] 神々たちの球戯〜Dessner姉弟とBig Red Machine



Bon IverのJustin VernonとThe NationalのAaron Dessnerによるプロジェクト、Big Red Machineの新作『How Long Do You Think It's Gonna Last?』が今週金曜日にリリースされる。

本作は2018年の『Big Red Machine』に続くセカンド・アルバムだが、彼らはAaronと双子のBryceがキュレーターを務めた2009年のチャリティ・コンピ『Dark Was The Night』にもJustin Vernon + Aaron Dessner名義で「Big Red Machine」という曲を提供しており、2012年にイギリスのメディアINDEPENDENTに掲載されたインタビューにも、“Big Red Machine”というフレーズが登場している。これが興味深い内容だったので、一部を抜粋して紹介することにしよう。

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[FEATURE] There's No Place Like Home〜Sufjan StevensとAngelo De Augustineのオズへの旅



9月24日にリリースされるSufjan StevensとAngelo De Augustineのコラボレート・アルバム『A Beginner's Mind』は、収録された全14曲が何らかの映画をモチーフにしているという。『イヴの総て』('50)や『ハートブルー』('91)など、公式サイトに名前が挙げられているいくつかの作品のうち、ウォルター・マーチ監督の『オズ』('85)とスパイク・リー監督の『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』('85)だけは日本でDVD化されていないが、幸いにも前者はディズニープラスで、後者はNetflixで配信されているので見ることができた。

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[TRACK BY TRACK] Julien Baker

photo by Alysse Gafkjen

メンフィスのシンガー・ソングライター、Julien Bakerの4年ぶりとなるサード・アルバム『Little Oblivions』のジャケットに描かれた自画像は、まるでリングのコーナーに座るボクサーのようだ。顔中に痣を作りながら、それでもスポットライトを浴び、リングに上がり続けるパンチ・ドランカー。自分自身に向けられた拳のような言葉は研ぎ澄まされ、一切の甘えや妥協、慰めを許さないストイックな姿勢は、見ていて怖くなるほどだ。

そんな彼女のセコンドを務めたのが、古くからの友人でもあるエンジニアのCalvin Lauber。Julienが結成したグループ、boygeniusのメンバーでもあるPhoebe BridgersとLucy Dacusがバッキング・ヴォーカルで参加した「Favor」を除けば、地元メンフィスでふたりだけでレコーディングされたという本作には、これまでの作品では聴かれなかったエレクトリック・ビートやノイズが導入され、暴走する車のように加速度を増していく。

信仰療法師や麻薬の売人、光に飛び込んで死んでしまう一匹の蛾、夜が明けると狼の巣に戻っていく狼少年──人間関係における、ありとあらゆる中毒と依存について歌ったというアルバム『Little Oblivions』について、Julien本人が語った全曲解説が届いたので、ここにその全文を掲載することにしよう。


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[PHANTOM JUKEBOX] Aaron Frazer(Durand Jones & The Indications)が教えるとっておきの10曲



古き良きオーセンティックなソウル・ミュージックを現代に甦らせるインディアナ州ブルーミントンのバンド、Durand Jones & The Indications。そのドラマーでありながら大半の楽曲のソングライティングを担当し、フロントマンのDurand Jonesとマイクを分け合っていたAaron Frazerが、The Black KeysのDan Auerbachが主宰するEasy Eye Soundから、初のソロ・アルバム『Introducing...』をリリースした。

そこで今回は、自身も熱心なリスナーであるAaronが、アルバムに影響を与えたお気に入りの10曲をセレクト。その類い稀なるソングライティング・センスと、美しいファルセット・ヴォイスの秘密に迫ってみた。

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[SONG OF THE DAY] Rostam - These Kids We Knew



元Vampire Weekendで、現在はプロデューサーとしてもClairo、Haimなどを手掛けるRostamことRostam Batmanglijが、昨年の「Unfold You」に続く新曲「These Kids We Knew」を公開しました。

Haimのサポート・メンバーとして人気TV番組『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』に出演、「The Steps」を演奏した昨年3月の第2週にコロナウィルスに感染したことが判明し、熱でうなされながら書いたというこの曲は、地球温暖化を自分たちの問題として考えない大人たちと、その影響を間違いなく受けるだろう、若い世代について歌っているそうです。本人が監督したビデオと一緒にご覧ください!

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